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異世界行っても料理する ~料理して材料集めてまた料理~  作者: デビルぱんだ


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三十六話 屋台四回目と王様

 新しい拠点、自分だけの「城」で迎えた最初の朝。窓から差し込む朝日は、昨日までの宿屋の湿った空気とは違ってどこか清らかだった。

 腕をどれだけ振っても壁に出会えないこの空間は、料理人にとっては何より贅沢だ。 昨夜食した熊肉の残り韻がまだ舌に残っているが、今日の主役はココ鳥だ。


 アイテムボックスの中を確認する。森で百羽仕入れ、ガストンのところで仕込みを終えた分がある。三回目の屋台で消費したのが約二十五羽分。この計算だと今日を含めてあと三回は補充なしで回せるだろうが、早めに仕入れと仕込みをしておかないとなにがあるかわからないからな。


「さて……行くか」


 俺は屋台を引き出し、いつもの中央広場へ向かった。


 広場に着くともう驚きはしなかったが、やはりそこには「列」があった。


「よぉ、店主!今日もいい匂いを期待してるぜ!」「今日は早めにきたんだぞ!早くしてくれ!」


 名前も知らない連中だが、俺と狭い関係のようなものが芽生え始めていた。


「はいはい、そう慌てるなって。唐揚げは逃げやしないよ」


 そう言いながら屋台の準備を進めていく。


――ジュワァァァァァッ!!


 油の揚げる音が開店の合図だ。慣れた手つきでココ鳥を揚げながら、俺は客たちと短い言葉を交わす。


「店主、あんたこの唐揚げ……正直、魔力があるんじゃないか?毎日でも食いたくて、朝起きてすぐこの匂いを思い出しちまうんだ」


 一人の冒険者が、揚げたての肉を頬張りながら恍惚とした表情でそんなことを言った。すると周りにいた連中も「たしかに!」「三食これでいい!」と、口々に賛同の声を上げる。


 俺は苦笑いしながらトングの手を休めずに口を開いた。


「おいおい、勘弁してくれ。毎日食いたいってのは料理人冥利に尽きるが……正直に言うぞ。これは『毎日食うもん』じゃない」


 その意外な言葉に、列が少しざわついた。


「これはしっかり味をつけて、さらに肉を油で揚げている。端的に言って食べすぎはダメだ。これだけ食べてたら、身体が壊れる。それと……」


 俺は列に並んでいた女性冒険家や、小綺麗な格好をした市民の女性たちに顔を向けた。


「……確実に、太るぞ。これ一本で、森を1時間ほど走り回るくらいのエネルギーがあるんだからな」


「…………え?」


 その瞬間、女性陣がピタリと止まった。口元まで運んでいた唐揚げをまるで毒薬でも見るかのように見つめるエルフの魔術師。


「ふ、太る……?そんな、嘘でしょう?これだけ美味しいのに、そんな罠があるなんて……!」「わ、私、この前も食べたし……。どうしよう、明日から訓練を倍にしなきゃ……!」


 あたふたする彼女たちの姿に、今度は男性陣から爆笑が沸き起こった。


「がはは! いいじゃねぇか、少しくらい肉がついたほうが健康的だぞ!」

「あんたはいいわよ!私たち装備が入らなかったら死活問題なのよ!」


 現場は一気にコメディーな状況になったが、俺は笑いながらフォローを入れた。


「まあ、極端に食いすぎなきゃいいだけの話だ。要はバランスだよ。しっかり食って、その分しっかり動く。それができてるなら、この一串は最高の活力になるはずだ」

「……動けば、いいのね?街を三周走れば、もう一串いけるかな?」


その執念に俺は「ああ、それならお釣りが出るくらいだ」と答え、彼女に二串手渡した。



 その頃、活気に満ちた中央広場から遠く離れた場所――白亜の壁に囲まれた王宮の一室ではこの国の最高権力者である国王、エドワード・フォン・レガリアが、不機嫌そうに窓の外を眺めていた。


 エドワード王は名君として知られ、「食通」としても有名だった。大陸や山や海の珍味を食べ尽くし、王宮専属の超一流シェフたちが腕を競う料理を毎日食べている彼にとって、最近の食事はどれも同じという言葉に尽きた。


「……ふむ。またこれか」


 目の前に並べられた最高級の鹿肉。宝石のように美しい彩りの野菜。見た目は完璧だ。それなりに味もいいだろう。

 それなのに王はため息をつき、傍らに控えていた老執事のアルフレッドに問いかけた。


「アルフレッドよ。最近、城下で何やら騒がしい噂を聞いたのだが」

「……はて、何のことでしょうか。市場の物価のこと、あるいは冒険者のギルドのことでしょうか?」

「知らぬふりをするな。……『黄金の串』だ。広場の片隅に、列が途切れぬ屋台があるというではないか。何でも、一度食べれば虜になり、争いを忘れて並ぶほど美味であるとな」


 王の言葉に、アルフレッドは覚悟を決めた。流石に耳が早い。


「左様でございます。通称『カラアゲ』と呼ばれる料理だとか。外はカリッと中は魔法のように柔らかく、噛めば肉汁があふれ出てその香りは数街区先まで届くという……。近頃は、近衛騎士の中にも、休みの日にわざわざ並ぶ者が後を絶たぬとのことです」

「ほう……。あの口うるさい騎士たちが休みを潰してまで、か」


 王の瞳に好奇心の灯が宿る。彼は吟味された宮廷料理よりも時として熱狂する「野性味溢れる真実の味」に強く惹かれることがあった。


「アルフレッド。……今すぐその『カラアゲ』とやらを買いに行ってくれ。並ぶのが嫌なら、私が並んでいると言えばいい」

「王の名前が出ると街がパニックになります。……ここは私が一人の老人として並んで行きます。なんでも一人一種二串までの制限があるとか……。今からいけば確保できるでしょう」

「よし、たのむぞ。……とりあえず、冷まさぬようにアイテムバッグを忘れるなよ」


 王は子供のような期待を込めた表情で執事を見送った。贅沢を尽くした宮廷料理のテーブルの上で、王は手付かずの鹿肉を眺めながらまだ見ぬ「黄金の肉」を思いを馳せていた。


「多勢が並ぶ、味と香りで虜にする料理、か……その店主が私の舌を満足させられるかどうか、試させてもらおうではないか」


 王宮の静寂の中で、場違いなほどの「期待」が満ち始めていた。



 中央広場では、ひたすら俺がココ鳥を揚げ続けていた。ふと列の中に妙に背筋の伸びた、品の良い老人が混ざっているのに気付いた。


(……なんだろうな、あのおじいさん。ただ者じゃないな)


 順番が来た老人は二種とも二串ずつ注文。俺は最高の状態で揚がった「もも」と「むね」を二串ずつ差し出した。


「お待たせしました。熱いうちにどうぞ」

「……痛み入ります、店主。……ほう、この香り。噂以上ですな」


 老人は丁寧に商品をアイテムバッグに入れ、一礼して人の中に紛れ込んでいった。


 夕暮れ時、最後の客を送り出し閉店。今日は前回以上の動きがあった。そして何か「大きな流れ」が始まったような、そんな予感さえした。


 まさか、自分の作った唐揚げがこの国の王のテーブルへ運ばれようとしているとは、今の俺には知る由もなかった。



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