十四話 準備と食材調達
ギルドを出た俺は金貨の詰まった袋の重みを確かめながら、防具屋へと足を運んだ。
いくら「勘」やチートがあったとしても、絶対に攻撃を受けないなんてことはないだろう。武器は今のところサバイバルナイフがあるからいいとして、防具は絶対に必須だ。
「親父、王都までの一人旅だ。防御力は欲しいが動きに邪魔にならない、機動力重視の装備を見繕ってくれ」
店主の親父は俺の体格をじろりと眺め、奥から一揃いの装備を持ってきた。
「なら、こいつがいい。『黒角山羊の軽量革鎧』だ。金属鎧ほどの重さも防御力もないが、刃物を通さないほど頑丈でおまけに魔法耐性も少しはある。肩周りがフリーになってるから邪魔にならずに腕も存分に振るえるはずだ」
試着してみると驚くほど軽い。それでいて急所である胸元や脇腹は硬質のプレートで補強されている。
「悪くない。よし、これにするよ。……いくらだ?」
俺が尋ねると、親父はニヤリと笑って太い指を三本立てた。
「装備一式、調整込みで金貨30枚だ。いいかい兄ちゃん、そいつはただの革鎧じゃない。王都までの過酷な旅路、あんたの命を預ける『厨房』の一部だと思やぁ安いもんだろ?」
「金貨30枚だと? ……おい親父、冗談がキツいな。そんなに高くねーだろ、これ」
俺が眉をひそめて言い放つと、防具屋の親父は一瞬面食らったような顔をした。
「……ほう? 何が不満なんだ。最高級の革だぜ?」
不満というか、「勘」が告げていた。素材の質、縫製の密度、そして市場の相場。それらを総合した計算が、親父の提示した価格と食い違っている。
「素材はいいが、この肩当ての裏の処理、少し甘いな。それに王都までの旅で使い倒すなら、後で自分で手を入れる手間もかかる。……金貨22枚。それが妥当なラインだ」
「なっ、22枚だと!? 叩きすぎだろ! せめて28枚……」
「24枚だ。それと防水用の油脂を店で一番いいやつにして一瓶付けてくれ。それで手を打つなら、今すぐ金貨で払う」
親父はしばらく俺を睨みつけていたが、やがて「……チッ、目の利く野郎だ」と吐き捨てて、頭を掻いた。
「わかったよ、24枚で持ってけ! その代わり、王都で出世したら『あの店の防具のおかげで命拾いした』って言いふらすんだぜ」
「ああ、約束するよ」
防具屋を後にして次に向かった市場では、手に入れたばかりの革鎧を馴染ませながら、食材を次々と買い漁る。
「その霜降りの獣肉、塊でくれ。あと、この川魚は鱗を落とさずそのまま。野菜は根っこが付いたままでいい」
店主たちが驚くほどの量を注文したが、俺にはこれらをすべて鮮度抜群のまま運ぶ手段がある。
『アイテムボックス』だ。
このアイテムボックス、昨日試してみたんだが容量はいまだ不明。今現在でも結構な量は入っているはずだがいっぱいになる気配はない。また内部は時間経過が完全に停止している。つまり熱々のスープを入れれば一ヶ月後でも火傷するほど熱いままだし、獲れたての魚を放り込めばいつ取り出してもピクピクと動いているはずだ。料理人にとって、これ以上の『究極の冷蔵庫』はない。
肉、魚、色とりどりの野菜、そして大量の調味料に香辛料。
隠れながら次々とアイテムボックスへ吸い込ませていく食材を見送りながら、俺は微笑んだ。
「……これで、道中の飯に困ることはないな」
俺は宿に帰り、カウンターで一息ついている女将さんに声をかけた。
「女将さん。……明日、ここを発って王都へ行くことにするよ」
女将さんは動きを止めこちらを見てきた。
「王都はね、この街とは比べものにならないくらい冷たい場所だよ。欲にまみれた奴もいれば、平気で人の努力を踏みにじる奴もいる。でもね、あんたの作る料理には食べた人の心を真っ当な場所に戻す力がある。それだけは、向こうに行っても忘れちゃいけないよ」
そう言ってすべてを察したように柔らかく笑った。
「……王都で疲れたら、いつでもここへ帰っておいで。あんたの寝床ぐらい、いつだって空いて待ってるからさ」
「……ありがとう」
俺は軽く返事をし、照れ隠しに軽く会釈をして階段を上がった。
自室に戻り準備を終わらせた後、ベッドに横たわり天井を見つめる。
(地理も知らない、護衛もいない……。正直、無茶なのはわかってる)
だが、恐怖や不安よりも高揚感が勝っていた。
前の世界での料理人の誇りがこの異世界の空気の中でかつてないほど鋭く研ぎ澄まされているのを感じる。
「王都……待ってろよ。俺の料理で満足させてみせる」
心地よい緊張感に包まれながら、俺は深い眠りへと落ちていった。




