三十話 依頼報告と相談
バルトの工房を後にして次に向かったのは、冒険者ギルドだった。屋台の準備に夢中で討伐報告をずっと忘れていた。
ギルドの扉の向こうは昼下がりの気だるい空気が漂っていた。 俺は迷わずCランクへの昇級を宣言してくれた受付嬢のカウンターに向かった。
「あ、カケルさん!報告ですか?ココ鳥の討伐、終わりましたか?」
「ああ。……それとバスクボアもな。数が多いんだが、討伐部位はここに出してもいい?」
「ええ、かまいませんが……どれくらいですか?」
首を傾げる彼女を前に俺はアイテムボックスから「討伐証明部位」を取り出した。 ココ鳥の嘴が五十個。 そしてバスクボアの立派な牙が二十対。 机の上にジャラジャラと積み上げた素材の山を見て、受付嬢の目が点になった。
「……ちょ、ちょっと待ってください! 依頼受けて二日くらいですよね!? ココ鳥五十に、ボア二十って……これ小隊が数日かけてやる仕事ですよ!?」
「実質狩りで動いたのは早朝から昼くらいまでかな。効率よくやっただけだよ。……それより、報告はこれでいいか?」
「とりあえず素材は……問題なさそうですね。あ、魔石もちゃんと回収されてる……。はい、依頼完了です。報酬は素材と魔石の買取も含めて金貨五枚と銀貨八枚。……それと、ランクポイントも大幅に加給しておきますね」
私は渡された報酬の入った袋を受け取り、さらに彼女に聞いた。
「悪いが、また同じ依頼を受けさせてくれ。ココ鳥とバスクボア、出ている分だけでいい」
「……えっ?またですか?ランクが上がったんだからもっと実入りのいいワイバーンとか、迷宮の調査とかに行けばいいのに……」
「俺にとっては、あれが一番の『宝』なんだよ。……頼む」
「わかりました。両方とも数に制限なしで依頼が出ています。最近数が多くなっているみたいなので狩れるだけ狩っても大丈夫ですけど、お手柔らかにお願いしますね」
迷った顔の受付嬢からまた同じ内容の依頼書を受け取って、俺はギルドを後にしようとしたが受付嬢から止められた。
「カケルさん、そういえば屋台開店したらしいですね。おめでとうございます!」
「あぁ、ありがとう……ってどこでそんな話聞いたんだ?」
「ギルドで昨日、噂になってましたよ。暴力的な匂いに溢れる肉汁、今までに食べたことのない肉だ!って。私も今度買いに行きますね!」
そうか……いい噂でよかった、なんて思いながら軽く返事をしてギルドを後にした。
次に向かったのはガストンの執務室だ。 包丁の作成がうまくいきそうだということを伝えると、ガストンは「あのバルトが二つ返事で!?」と驚きを通り越して笑い出していた。
「……で、ガストン。もう一つ相談なんだが。……食材の『保存』についてだ」
俺は屋台を運営する上での切実な悩みを切り出した。
俺が持つスキル的なアイテムボックスは便利だが時間経過がない。唐揚げに必要な調味料への漬け込みがアイテムボックスの中だと意味がなくなってしまう。
だからといって外に出しておいて運搬するのも、量が多いと手間がかかってしまう。
「時間経過がある『マジックバッグ』の類って売ってないのか?」
「ありますよ。ですがカケルさん、それはかなり高値の宝物ですよ。容量が大きくなるほど高額になっていきます。入手方法としては、王都のオークションで出品されたものを購入する、もしくはダンジョンへ行って手に入れる、といったところです。ただ、ダンジョンでの入手確率はよっぽど運がよくないと手に入らないそうです」
ガストンの言葉に俺は肩を落とした。やはりそう簡単に手に入らないか。
「肉や魚って氷で冷やしてるだろ?あの氷ってどうやって作ってるんだ?」
「それは魔法で作っているんです。市場のほうでは氷魔法を使える人材はかなり優遇されますから。それに高級レストランや王宮などでも専用の魔導士がいますね」
「……魔法、か」
俺はその言葉を噛み締めた。 この世界に来てから俺は自分の包丁捌きと元の世界の知識だけで戦えた。 でももし自分で「氷魔法」が使えたらどうだ? 仕込んだ肉を常に理想の温度で保存できたり、飲み物をキンキンに冷やして提供することも可能だ。
「魔法ってのは、誰でも使えるもんなのか?」
「適性はありますが、初歩的なものであれば訓練次第ですな。一応、氷魔法は精密な魔力操作が必要なので、独学では難しいかも知れませんが……」
なるほど。使えるようになりたいところではあるが、誰かに教えてもらわないとたぶん無理だろうし、時間がかかるみたいだからアイテムバッグの件も含めて一旦は保留だな。
唐揚げの漬け込みに関しては市場で氷を買って対応するしかない。ある程度時間がたったらアイテムボックスに入れるようにすればいいか。
ガストンの店を出て夕焼けに染まる前の街を歩きながら、俺は自分の掌を見つめた。 包丁、そして次は「冷気」。 料理の質を極める道はどこまでも深く、恐ろしかった。
前の世界の(冷蔵庫)が、この世界では魔法の領域。
「……明日はまた屋台だし、準備して休むか」
俺は宿へと続く道を新たな野望を胸に、力強く踏み込んで歩いてた。




