四十三話 面接と採用
翌朝、俺は重い腰を上げて「仕事斡旋所」へと向かった。これまでは一人で気楽にやってきたが、王宮に呼ばれるほどの事態になり、さらにはフライドポテトを追加したことにより手間が増えた。正直、揚げ物をしながら接客と会計、唐揚げを串にしたりポテトの箱詰めをすべて一人でやるのは物理的な限界が見え始めていたからだ。今はなんとかなっているがこれから先、新たにメニューが増えることも考えると人手が欲しい。
「……それで、これは予想以上だな」
斡旋所の扉を開いた瞬間、俺は無意識に足を止めそうになった。入口のベンチを埋め尽くし壁際まで溢れているのは、俺の屋台の求人に応募したやつらだ。ガストンが言っていた通り、相場より高い金貨十五枚という給料と、「三食付き(あの唐揚げが食べられる)」という条件が、王都の食いしん坊から野心家までを呼んできたようだ。
俺は担当官に促進され奥の個室で面接を開始した。時間は限られている。
「次、入って」
「はい!体力には自信あります!唐揚げも毎日十個は食べます!」
「……悪いが、食べる専門なら客として来てくれ。不採用で」
「給料は先払いでお願いできますか?あ、料理のレシピは三日で教えてもらえるって聞いたんですけど」
「そんな都合のいい話はない。不採用で」
次から次へ入ってくるが、大半は「楽して稼ぎたい」か「レシピを盗んで自分で商売をしたい」という透けた魂胆が見える連中ばかりだった。
「……はぁ。ちょっとはまともなやつはいないもんか……次、入って」
そう言って入ってきたのが、一人の少女だった。
少し古びているが手入れの行き届いた服を着た、アイリスという大人っぽい少女だった。
「料理は、家でずっと……。どうやったらおいしくなるのか……というのを唐揚げを見て勉強しました。火の温度によっての管理の仕方だったり火の通り方の違い……そこまではわかったんですが、それだけではおいしくならなくて……」
「……なぜうちに来た?」
「ただ作るだけでなく、『なぜおいしいのか』を検討したいんです。あなたの料理にはその答えがあると思いました」
「よし、採用」
合格だ。彼女の観察眼は料理を作るのに十分な質を感じさせた。
そしてもう一人。少し緊張した面持ちで座ったのは、ルナという明るい茶髪の少女だ。
「私は……正直に言うと、料理は大好きなんですけど、作るといつも失敗しちゃうんです。それで料理を勉強させていただいてみんなにおいしいものを食べてもらいたいと思ってます。それと、氷魔法が使えます!少しでも何かのお役に立てればと思って……」
氷魔法。その言葉を聞いた瞬間、俺の脳内に一つの「勝利の方程式」が降ってきた。今後の課題のなかに俺がいなくても屋台ができることがあった。揚げたてを提供する場合、確実に食材の「保冷」が必要になる。魔道具の冷蔵庫は高いしでかい、マジックバッグは手に入らない。しかし氷魔法を使える人材がいれば肉を保存、ポテトの一回揚げ前の冷却も完璧にこなせる。
「ルナといったな。魔法で肉の鮮度を一定に保つことはできるか?」
「はい! 温度調整なら得意です! 頑張ります!」
性格も素直そうだし、採用しないという選択肢はない。
「よし、採用だ」
面接が終わり、結局採用したのはアイリスとルナの二人だった。改めて二人を部屋に呼んで今後の話をする。
「まず、二人は住み込みで働くか?それとも家から通うか?」
「私は……住み込みでお願いします……」
「あ、私も住み込みにします」
「そうか……急な話だけど、今日中に引っ越しはできるか?働いてもらうのは明日の屋台からになるし、明後日は別用があるから引っ越ししてもらうなら今日しかなくてな。これから俺の家を案内する。もし大きな荷物があるなら言ってくれ。アイテムボックスに入れて運搬する」
二人は驚きつつも覚悟は決めていたようで家までついてきた。
「ここがうちの職場兼、家だ。一階がキッチンとリビング、二階に空き部屋がある。奥の部屋が俺の部屋だから、それ以外なら好きに使えばいい」
二人は広くて清潔なキッチンを見て、感動の声を上げていた。
「荷物を取りに行くなら一緒に行ったほうがいいか?」
「いえ……私は大丈夫です。とりあえずは着替えくらいなので……」
「私もたぶん大丈夫です。あ、でも布団って持ってきたほうがいいですか?」
「……あ、布団がないな」
持ってきてもらうのもしんどいだろうし、二人分買いに行ったほうがいいか。
「布団は俺が今から買いに行ってくる。二人は自分の荷物運搬で。あ、鍵も渡しておくな」
そう言って鍵を渡し布団を買いに行った。
夕方、全ての荷物が運び込まれ布団の購入もして二人の引っ越しが完了した。
「さて、歓迎会だ。とりあえず飯を作るとするかな」
俺は包丁を手に取った。今日作るメニューは屋台の唐揚げではない。従業員しか食べれない、特別な「家庭料理」だ。
メニューは「ココ鳥の照り焼き」とサラダだ。
鶏肉を切り分けて醤油と砂糖の調味料を絡ませて煮詰めると、食欲を誘う甘辛い香りが部屋中に広がった。
「さあ、冷めないうちに食べようか」
「……いただきます」
「わぁ、美味しそう! いただきます!」
二人とも照り焼きを口に入れる。
「……皮のパリパリ感と、肉の柔らかさがすごいです。このタレ、鶏の脂と混ざっていくらでも……」
アイリスは分析するのも忘れたように箸を動かした。
「ふ、ふぁい……おいふぃ……しあわせ……」
ルナはよほど美味しいのか、照り焼きを口いっぱいに入れて幸せそうな顔をしている。
俺も自分の分を口に運びながら二人の食べる姿を眺めた。一人で食べる飯も悪くないが、自分が作ったものを誰かが美味そうに食べているのを見ているのは、やはり料理人としての原点だなと感じる。
「……美味いか?」
「……はい、最高です。私、ここで働けるなら金貨なんていらないくらい……」
アイリスがそう言うと、ルナも頷いていた。
「給料はちゃんと決まってる。それにいいことばかりじゃない。明日からは地獄だぞ。仕込みも、屋台の忙しさも、それに料理の勉強も、今の想像の倍はあると思う。覚悟しといてくれよ」
「「はい!」」
二人の元気な返事が夜のキッチンに響いていた。
食後、二人は協力して後片付けを決めた。アイリスがテキパキと指示を出し、一緒になってルナが一生懸命皿を洗う。
その後二人が二階の自室へ上がり、静かになったリビングで俺は思考を巡らせていた。
新しく入った従業員。期待と不安はあるだろうがしっかり働いてほしい。
窓の外には、王都の静かな夜景が残っている。俺は明日からの激務に備え眠りにつくことにした。
新しい従業員たちの教育、そして王族への挑戦。また新しい物語が、ここから本格的に動き出そうとしていた。




