二十二話 冒険者ギルドと商業ギルド
硬いベッドの上で目を覚まし凝り固まった体を伸ばしながら窓を見る。 窓から差し込む朝日は王都グランシエルの街並みをさらに輝かせている。
まずは腹ごしらえだ。下の食堂へ降りると昨日と同じくお世辞にも美味いとは言えない朝食が並んでいた。
(……やはり、この街の「食事」の平均値は高くないのか。それともこの宿がハズレなだけか?)
考えるよりも今はこの食事を終えることが優先だ。義務的に平らげ白湯を飲み干してから部屋に戻り、準備をして宿を出た。
最初に向かうのは昨日登録をしたばかりの冒険者ギルドだ。エルンたちと合流してホブゴブリンの件について調査があるらしい。
朝のギルドは一日の依頼を探す冒険者の熱気と殺気で昨日以上の混雑に巻き込まれていた。
「あ、カケルさん! おはようございます!」
受付の近くで待っていたフィオが、私を見つけて大きく手を振った。隣にはエルンとテオもいる。
「おはよう。早いな。待たせちゃった?」
「いえ、私たちも今のところ来たです。さてホブゴブリンの件、報告しに行きましょう」
昨日のうちにガストンの護衛についての報告は完了したらしいが、ホブゴブリンの件について話したところ同じような報告がいくつか上がっているらしく、詳しく聞きたいとのことらしい。
ギルドの奥にある個室へ通されると、そこには危機感のある顔つきのギルド職員が待ち構えていた。
「お疲れ様です。それでは今回のホブゴブリンの件についていくつかお聞きしたいと思います。場所は王都から約二日の街道沿い、ガストン商会の馬車を護衛中にゴブリン数十匹、およびホブゴブリン三体に遭遇します。……間違いありませんか?」
「間違いないです」
「遭遇後、エルンさんたちはガストン商会の馬車およびカストンさんを護衛するためゴブリン達と戦闘を開始、しかし普段であれば苦戦しないであろうゴブリン達に苦戦、理由はなにかに指示されているようなほど統率がとれていたから、というのが昨日聞いたお話ですが……間違いありませんか?」
「はい、間違いないです。そこで苦戦していた俺たちをカケルが助けてくれたんです」
そういってエルンは俺のほうを見た。
「カケルさん、あなたは昨日冒険者ギルドに登録したばかりですね。通常ホブゴブリンはCランク相当の魔物です。ちょっとしたパーティーだと少なからず犠牲が出るものです。それを……あなたが『一人で』仕留めたとエルンさんたちが証言しています。状況を詳しくお聞かせください」
「俺も王都に向かう途中で偶然エルンたちが襲われているのを見たから助太刀しただけだ」
業務的だがギルド職員は俺やエルンたちに質問をして内容を紙に記入していた。
「……『だけ』ですか。カケルさん、ホブゴブリンを単独で傷一つ負わずに仕留めたというエルンさんたちの証言はなかなか信じ難いものです。普通の冒険者なら単独でホブゴブリン三体を相手にしたいと思いませんよ」
「まぁそれだけ実力があった、ということにしといて。運が良かったってのもあるけど」
「……信じがたい話ですが、関与者の証言と持ち込んだ素材が裏付けされていますね。あれほど綺麗な切断面のホブゴブリンは解体職人でもお目にかかれない。相当な実力者じゃないと無理ですよ」
そう言ってギルド職員は紙をまとめてこちらに向き直した。
「今回の件は、異常発生の調査報告も含めて特別功労として処理します」
ギルド職員が書類に判子を押し、金貨の袋をテーブルに置いた。
「素材の買い取りも含めて金貨十枚です。それとカケルさん、あなたのランクは特例でDランクへの昇級を検討します。後日またギルドへお越しください。しかし……これほどの腕を持ちながらなぜ料理人などと?」
「本業が料理人ってだけで、強さはおまけ……かな」
「おまけですか……冒険者ギルドとしてはその強さが必要なんですけどね……」
報告が終わってからここ数日で集めた魔物の素材査定をしてもらった。 アイテムボックスから取り出したゴブリンやら狼やらの素材。 さらには俺が道中で狩った食材以外の魔物の毛皮。
「……これほど良質な状態でこの量。……金貨八枚で買い取りましょう。ランクアップの評価もプラスしておきます」
素材をお金に変えて俺はエルンたちに分配しようとしたが拒否された。
「ぶっちゃけ、あの魔狼の肉だけでもお釣りがくるんだぞ。それに護衛も手伝ってもらった。本来ならこっちが金払わないといけねぇんだ。今回の素材の金はカケルがもらってくれ」
そう言って一向に受け取らなかったからしかたなくあきらめた。まぁ逆の立場だったら俺も同じようにするか。
「さて、カケル。俺たちはこれから別の街へ向かう依頼を受けてるんだ。……あんたならこの王都ですぐに有名人になるだろうけど、頑張れよ。店出したら駆けつけるからな!」
エルンが豪快に笑って手を差し出した。俺はその手一度だけ強く握り返した。
「ああ。あんたたちもな。無理するなよ」
「カケルさん!またカケルさんの料理食べに戻ってきますから! ……それまで、私のこと忘れないでくださいね!」
フィオが真っ赤にして叫ぶ。 俺は少しだけ口角を上げ「気が向いたらな」とだけ言っておいた。無視するのも悪いが、深入りしすぎるのも俺の性分じゃない。
この世界で最初の『仲間』として出会った三人だ。また会いたいと思うし、次会った時にはご馳走してやろうかな。
彼らの姿が街の人混みに消えゆくのを見届け、俺はガストン商会へと足を向けた。
さて、ここからは俺の「本業」の時間だ。
商業通りを目指して歩いていくと昨日ガストンに告げられた豪華な店構えの『ガストン商会』が見えてきた。
中に入ると入口には店員が待機していて「いらっしゃいませ」と発したあとに声をかけられる。
「本日はどのようなものをお探しでしょうか?」
「すまん、買い物じゃなくてガストンを呼んでほしいんだ。カケルが来た、と言えばわかると思う」
そう店員に伝えると奥へ移動した。するとすぐにガストン本人が飛んできた。
「おお!カケルさん!お待ちしておりましたぞ!まずは商業ギルドへ向かいましょう。王都で商いをするなら、ギルド証の発行は絶対です!」
ガストンの勢いに戸惑いながらも巨大な天秤の紋章が書かれた商業ギルドへ連れられた。ここでも彼の顔は広く、あっさりと手続きは進んだ。
「こちらがカケルさんの商業ギルド証です。商業のランクによって販売できるものだったり規制の解除が変わってきます。カケルさんは料理を提供するということですので現在のランクでも問題ありません。料理を提供する場合の注意点としては、健康被害を出さないことや規制された食材の料理を提供しないことです。もし違反があった場合はギルド証は没収されますのでご注意ください」
ギルド職員に説明を受けてからガストンから提案される。
「カケルさん、店の物件ですがいくつか押さえられそうです! 貴族向けの高級店にするなら中央あたりが最高でして――」
「いや、ガストン。店については、まずは『屋台』から始めようと思う」
「……や、屋台、ですか?実力がある御仁が屋台を?」
ガストンは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。
「ああ。まずはこの街の人たちに俺の味を叩き込みたい。いきなり高級店を構えて作法だのなんだのってのは御免だ……それに屋台なら客の反応が直接わかるからな」
「……なるほど……承知いたしました! カケルさんがそういうなら王都で最も人通りが多く、最高の『屋台権設置』をもぎ取ってまいりましょう!数日中に準備を整えてみせましょう!」
「頼むよ。……さて、それまでは市場で食材の勉強だな」
ガストンと別れた俺は王都の心臓部とも言う「中央卸売市場」へその足を運んだ。




