二十話 豪勢な食事
「みんな、お疲れ様。今夜の食事は少し豪勢に行くよ」
俺はアイテムボックスから、秘蔵の食材を取り出す。
あの最初の森で狩った『黒銀の魔狼の肉』道中で見つけた『シルバーマッシュルーム』と市場で買った『黄金人参』『クリスタルオニオン』『バンプポテト』さらにガストンの馬車から提供してもらったバターと熟成された高級赤ワイン。
今夜のメニューは『黒銀の魔狼のロースト』だ。
まずは肉。表面に塩を強くすり込み、時間をかけてゆっくりとフライパンで熱を入れていく。焼き上がったら肉を休めて肉汁を落ち着かせる。
『黄金人参』『クリスタルオニオン』は微塵切りにして炒める。そこに『シルバーマッシュルーム』を加えて赤ワインを注ぎ煮詰める。
『バンプポテト』は皮のまま茹でて熱いうちに皮を剥いで裏ごしする。そこにバターを加え練り上げる。
皿の中央に『バンプポテト』をしきつめ、『黒銀の魔狼の肉』をのせて「山」にする。肉とその周囲に『黄金人参』『クリスタルオニオン』『シルバーマッシュルーム』のソースをかけて出来上がり。
「……ねえ、エルン。私、王都に行かなくても、一生このキャンプでいいかもしれない」
フィオが出来上がった料理を見つめながら、うっとりと呟く。
「バカ言え。でも……確かに、この匂いだけで『王都の高級レストラン』に来た気分だぜ」
白いお皿に盛られた料理が全員に配られた。
「……っ!!」
一口食べた瞬間、全員が沈黙した。 それは、言葉にするのがもったいないほどの衝撃だったからだ。
「……なんということだ。私は、人生の半分を損してたのかもしれない」
ガストンが怖い声で言った。
「旨すぎる……。明日、俺、今日より三倍は強く戦える気がするよ」
エルンが器を舐めるように食べて、テオも無言で何度も頷いている。
フィオは泣きながら食べていた。
「お肉は噛むたびに、温かい魔力が身体の隅々まで溶け出していくような……それにこの白いポテト……! 雪みたいにふわふわなのに、ソースの旨味を全部抱いて……口の中で溶けて消えちゃう……。うぅ、飲み込みたくない、でも、止まらないよぉ……!」
四人とも絶賛しているようだし、作ったほうとしても喜ばしい。
皿に残ったソースも綺麗に食べ、最後の一口を名残惜しそうに飲み込んだフィオがふと不思議そうに首を傾げた。
「あの、カケルさん。これ……本当になんのお肉なんですか? 体がポカポカして魔力が指の先まで満ち溢れてるみたいで……。ボアにしては上品すぎるし、雷鳥とも全然違いますし……」
フィオの問いに、エルンとテオも動きを止める。 俺は焚き火に薪をくべながら答えた。
「ああ、それ?『黒銀の魔狼』だよ。以前に仕留めたことがあってアイテムボックスに入れっぱなしだったんだけど、前に食べたときうまかったし今日のご飯に使ってもいいかなって」
その瞬間、野営地が静まり返った。 フィオが手に持っていたフォークが、カランと音を立てて皿の上に落ちる。
「…………はぇ? ……黒銀の……魔狼?」
フィオの顔から一気に血の気がひいたかと思うと、今度は耳まで真っ赤になった。
「ええええええええっ!? 黒銀の魔狼って、Bランク……いえ、Aランクに近い魔物ですよ!? 」
彼女は立ち、俺と空になった自分の皿を何度も見つめて怖い顔をしている。
「うわぁ……! 私、とんでもないもの食べちゃいました……! 王都のオークションで結構な高値がつく魔物ですよ!? 貴族でも贅沢するときに食べるっていう……! うぅ、胃が重くなってきました……っ!」
「はは、胃に入っちゃえばみんな同じ食材だよ。な、ガストン?」
ガストンはガタガタと震えながら、空の皿を拝むように見つめていた。
「……カケルさん。あなたというお人は……。商売の常識だけでなく、冒険者の常識までフライパンで炒められるのですか……」
「そんな驚かなくても……まだアイテムボックスの中に結構残ってるんだよな。あ、ガストンお土産に持ってくか?」
俺が冗談めかしてそう言った瞬間、さっきまでの発言が嘘のように彼は音もなく立ち上がり、プロの商人の目……いや、獲物を狙う肉食獣のような鋭い目で俺を凝視した。
「……カケルさん、今なんて言いましたか?」
「ん?だから、肉が余っているからあげようかなって……」
「なにを言っているんですか!」
ガストンが俺の手を握ってガシッと掴んだ。 その力は戦いのときに怯えていた男のものとは思えないほど力が強い。
「カケルさん! その肉、我が『ガストン商会』が買い取らせていただきます! いえ、買い取らせてください! お土産だなんて言ってはいけない! これはもう『国家予算の断片』と言っても過言ではないのですぞ!」
ガストンは鼻息を荒くして、顔を近づけてくる。
うん、顔近いし、とりあえず離れてほしいわ……
「黒銀の魔狼の肉は、不老長寿の薬の原料になるとも、魔力を永続的に底上げする伝説の食材とも言われているのです。王都の最高級オークションに出れば、金貨が山を成ります! それを、あろうことか『お土産』だなんて……!恐ろしいお人だ、あなたは……!」
不老長寿の薬?魔力を永続的に底上げする伝説の食材?
ないない、前に食べてからそんなことないし、すでに「勘」がないって告げている。
「お、おい、ガストン。カケルは冗談で言ってるんだろ?そんなに詰め寄るなよ」
エルンが割って入るが、ガストンの勢いは止まらない。
「冗談!? エルンさん、これが冗談で済まされるはずはないでしょう! カケルさん、お願いします! この肉の流通を私に任せていただけるなら、王都での店の登記、厨房機器の手配、さらには貴族街への紹介まで、すべて私が責任を持って手配しましょう! 間違っても絶対に……勝手に……その肉だけは、他の商会には渡さないでください!」
ガストンの必死すぎる形相に、フィオも唖黙って「あぅあぅ」と声を漏らしている。
とりあえずガストンを落ち着かせよう。
「ガストン、落ち着いて。この肉は俺も料理人として自分の手元に置いておきたい。それに売るっていうのは最終手段だ。一応これは俺の大事な『食材』なんだから」
「そ、そんな……! これを独り占めとか、もったいなさすぎます……!」
「今すぐ売って、というのはさすがにガストンの商会や市場を混乱させるだろ。ガストンには家族とかで食べる量だけおすそ分けするから帰ってからみんなで食べてくれ。焼くだけでもうまいからな。その代わり、もしかしたら将来的に俺がこの肉を市場に出したり、誰かに販売を委託したりする時は、一番にガストンの商会に声をかける。……これでどうだ?」
その言葉を聞いた瞬間、ガストンは一瞬魂が抜けたような顔をして、すぐに商人の顔に戻った。
「……優先販売権、ですか? 要するに、将来的にこの食材を扱う窓口は、我がガストン商会が独占できる可能性があると……」
「そうだな、約束するよ」
「……わかりました。カケルさん、そのお言葉、肝に銘じましたぞ! いただきましたおすそ分けは、我が家の宝……いえ、商売の未来を切り拓く『黄金の鍵』として、大切に、それはもう大切に扱っていきます!」
ガストンは頭を下げ、俺から差し出された魔狼の肉を受け取った。
いや、家宝とか扱うとかじゃなく食えよ?
「……ったく、ガストンの商売の熱意に付き合うと疲れるな……」




