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異世界行っても料理する ~料理して材料集めてまた料理~  作者: デビルぱんだ


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五十三話 新メニュー会議とレシピ提供

 昨日ベッドに倒れ込むように眠りについた俺は朝の光とともにすっきりと目が覚めた。しかし頭の片隅に残っていた「新メニューの課題」は一晩寝たくらいでは解決するわけがない。屋台のスペースの限界、食べやすさ、そしてコスト。料理人としてのこだわりと、商売としての現実が頭の中で複雑に絡み合っている。


 朝食が終わった後、俺はリビングのテーブルにアイリスとルナを集めた。

 俺の言葉に、二人は真剣な表情でテーブルに身を乗り出してきた。


「新メニューですか!カケルさんの新しいお料理、私すっごく楽しみです!」

「カケルさんが悩むということは、なにか問題があるのですね?」


 俺はメモを示しながら自分の考えを二人に説明した。


「ああ、味の方向性はいくつかあるんだが、問題は『屋台での食べやすさ』なんだ。王宮で出したトンカツと考えたんだが、あれは皿とかフォークがないと食べにくい。あと前に試作した串焼きがあるんだが、今の屋台に直火のグリルを置くスペースがない」

「うーん、確かに串焼きは美味しいけど場所取っちゃうよね……」


 ルナが人差し指を顎に当てて唸る。


「カケルさん、私の視点から言わせていただきますと、新メニューは『食べやすさ』だけでなく、梱包のコストも大切です」


 アイリスが鋭い指摘を投げかけてきた。


「唐揚げやフライドポテトもそうですが、今は専用の串や紙箱がありますよね。これは歩きながら食べるのに最適ですが、新メニューを出すたびに新しい形状の箱や串を導入すれば仕入れコストがどんどん上がっています。できれば今ある設備と串や紙箱をそのまま流用できるか、あるいは『箱も串も使わずに手軽に食べられるもの』が理想です」

「箱も串も使わない、か……」


 俺は腕を組んだ。そんな都合のいい肉料理があれば悩まないんだがな。


「肉じゃなくて、魚にするっていう手もあるな。魚のフライとか……いやダメだ、トンカツと変わらないな」

「あ!魚のすり身丸めて揚げるとかどうですか!?」


 ルナがひらめいたように手を挙げた。


「それなら今の油鍋で揚げられますし、唐揚げみたいにコロコロして食べやすいですよ!」

「いえ、魚のすり身は傷みやすいです。いくら氷魔法で保存したとしても屋台で大量に常備するのは衛生的にリスクが高すぎると思います」


 アイリスが即座に現実的なダメ出しをする。


「じゃあ、バイソン肉を伸ばして……」

「薄切り肉の安定調達は、今のギルドの流通ルートだとコストが合いません」


 あーでもない、こーでもないと検討を続けたが、アイデアを出してはコストや設備の壁にぶつかり、一方向に結論が出ない。


「……ダメだな。完全にまとまらない。焦って中途半端のものを出すくらいなら、新作は見送ろう。ただ、城で出した塩の唐揚げはすぐにでもできる。明日から塩唐揚げを増やして、一旦様子見かな」

「賢明な判断です。そこのメニューの供給量が増えたほうが、確実な利益に繋がります」

「いいですね!いつもの醤油唐揚げと一緒にできますし。ただ間違えないようにだけしないとですね」


 とアイリスもルナも同意してくれた。


 ひとまずの方向性が決まり、張り詰めていた空気が緩んだちょうどその時だった。


 コンコン、と我が家の玄関の扉が小さく叩かれた。アイリスが席を立って扉を開けると、そこには仕立ての良い衣服を纏った見覚えのある男が立っていた。


「失礼いたします、カケル殿。ガストン様からの伝言を預かってまいりました。『可能であればガストン商会までお越しいただきたい』とのことです」

「ガストンから?分かった、準備したらすぐに行くよ」


 俺はジャケットを羽織り、アイリスとルナに留守番をお願いして家を出た。

 ガストン商会につくと豪華な応接室に通され、そこにはガストンが満面の笑みで待っていた。


「カケルさん!お待ちしておりました。……いやぁ、聞きましたよ。王宮で王妃様の命を救ったそうじゃないですか!あなたという男は、私の想像を遥かに上回る奇跡を起こしますな!」

「どこからそんな情報が漏れるんだ……。まぁ、スープを作ったのは事実だが」


 俺はソファに腰掛けた。


「商人の情報網を甘く見てはいけませんよ。……さて、今日カケルさんをお呼びしたのは、その王宮も震撼させたあなたの看板メニュー――『唐揚げ』と『フライドポテト』についてです」


 ガストンの目が鋭い商人のものに変わった。


「カケルさん、単刀直入に申します。あの二つの料理の『レシピ(調理法)』を、商人ギルドに提供する気はありませんか?」

「レシピの提供?」

「はい。あなたの唐揚げとフライドポテトは、今王都中で広まっています。売り上げもかなりのものでしょう。そんな唐揚げやフライドポテトを真似して色々な料理人が自作しているようですが、どうやってもあなたの作る唐揚げやフライドポテトのようにおいしくできないと聞きます」

「そうなのか?たしかに唐揚げなんかは調味料だったり油での揚げ方にはこだわっているが、絶対に真似できないなんていう料理じゃないぞ?」


 変な話、大雑把に作ったとしても不味くなることはないと思う。俺の作る唐揚げほどじゃなくても食べられるくらいには……いや、この世界のレベルを考えると難しいほうなのか。


「そこであなたのレシピを商人ギルドが管理し、正しい適切な方法で他の中小店舗や宿場町にライセンスとして販売する。もちろん、あなたには莫大な権利収入が入るというわけです。いかかでしょうか?」


 ガストンの提案は、俺にとって予想外のものだった。自分の料理がこの世界の商業規模で動こうとしている。


「今の段階で簡単に決められないと思いますので条件や契約の詳細については商人ギルドの本部でしっかり話を詰めましょう。今から商人ギルドマスターが時間を空けてくれているので一緒に行ってくれますか?」

「……わかった。話だけでも聞いてみよう」


 ガストンの馬車に同乗し商人ギルド本部に到着した。案内されたのは一般の商人が立つことのできない、最高級の調度品に囲まれた特別応接室だった。

 そこに座っていたのは、仕立ての良いローブを纏い、白髪を綺麗に整えた老紳士。彼こそがこの王都の経済を牛耳る商人ギルドマスター、サミュエルだった。


「初めましてカケル殿。お噂はかねがね。王妃様を救った料理人にこうしてお会いできて光栄ですな」


 サミュエルは穏やかな笑みを浮かべながらも、その奥にある瞳はすべて透かすような冷徹な光を放っていた。


「さて、ガストンから大体の話は聞いていると思いますが、我々商人ギルドが提案したい契約について詳しく説明しましょう」


 サミュエルは羊皮紙に書かれた契約書をテーブルに広げた。


「まずはレシピを提供していただけるという『契約金』をギルドからお支払いします。この金額は現在の販売実績であったり、今後の販売見込みから算出して決めさせてもらいます。またカケル殿が考案された『唐揚げ』と『フライドポテト』は、調理法自体はシンプルで模倣されやすい。しかし君が使う『調味料の配合』や『油で揚げる技術』の核心は、まだ誰も真似できていない。これを『独占技術』として登録します」


 サミュエルは指を一本立てた。『独占技術』は言わば著作権のようなものだ。


「契約を結べば、ギルドが公認した店舗のみにこの技術を公開、販売を許可します。無断で真似をした店にはギルドの権限で強力な罰則を科します。多少のアレンジをして販売することは容認していますが、そもそもの味を変更して販売した場合も罰則を科します。そして公認店が収益を上げた金額の数パーセントが永続的に『考案者利益』としてカケル殿の懐に転がり込む仕組みです。君は屋台に立ち続けながら王都の富豪に匹敵する富を得る事になる」


 俺は契約書をじっと見つめた。商人側から終わりのない金の山が提案されている。


(……悪くない話だな。レシピが広まれば、俺が作らなくても遠くの街の人間が唐揚げを食べて笑顔になれる。そうすると真似されて味の落ちたものが出てくるより、ギルドが品質を管理してくれた方が料理の価値も守られる)


「カケル殿が雇った従業員などに教えることは違反にはならないが、無断で他の店の料理人などに教えた場合はカケル殿にも違約金が発生します。カケル殿が雇った従業員が独立して唐揚げやフライドポテトを販売するとなった場合も商人ギルドへ登録が必要となります。またカケル殿がレシピを無断で公にした場合、内容や規模によって違約金が発生することになります」


 ルナやアイリスがもし独立するときには注意だな。まぁ違約金に引っかかるようなことはまずすることはないだろう。


「もう一つ理由があります。唐揚げやフライドポテトのレシピを探ってあなたやあなたの従業員を脅したりする輩がいないとも言えません。この先のことを考えると提供していただけると安全面でも安心だと思う」


 たしかに、ないとは言い切れない。ここは前の世界とは違う世界だ。前の世界の常識なんて通用しない。


「……承知した。ただ条件がある。一つ目にレシピを開示する店は商人ギルドが信頼できる店だけこの味を任せてほしいこと。金を払うからレシピを教えろと言うようなやつは却下だ。二つ目に現状としては俺もまだまだ唐揚げやフライドポテトを販売する予定だ。同じ屋台などで販売するようになって俺のところが売れて他が売れない、なんてことになっても文句は言わせないこと。最後に、まだ俺は王都にきてから日が浅い。商売のことについてもわからないことも多いだろうが、これからもよろしく頼む」


 俺の言葉に、ガストンもサミュエルも満足げにうなずいた。


「素晴らしい経営判断だ。カケル殿、君はただの料理人ではなく、優れた商人の血も流れているようだ。条件は全て受け入れましょう。そして、こちらこそこれからもよろしく頼むよ」


 新たに書き直された羊皮紙の契約書に、俺はペンを走らせサインを記した。ガストンとサミュエルがそれぞれサインを重ね、契約は成立した。


 商人ギルドを出る頃には夕暮れの赤い光が王都の街並みを美しく染め上げていた。家へ戻るとアイリスとルナがそわそわしながら待っていた。


「おかえりなさい、カケルさん!ガストンさんからの御用は何だったのですか?」

「カケルさん、かなり重大なことだったのですか?」


 俺はリビングの椅子に座り、上着を脱ぎながら二人に事の顛末を話した。


「えええええっ!? じゃあ今後、街中の宿屋とかでカケルさんの唐揚げが食べられるようになるんですか!?」


 ルナが目を丸くして叫ぶ。


「宿屋どころではないですよルナ。ギルドが品質を管理すれば、カケルさんのブランド価値は絶対的なものになります……」


 アイリスは契約の規模を一目見て、感嘆の溜息を漏らしていた。


「まあ、そういうことだ。俺たちは今まで以上に、目の前の客に最高の料理を出せばいい。周りが追い付いてこれないような、圧倒的な本物の味でな」


 俺の言葉に、二人は力強くうなずいていた。

 新しいメニューこそ決まらなかったが、俺の料理はこの世界の仕組みを変えようとしている。 その大きなうねりを感じながらも、俺のやるべきことは変わらない。


 明日からは仕込みの量を増やした「塩の唐揚げ」が屋台に並ぶ。俺はバルトの包丁を愛おしそうに眺めながら明日くるであろう多くのお客様の笑顔を想像して、包丁を研いでいた。



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