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異世界行っても料理する ~料理して材料集めてまた料理~  作者: デビルぱんだ


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二十六話 素材狩りと包丁

 先ほど夜の帳が深く東の空がわずかに白み始めた頃、 俺は宿の軋む階段を音を立てないように降りて、王都の巨大な城門がくぐれるようになるのを待って外へ踏み出した。

 目的はギルドの依頼で受けた『ココ鳥』と『バスクボア』の狩りだ。 「屋台の主役」と「黄金の油」を手に入れるためのこれが仕込みの第一段階だ。


 王都近郊、朝霧が立ち上がる森の始まり付近。 事前情報によればココ鳥は夜行性ではなく早朝はまだ眠っているか、あるいは地面に降りて朝食を突き始めている時間帯だ。


「……いたな」


 視界の先、大きな広葉樹の枝に丸々と太ったココ鳥たちが鈴なりになって眠っている。


(……寝ている間なら、ただの『食材』だ)


 サバイバルナイフを除いて放ち、樹上へと進む。そして目を開く暇も与えず一羽の首を立てて跳ねた。

 しかし全部は上手くいかない。 仲間の断末魔……とはいえ、声が出る前に仕留めているのだが、微かな羽ばたきの音で周囲のココ鳥たちは目を覚ましてしまった。


「ココッ!?」


 パニックに陥った鳥たち、その強い翼を広げて突然空へ逃げようとする。

 一羽、二羽と飛び立つ奴らの動きを冷静に見切り、樹上に進む前に拾っておいた手頃な石を用意する。


「……逃がすかよ」


 スナップを利かせて放たれた石が、弾丸のような速度でココ鳥の翼の付け根を正確に奪い取る。

 地上を走って逃げる奴らには横から音もなく近づき関節を突いて動きを止める。逃げ惑う鳥たちを俺はまるでお気に入りの食材を選ぶように、一羽ずつ確実に「収穫」していった。


(……これで、ちょうど五十羽か。もも肉とむね肉、これだけあれば数日は大丈夫か)


 ココ鳥の血の匂いに惹かれたのか、あるいは縄張りを荒らされたと怒ったのか 森の奥から地響きとともに巨大な影が伝わってきた。


「フゴォォォォッ!!」


 猛烈な勢いで突進してくるのは本命の『バスク・ボア』だ。並の冒険者なら、その巨体と牙の圧力に気圧されるところだろう。


「……お出ましか。いい脂が乗ってそうだ」


 ボアが勢い余って木に激突するより早く剥き出しになった項の急所にナイフを深く突き立て、一気に横へ引き裂いた。


ドォォォン……!


 巨体が砂塵を上げて倒れる。

 その後も現れるボアたちを俺は同じような動きで仕留めていた。 突進をいなして喉を裂き、あるいは項や心臓を一突きする。


「さて、ここからが本番なんだ」


 俺は狩った獲物を手早く、全個体の血抜き作業に出た。 この世界の冒険者は獲物をそのままギルドへ持ち込むことが多いが、料理人としてはありえない。

 ココ鳥はある程度は首を跳ねているからそのままでも血抜き出来ている。他の部位で仕留めているものだけ首を切って血抜きを行う。ボアは首か心臓に近い部分を切って逆さ吊りにして血を抜く。終わったものからアイテムボックスへ放り込んでいった。


(……ココ鳥五十羽、ボア二十頭。……これだけあれば、王都の奴らの度肝を抜くには十分すぎるな)


 立ち上がる血の匂いを振りはらうように俺は返り血のついたナイフを軽く拭った。 日は完全に昇り森の中には木漏れ日が差し込んでいる。


「……さて、次はガストンのところへ行ってココ鳥の解体と仕込み、ボアの脂を『揚げ油』に精製するか」


 俺は獲物で満たされた見えない倉庫の重みを感じながら、王都へ戻った。


 森から王都へ戻る足取りは軽い。アイテムボックスの中には鮮度を保ったままのココ鳥五十羽と脂を蓄えたバスクボア二十頭。これだけあれば、最初の屋台をする分としては十分だ。

 門をくぐり活気溢れる中央通りを歩きながら、俺はあることを思い出した。


(……しまった。包丁忘れてた……)


 俺の腰にあるのは、サバイバルナイフっぽいものだ。魔物を殺し大まかに解体するには十分すぎる物だが、繊細な「料理」をするには難しすぎる。皮を剥き筋を避け、ミリ単位で肉を切るにはやはり専用の「包丁」が必要だった。

 雑貨屋へ行けば包丁は売っている。でもこの世界の包丁はどれもこれも重い鉈のような肉を「激しく切る」ための分厚い刃だったり、刃は薄いがでかくて一気に材料を切るようなものばかりだ。


「……やはり一から作るしかないな」


 俺はガストンから前に鍛冶屋の場所を聞いていた。王都には数件あるらしく、ガストンが腕は一流と言っていた鍛冶屋街の奥にある一軒の店『鉄火の鎚亭』まで向かっていた。

 ただガストンは「どの鍛冶屋も包丁は無理だと思いますよ……」と言っていた。その言葉が俺にはどういう意味かわからなかった。


 店に足を踏み入れて熱気と金属を叩く壮大な鼓膜を震わせた。奥から出てきたのは岩のような筋肉を隆起させた、白髪混じりのドワーフの老鍛冶屋だった。


「……なんだ、小僧。冒険者なら、剣の研ぎか?鎧の修繕か?」

「いや、オーダーメイドで刃物を作って欲しい。それも、四本だ」

「四本だと?贅沢な奴だな。……どんな剣だ。片刃か、両刃か、刺突用の細剣か?」


 俺は懐から取り出した以前書き上げた設計図をカウンターに広げた。


「剣じゃない。『包丁』だ。種類は四つ。肉を切り分ける『牛刀』、硬い骨を断つための『出刃』、断面のための『柳刃』、そして野菜を刻むための『菜切り』。それぞれ刃渡りと重心、鋼の硬さを細かく指定したい」


 老鍛冶屋が図面を見た。 しかし次の瞬間、彼の眉間に深いシワが刻まれた。


「……なんだ、この薄さは。……これでは魔物の毛皮一枚裂けないで折れるぞ。ついでにこの『柳刃』とかいう細長い棒……こんなもんで、オークと戦えるとでも思っているのか?」

「戦うためじゃない。料理に使うんだ。最高の食材を最高の状態で調理するために、この形状と鋭さが必要なんだよ」


 その言葉を聞いた瞬間、老鍛冶屋の顔が真っ赤に染まった。


「……ふざけるなッ!!」


 怒りの声が店内に響き渡った。


「俺のつちはなぁ、英雄の剣を鍛え、騎士の命を守る盾を競うためにあるんだ!肉や魚を捌き、野菜を刻むためのもんを作るためにこの火を焚いているんじゃねえ! 飯を作る道具なんざそこらの雑貨屋で錆びた鉄板でも買って研いでろっ!」

「……いや、道具の質が料理の質を――」

「黙れ! 今度俺の店を跨ぐな! 武器作りを舐めるなッ! さっさと失せろ、この素人がッ!!」


 老鍛冶屋は巨大な鎚を振るうような勢いで、俺を店から追い出した。


「……はぁ。やっぱり、そうくるか」


 俺は街角で一人溜息をついた。 この世界において刃物は「敵を殺すための武器」であり、高名な鍛冶屋にとって生活道具である包丁を作ることは、逆鱗に触れてしまうことらしい。


「……しかし包丁がないと今後の料理に支障がでるな……」


 今回の唐揚げならなんとかなる。しかしこれから作るであろう料理には包丁がないと全く違う味になってしまう。なんとしても手に入れないと……

 俺は設計図を丸めてポケットにねじ込み、当初の予定通り『ガストン商会』へと足を向けた。あいつなら、金に糸目をつけない「変人」のツテを他にも持っているはずだ。


「……ふぅ、魔物を狩るより職人を慎重に相手する方がよっぽど骨がる折れるな」


 ガストン商会の豪華な門まで来た。 俺は獲物と、そして叶わなかった「道具へのこだわり」を抱え中に入った。



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