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異世界行っても料理する ~料理して材料集めてまた料理~  作者: デビルぱんだ


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二十一話 王都到着

 ガストンたちとの移動を開始して二日目、移動は順調だった。魔物が出ないわけではないが思っているよりも遭遇しなかった。

 

 「昨日の魔狼の肉、まだ体が熱いですよ……。魔力が指先から漏れちゃいそうで、杖を振るのが怖いぐらいです」


 フィオが頬を上気させながらそんなことを言っていたが、エルンやテオも同様らしい。彼らの動きには昨日までになかったキレがあり、心なしか肌のツヤも良くなっている。魔狼の肉の効能は栄養学的な観点以上に生命力や魔力を底上げする何かがあるようだった。


 そして三日目。太陽がちょうど天頂を過ぎ、影が少しずつ東へ伸び始めた昼過ぎのことだ。

 地平線の向こうから、陽光を反射して白銀に輝く巨大な壁が姿を現した。


「見えたぞ! あれが王都グランシエルだ!」


 エルンの威勢の良い声に、俺は思わず目を細める。

 高くそびえ立つ外壁は汚れ一つない白亜の石で築かれ、その中心には天を突くような大聖堂の尖塔が鎮座していた。

 やがて馬車は巨大な城門の前に広がる行列の最後尾についた。門の左右には輝く全身鎧に身を包んだ衛兵が立ち、鋭い眼光で入国者一人ひとりを検分している。


「次、止まれ。身分証の提示を」


 俺たちの番が来た。ガストンの馬車から降り衛兵の前に立つ。


「身分証は今持っていないんだ。王都で作るつもりだったからな」

「そうなんですか?それではこの場については私が証人になりますよ」


 そういってガストンは衛兵と話し出す。


「ガストン殿が証人となるならば問題はない。ただ仮身分扱いになるため銀貨二枚の支払いと犯罪を犯さないという誓約書に署名してくれ。銀貨二枚は身分証を作成するときに返却されるから一時金と思ってくれ。身分証の作成は冒険者ギルドか商業ギルドで作成できるからな」

「助言に感謝するよ」


 俺は銀貨を支払い誓約書へのサインを済ませた。こうして俺はようやく王都の土を踏んだ。


「さて、カケル様。私はこれから商会の本部へ顔を出し、この『おすそ分け』の保管と、荷卸しの段取りをしなくてはいけません」


 ガストンが、もはや俺を主君か何かのように敬った態度で頭を下げた。


「護衛の件につきましては改めてお礼させていただきます。またお約束した通り、カケルさんの店に関する調査は最優先で進めます。いつでもかまいませんので商業通りの『ガストン商会』を訪ねてください。……では、また!」


 彼は何度も振り返りながら、自分の「未来の鍵」が詰まった馬車を急かして街の奥へと消えていった。


「さてと、俺たちもまずはギルドだな。案内するぜ」


 エルンに促され、俺はフィオ、テオと共に活気あふれる大通りを進んだ。

 視界に飛び込んでくる光景は、まさに「都」の名にふさわしい。道ゆく人々は着飾っており石造りの建物が整然と並んでいる。

 そして何より、鼻をくすぐる匂いが凄まじい。

 通りの両脇には見たこともない食材を並べる露店や香ばしい煙を上げる屋台がひしめき合っている。


(……なんだ、あの串焼き。見た目は鶏肉っぽいが、タレに果実の匂いを感じるな。あっちのパンみたいなのは、生地に何かの香草が練り込まれているのか……?)


 料理人としての本能が激しく反応する。一歩歩くごとに知らないスパイスの香りや新鮮な野菜の色彩が俺を誘惑してくる。思わず足を止めて露店を覗き込みそうになるが、ぐっと堪えた。

 ただ一つ心配なのは、この世界の料理レベルは本当に低いのか?という疑問だ。見た目だけではなんとも言えないが匂いを嗅いだ感じからするとうまそう、というのが第一印象だ。


(……いや、まずはギルドだ。身分を確定させないことにはこの街で腰を落ち着けて料理をすることもままならない)


 興味津々な心を抑え、俺はエルンの背中を追って足早にギルドを目指した。


 王都の中央あたりに存在する冒険者ギルドは、外観からしてこれまでの街とは規模が違った。三階建ての石造りの建物には大きな剣と盾の紋章が掲げられ、重厚な扉を潜ると熱気と喧騒そして微かな血の匂いが混じった独特の空気が鼻を突く。

 カウンターがある場所に向かい受付の女性に尋ねる。


「身分証の新規登録を頼みたい」


 俺が受付の女性にそう告げると、彼女は慣れた手つきで一枚の魔道具と思われる板を取り出した。


「こちらに手を触れてください。偽名や犯罪歴がなければすぐに発行できます。登録料は銀貨五枚ですが入国時に銀貨二枚支払っていると思いますので銀貨三枚になります」


 手続きは驚くほどスムーズだった。板に手を触れると文字が浮かび上がり、俺の「冒険者ギルド証」が完成した。これでようやく俺はこの街で「正体不明の不審者」を卒業したわけだ。

 受付の女性はギルドの仕組みを淡々と説明し始めた。


「冒険者ランクはEランクからのスタートとなります。最高位はSSSランク。依頼の達成や活躍に応じてランクは上がりますが、逆に活動実績が乏しいとランクダウン、あるいはギルド証の没収もあり得ますのでご注意を。また他人のギルド証を使用することや偽造する、盗賊や犯罪者以外の人を無意味に殺害するなど犯罪を犯した場合は無条件で剥奪します。紛失時の再発行には銀貨五枚かかりますのでご注意ください」


 基本的に料理をするのだから冒険者ギルド証はいらないかなと思ったが、自分で素材を集めたり金策する場合にはやはり必要となってくるだろう。この先なにが起きるかわからないからな。


「よし、これで一安心だな! 改めてになっちまうが、助けてくれてありがとうな。カケルがいなかったらどうなっていたか……うまい飯も食えて数日間だったが楽しかったぜ!今日はもう疲れただろ? 俺たちはいつもの定宿があるからそこへ行くんだが、明日ホブゴブリンの件でギルドにこなきゃいけないんだ。カケルにも同席してほしいんだが、大丈夫か?」

「あぁ、急ぐ用事もないし大丈夫だ」

「そうか、じゃあ明日の朝にまたギルドで会おうぜ!」


 エルンが快活に笑い、テオも無言で会釈する。

 そしてフィオが、俺の袖を少しだけ掴むようにして、上目遣いで俺を見た。


「あの、カケルさん……。明日、もしよかったら、王都の市場を案内しますよ? 私、この街の美味しいお店とかも少しは知ってますし……。その、別々の宿なんて寂しいっていうか……」


 彼女の瞳は潤み、名残惜しさが全身から溢れ出していた。


「フィオ、どうせお前はご飯目当てなんだろ?宿のご飯も不味くはないが、カケルの作る飯と比べると……な」

「うっ……だってあんなおいしいご飯の後に宿のご飯食べるなんてある意味地獄ですよ!」


 フィオの言うこともわからんでもないが……今はただ一人でゆっくりと足を伸ばし、ゆっくりする時間がほしかった。


「また明日な。今日はゆっくり休めよ」


 俺は彼女の視線を意識的に「無視」に近い形で受け流し、軽く手を振って逆方向へと歩き出した。

背後で「あぅ……カケルさん、冷たい……」という小さな声が聞こえた気がしたが、振り返る余裕はなかった。今は個人の時間を最優先にしたい。


 俺が選んだのは、ギルドの紹介で聞いた静かそうな中堅の宿屋だ。

 ギルド証を見せて部屋を借り、荷物を置く。


「……ふぅ。今日もなんとか生き延びたなぁ」


 ようやく訪れた静寂。安心しきったせいか、腹が鳴る。そういえば、昼から何も食べていなかった。

本当は自分で作りたかったが、宿の台所を借りる交渉をする気力すら残っていない。俺は一階の食堂へ降り、適当な定食を注文した。

 運ばれてきたのは硬いパンと具材の溶けかかった薄い野菜スープ、そしてパサついた肉の塩焼きだ。


(……あぁ、やっぱりか)


 一口食べて、俺は心の中でため息をついた。

 肉は焼きすぎで旨味が逃げ出し、スープは塩気だけが強すぎてダシの風味が感じられない。バンプポテトのホクホク感もクリスタルオニオンの甘みもない、ただ腹を満たすためだけの食事。

 今の俺の舌はあの魔狼のローストの味を、そして仲間たちと囲んだ焚き火の温かさを鮮明に記憶している。それと比較するのは酷だと分かっていても料理人としての魂が「これじゃない」と叫んでいた。


「……早く自分の店を持たないとな」


 俺は義務感でその食事を胃に流し込み、部屋へ戻った。

 窓の外には、王都の夜景が広がっている。明日からは、本当の戦いが始まる。

 俺は吸い込まれるようにベッドへ倒れ込み、意識を深い眠りへと沈めた。



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