四十話 フライドポテト開始と城への招待
今日は屋台の日。そしてフライドポテトを提供する日でもある。今日の提供に合わせてガストンから厚紙で箱状に加工してあるものを購入しておいた。これなら歩きながらでも食べやすいし持ちやすいだろう。
開店早々、広場には凄まじい歓声が上がった。
「店主! 例の芋、今日から出すんだな!?」
「ああ。でも一人二つまでだ。唐揚げもいつもの通り制限があるから、欲張りすぎるなよ」
そう釘を刺すが客たちの勢いは止まらない。揚げたてのフライドポテトを箱に詰め、岩塩をパラリと振って渡すと客たちは我慢できずにその場で口へ放り込む。
「熱っ……!でも止まんねえ!この箱、持ちやすくて最高じゃねぇか!」
「唐揚げの合間にこのポテト……悪魔的な組み合わせだな。これじゃ酒がいくらあっても足りないぜ!」
厚紙の箱は意外なほど人気だった。持ちやすく最後までサクサク感が持続するのがこの世界の連中には新鮮だったらしい。
そんな中、列に並ばず横から話しかけてくる老人がいた。数日前に唐揚げを購入していったただ者じゃないと感じた老人だ。
「店主、お忙しいところ恐縮ですが、少々お時間を……」
「あー……悪いが、見ての通りだ。今は手が離せない。話なら営業が終わってからにしてくれないか?」
俺がそう返事すると老人は「承知しました」と言い優雅に一礼し、静かに広場の隅で待ち始めた。
夕暮れ時。屋台の片付けを始めた俺の前に老人が再び現れた。
「まずは自己紹介を。私は王宮に仕える者、名前をアルフレッドと申します。……カケル殿、我が主である国王が城へ招待したいと仰せでございます」
「……城へ?悪いが、俺はただの屋台店主だ。貴族のパーティーらしい服もなければ作法知らん。すまないが遠慮させてもらうよ」
俺が即座に断ったらアルフレッドは困った顔で眉を下げたあと頭を深く下げた。
「そう仰らずに。王はあなたの料理に深い感銘を受け、純粋に『最高の状態』で食したいと願われているのです。因みに……王女殿下も、あなたの来城を一日千秋の思いでお待ちしております。もしお連れできなければ、私の首が物理的に危険です」
「……物理的に、かよ。恐ろしいな……」
冗談には聞こえなかった。執事がここまで必死になっているということは相手は……相当な「食の猛獣」なのだろう。
本当に遠慮したいところではあるが断る理由というのも屋台の仕入れやら仕込みがあったり時間があればもっと新作を作ってみたりしたいし、といったものだから絶対に嫌というわけではない。
偉そうに「絶対に来い!」なんて言われてたら行かなかったが、さすがにここまでお願いされると断るのも悪い。
「わかった、そこまで言うなら行こう。でも、すぐには無理だ。屋台もあれば仕入れや仕込み、それに数日後に従業員の面接もある。……五日後だ。そこなら時間を空けられると思う」
「五日後……。承知いたしました。王、ならびに王女殿下にはそのように伝えさせていただきます。感謝いたします。これで首が飛ぶことはないでしょう」
アルフレッドは安堵の溜息をつき、深いお辞儀をしたあと去っていった。
場面は変わって夜の王宮。アルフレッドからの報告を待ちわびていたのは国王エドワードと、そして――今にも窓から飛び降りて広場へ駆け出そうとする勢いのリリアーヌ王女だった。
そこへアルフレッドが戻ってきた。
「アルフレッド!彼は何と言いましたの!?」
リリアーヌはドレスの裾を揺らしながらアルフレッドに詰め寄った。
「カケル殿は承諾していただけました。……ですが、屋台の運営と仕入れや仕込み、従業員の面接があるということで、来城は五日後になります」
「五日……!?」
「リ、リリアーヌ、落ち着け。五日だ、ほんの五日ではないか」
王がなだめるが、リリアーヌの瞳にはもう「食の狂気」が宿っていた。
「お父様、何を仰いますの。彼は王宮からの招待というこの上ない敬意よりも日々の自分の料理を待っている民との約束、そしてこれからも歩むであろう後輩との出会いを優先したのですわ。これこそ、真の職人。己の城(屋台)を愛し、食を求める者を裏切らず、その気高い矜持に私は敬意を表します!」
リリアーヌは頬を紅潮させ、少女のようにはしゃぎ始めた。
「五日後……。ああ、楽しみですわ。その日私は朝から何も口にできないでしょう。あなたが用意する最高の一皿のために、私の全感覚を研ぎ澄ませて待っていますわよ!」
そう言うと軽やかなステップで自室へと戻っていく王女。その後ろ姿を見送りながらエドワード王はポツリと呟いた。
「……アルフレッド。五日後、城の厨房は落ち着いているだろうか」
「……それよりもカケル殿の精神状態が心配でございます」
嵐の予感。俺は家でポテトの一回揚げのタイミングを計りながら、とても激しい寒気を感じていた。




