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異世界行っても料理する ~料理して材料集めてまた料理~  作者: デビルぱんだ


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四十九話 城からの帰還

 王妃エルゼの寝室を後にした俺は、エドワード王とリリアーヌ王女に促進され再び広間に戻って来た。 その時までの「飢えた猛獣」のような殺気は消え、広間には穏やかで辺りには温かい感じが漂っている。


 全員が腰を下ろすと、王自らが上質な葡萄酒を俺の杯に注いでくれた。


「カケルよ、改めて礼を言う。料理で我らの腹を満たしただけでなく、絶望の淵にあった我が妻の命まで繋ぎ止めてくれた。感謝する」

「もったいないお言葉です。私はただ、目の前の客が求めているものを作ったに過ぎません」


 俺がそう謙遜すると、隣に座るリリアーヌ王女が身を乗り出してきた。


「謙遜しすぎですわ、カケル様!あの黄金色のスープ、お母様が一口飲むごとに部屋の空気が春のように優しくなっていったのが分かりました。……ところで、カケル様。貴方の故郷にはまだ私たちの知らない『未知の味』があるのですか?」

「……そうですね。今日お出ししたものは、ほんの一部に過ぎません。肉もそうですが魚料理も多いですし、麺という細長い生地を啜ったり……甘味だって、山ほどありますよ」

「麺!?啜る!?まあ、なんて破廉恥で魅惑的な響き……!」


 リリアーヌが頬を染めて悶絶している。この王女、食のことになると本当に想像力が豊かすぎる。


「カケルよ、これからもよろしく頼むぞ。其方が屋台にいるなら一人の客として通わせてもらうつもりだ。……さて、それでだ」


 王は表情を引き締め、まっすぐに俺を見つめた。


「我々を食で満足させ、王妃を救い、王家の危機を救った功績だ。当然、それに見合った『報酬』を受け取ってもらおう。金か?土地か?あるいは地位か?望むものを言ってみてくれ。できることなら何でも叶えてやろう」

「……褒美、ですか」


 金はあって困るものではないが、今の屋台の売上で十分回っている。土地や爵位なんてもらったら、気ままな料理人生活が台無しだ。自由を愛する俺にとって、それはかなり「枷」に近い。


「……申し訳ありません、恐れ入ります。今すぐには、何も思いつきません」

「ほう?欲がないな。金貨を積まれても動じぬか。自分の店を持ちたいのではなかったか?」

「お金は自分で稼ぐのが一番楽しいですね。それで、今は二人の従業員と、屋台で美味そうに食べてくれる客がいれば、とにかく満足なんです。自分の店を持つというのも、今すぐには無理なので。従業員や提供するメニューなどをきちんと考えてからでないと運営できませんし」


 俺の言葉に、王は大きく口を開き、愉快そうに笑った。


「ははは!面白い。真に腕のある職人とは、金銭よりも己の業を尊ぶものだとは聞いていたが、これほどとはな。……分かった、報酬については『保留』にしよう。いつか叶えたい願望ができた時、その権利を保持するがいい。このエドワードの名にかけて、必ず約束を守ろう」

「……ありがとうございます。その時が来たら、ご遠慮なく言わせていただきます」


 そう話しているうちに時間は過ぎ、下城する時間となった。

 王はお酒も入っているせいか大雑把に「またな!」といった感じだが、リリアーヌ王女は名前残惜しそうに俺の服の袖を掴まんばかりの勢いで詰め寄ってきた。


「カケル様!また……また必ず来てくださいね?いいえ、私が変装して屋台に並びますわ!あなたの料理がない人生なんて、もはや色彩を超えたも同然ですもの!」

「王女殿下、変装はやめてください……。また気が向いたら、新しいメニューを引っ提げて参上しますよ」


 俺の言葉に、王女は少女のような満面の笑みを落とし、俺を眺めた。


 俺は王宮の重厚な正面玄関へと進み門を出ると、朝と同じ黄金の紋章が刻まれた豪華な馬が静かに俺を待っていた。


「カケル殿、本当にお見事でした。王妃様の件、城のすべての者が感謝しております。……どうぞ、お乗りください」

「あ、ああ……ありがとう」


 朝、この馬車に乗った時は喉の奥がカラカラに乾くほどの緊張感があったが、今は違う。ふかふかの座席に深い身体を沈めると、全身の筋肉が驚くほどに弛緩していくのが分かった。

 王宮の馬車で家まで送り届けられた頃には辺りはかなり暗くなっていた。家に入ると自分たちの家具を買ってきたらしいアイリスとルナが待っていた。


「おかえりなさい、カケルさん!城はどうでしたか!? 怒られませんでしたか!?」


 ルナが駆け寄ってくる。アイリスも少し心配そうにしている。


「ああ、何とか首は繋がってるよ。料理も全部平らげてくれた」

「……流石ですね。でも、なんだかお疲れのように見えます」


 アイリスが鋭く指摘する。


「そりゃあな……。流石に王族を相手にするのは、魔物を狩るより精神を削られた。悪いが今日はもう寝る。お前たちも明日からはまた屋台だ。しっかり休んでおけよ」


 俺は二人に軽く手を振り二階の自分の部屋へ。正装を脱ぎ捨て、寝巻きに着替える。ベッドに倒れ込むと、全身の緊張が一気に解けた。


(……称号だったり金貨の山より、屋台で『美味しかったぞ』と言われるほうが性に合ってるんだよな……)


 明日からはまた、油の匂いにまみれる日々が始まる。

 俺の意識は心地よい疲労感と共に、深い眠りの淵まで沈んでいた。王宮の喧嘩騒ぎが嘘のような、静かな王都の夜が更けていく。



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