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異世界行っても料理する ~料理して材料集めてまた料理~  作者: デビルぱんだ


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六十話 リハーサルと包丁

 セリアという頼もしい仲間を迎えた翌朝。改築工事がいよいよ大詰めを迎えながら、新店舗となる建物のほぼ形になった客席を使って開店前のリハーサルをした。


 セリアは元Bランクの冒険者だけであって体幹がしっかりしておりトレイを持つ手元も全くブレない。


「セリア、まずは基本の歩き方とトレイの持ち方からだ。冒険者として足音を止める歩き方は素晴らしいんだが、店の中では逆にお客様に『自分が近づいていること』を自然に知らせる必要がある。気配を完全に消して後ろから料理が出たら、お客様が見て飛び上がっちゃうからな」

「なるほど……。気配を消すのが長年の習性になっていました。若干足音を少し響かせ存在を主張するのですね。承知いたしました」


 セリアは真剣な面持ちで話し、メモついでにアイリスの横で何度も客席の間を往復した。


「次は料理の提供時の細かい所作だ。出すときは必ずお客様から見て『ご飯が左、スープが右、メインのおかずが中央奥』になるように配置してくれ。これが基本の並び方だ。それから、お皿を置くときは大きな音を立てず、静かに指先を添えてな」

「ご飯が左、スープが右……。相手への礼節、あるいは陣形の基本のようなものですね。体に叩き込みます」


 セリアの解釈がいちいち武骨で冒険者寄りなのが面白いが、飲み込みは驚くほど早い。さらに接客についての心構えも、俺は三人に向かって重要な方針を伝えた。


「接客の基本は屋台のときと同じだ。笑顔でお客様をお迎え、丁寧に対応すること。だけど――もしもお店で何か問題やトラブルが起きたときは、絶対に一人で対応しようとしないでくれ。俺を呼ぶか、他の人に声をかけて対応すること。いいな?」


 俺がそう言うと、セリアが少し意外そうな顔をして片方の耳をピクリと動かしました。


「カケル殿、私の腕力であれば戦場の荒暴な冒険者や酔っ払いは一人で無力化できますが……?」

「セリアの強さは信じてる。だけどここは戦場じゃなくて『お店』だ。一人で力ずくで解決しようとしたら、他のお客さんが怖がってしまうかもしれないし、何より周りの人やセリア自身に怪我をしてほしくない。だから最初に全員で状況を共有して、一番穏便な方法で解決する。それがこの店のルールだ」


 俺の言葉にセリアは琥珀色の瞳を少し見開いた後、深く胸を打たれたように頭を下げた。


「カケルさんの言う通りですよ、セリアさん。私たちチームなんですし、困ったときはみんなで押し込むのが一番です!」


 ルナが胸を張って笑う。


「ええ、私もすぐに異変に気づけるよう目配りしておきます」


 アイリスも頼もしく微笑んだ。


「そのかわり、一方的に暴力を振ってくるようなやつだったり身体を触ってくるようなやつは容赦せずに制圧してくれ。制圧後には必ず誰かを呼ぶようにな」


 接客と給仕のシミュレーションがひと段落したところで、次は厨房の体制について話し合った。


「しばらく調理のほうは基本的に俺がすべて担当する。将来的にはアイリスとルナにも作ってもらう予定だけど、まずは交代で厨房のサポートに入ってもらいたいんだ」

「はいっ! カケルさんのサポートならお任せください!」

「微力ながら盛り付けやスープの火加減など、お手伝いさせていただきます」

「頼りにしてるよ。じゃあ実践を兼ねて、今日の昼飯を今から作ろう。メニューは『生姜焼き定食』と『野菜炒め定食』だ。二人は俺の動きを見てサポートの動線を確認してくれ。セリアは出来上がった料理を客席まで運ぶ練習だ」


 厨房に入り俺は一気に料理人の顔になる。土鍋でツヤツヤの白米を炊き上げ、野菜を使ったスープを完成させ、メインである生姜焼きと野菜炒めを作っていく。


「アイリス、スープの準備を。ルナ、ご飯を器に盛ってくれ。セリアはトレイを用意して!」


 初めての連携を取ってみたが、屋台での経験があるからか驚くほどスムーズだった。皿にキャベツの千切りをのせて生姜焼きをのせ、野菜炒めも皿にのせて完璧な「定食」が完成した。それをセリアが席まで運ぶが問題はない。


「さあ、とりあえずリハーサルは終わりだ。みんなで食べよう!」

「……んん〜っ! やっぱりカケルさんの料理は最高です!この白いご飯と一緒に食べると、美味しさが何倍にもなります!」


 ルナが口いっぱいに頬張りながら幸せそうに声を上げる。


「本当に……。この味付けが、淡白で可愛らしいご飯と合うことで完璧に調和しています。これは間違いなく、王都の人気メニューになります」


 アイリスも感動しながら食べている。

 新入りのセリアはというと生姜焼きを一口食べた瞬間、黒い尾を信じられないほどの速さで左右に振っていた。


「あはは、落ち着けよセリア。よし、昼飯を食べ終わったら午後は各自で接客や配膳の練習をしてくれ。俺は、ちょっと用事があって外出するから」

「用事、ですか?」


 アイリスが不思議そうに首を傾げる。


「ああ、ちょっと『バルトの工房』までな。用意しておきたいものがあるんだ。差し入れにトンカツと唐揚げを作ったんだが、残っているから欲しかったら練習の合間にでも食べてくれ」

「わーい! ありがとうございます!」


 ルナに見送られて俺は差し入れを持って下町の鍛冶職人街へと向かった。


 カン、カン、カン、カン!と火花が散り、熱気と鉄の匂いが立ち込める鍛冶職人街の奥。そこに俺の愛用する包丁を作ったバルトの工房がある。


「バルト、いるか?差し入れを持ってきたぞ」


 奥の鍛錬場に向かって声をかけ、汗だくで槌を振るう男が不機嫌そうに顔を上げた。


「ん!?誰かと思ったらカケルじゃないか!ったく、君が俺の包丁を宣伝するもんだから工房の注文が半年先まで埋めまっちまったぞ!飯を食う暇もねぇ!」


 口では怒っているものの、その目は嬉しそうだった。職人として自分の作った刃物が評価されるのは本望なのだろう。


「すまんな、バルト。忙しそうだから最高の賄いを持ってきたんだが……いらなかったか?」


 俺がニヤリと笑いながら蓋を開けると、トンカツと唐揚げの香ばしい匂いがフワリと浮かんだ。


「――ぶっ!?お、おい、これは……あの王族を唸らせたっていう肉料理か!?」


 バルトは一瞬で槌を置き、ゴシゴシと手を拭いてから飛びついて来た。


サクッ……ジュワァァ。


「……う、美味すぎる……!なんだこの肉の柔らかさは!中から溢れる肉汁がたまらねぇ!こりゃあ、エール(酒)が欲しくなる味だ!」


 続いてトンカツをバクリとやり、バルトは職人としての誇りを綺麗に忘れて貪り食った。


「ふぅ……。生き返ったぜ。カケル、お前の料理は相変わらず悪魔的なんだな。……で、これだけのモノを持って来てるってことは、ただの挨拶じゃねえだろ。俺に何の用だ?」


 バルトが満足そうにしながら鋭い目で俺を見た。


「さすがバルト、話が早い。実は自分の『店』を構えることになったんだ」

「ほう、ついに店を持つか!それはめでたい」

「そこで、一緒に働く仲間……アイリスとルナの二人にもちゃんとした『専用の包丁』を持たせてやりたいんだ。まだまだこれからだけど厨房にも入ってもらうから、道具が一流じゃなきゃ腕が活かせないだろ?」


 バルトは腕を組み、ふむと鼻を鳴らした。

 俺は懐から今朝二人が寝ている間……ゲフンゲフン、いや、リハーサルの合間にこっそりと(そして正確に)測っていた二人の『手の大きさ』と『指の長さ』を書いたメモを取り出した。


「これがアイリス。少し指が短くて窮屈だけど、書類仕事が多いからか手先の器用さは抜群だ。あまり重すぎず、刃先が繊細に動かせるようにしたい。こっちがルナ。アイリスより指が少し太くて力がある。魔法を使うから手首のバネが強い。少し重心が前にあったほうが扱いやすいと思う」


 バルトはそのメモを捉え、じっと見つめた。職人の目、一瞬にして真剣なものになるがふっと変わる。


「……ほう。ここまで細かく測ってくるとはな。本当に嬢ちゃんたちのことをよく見てる。よし分かった。このバルト、注文が詰まってようがカケルの店の料理人の包丁となれば、最優先で打ってやるよ!」


 バルトは力強く自分の胸を張った。


「最高の素材を使って、あの嬢ちゃんたちの手に吸い付くような、一生モノの業物を仕上げてやる。楽しみに待ってろ!」

「ありがとう、バルト。頼りにしてるよ」


 しっかりとした約束を交わし、俺は熱気溢れる工房を後にした。信頼できる職人に道具を任せ、店では信頼できる仲間たちがそれぞれの課題に向かって汗を流している。


 俺は夕暮れの王都を歩きながら、胸の奥から湧き上がる熱いものを感じて楽しかった。みんなの想いが詰まった新しい店が、もうすぐ産声を上げようとしている。



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