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月と紡ぐ物語  作者: 柚みつ
闇夜に惑う

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19/61

3.

途中、ルーク視点があります。

 ルークの発言の衝撃は、あまりに強すぎた。

 何か言おうとしてもそれは音にならず、わたしの口はただ開いて閉じてを繰り返す。

 だけど、どこかで納得もしてしまう。元々ヒトの多いところではそうだったけど、ヴォルフが自分の色を完全に隠すようになったのは、海が近くなってから。そこにあるのは、モジュールに行くための船が出ている、港だ。


「高く売れるのは商品として、なのよね」

「モジュールで獣人がどう扱われているかは知らないけど、たぶんそうだと思うよ」


 いつものような口調なのに、頬杖をついたまま外を見る視線は険しい。それだけ、ルークも警戒しているという事なのだろうか。その視線の先を追うように窓の外を見てみたけれど、辺りには明かりもないうえに今日の月は細いらしく、目を凝らしてもたくさんの木々があることしか分からなかった。

 わたしの様子に気づいたのか、苦笑したルークがこちらに顔を向けた時には、目元を緩ませていたけれど。


「セレちゃんは、いつもと変わらない笑顔でヴォルフを迎えればいいんだよ」

「だけど、そんな話を聞いたならわたしにも他に出来ることが……」

「あるかもしれない。けど、たぶんヴォルフは望んでいないよ」


 望んでいない、もしかしたらそうかもしれないと自分でも思っていたことが、改めて言葉になると重みを増す。

 何よりも、それをルークに言われたという事で、何とも言えない感情がわたしのなかをぐるぐると回る。

 一緒にいた時間は、わたしの方が長いはずだ。だけど、種族の違いはやはり大きい。分かっていたつもりのわたしでは、ヴォルフの力になれていなかったのだろうか。

 そんなわたしの考えを見透かしたかのように、ルークがゆっくりと口を開いた。


「僕はともかく、セレちゃんになら話す機会はいくらでもあったでしょ?」

「でも、ヴォルフから何も聞いていないわ!」

「話したらセレちゃんも巻き込む事になるからね」

「巻き込むって! そんな危ないならなおさら」

「相手は獣人でも構わずに手を出すんだよ? 自分の身を守れるの?」


 これは、ただの八つ当たり。それを分かっているのに、気持ちを吐き出したくてたまらなくて。

 ルークの指摘は最もだ。わたしは、いくら祖父母から護身術を仕込まれたと言っても所詮はただのヒト族。自分の身を守れる程度しか出来ない。感覚も、力も、どれも獣人には及ばない。獣人の中では弱いんだと笑っていたネズミ族のアンおば様だって、わたしの倍くらいの荷物は難なく運ぶ。

 ヴォルフを狙うくらいなのだ、相手はどんな行動でも見逃さないだろう。そんな状況で自分の身だけしか守れないわたしがほいほい姿を見せるのはヴォルフの弱点にしかならない、そう頭では理解しているのに。


「……それでも、話してほしかったわ」

「うん、そうだね。だから、ヴォルフに直接伝えよう」


 しまいには涙をあふれさせてしまったのに、ルークはそっと肩を抱き寄せてくれた。そのまま、ぽんぽん、と添えられた大きな手であやすように優しく叩いてくれる。

 今、隣にいるのはルークなのに、その温もりや叩き方が違う、とそう思ってしまうのは。


「そのためには、セレちゃんは寝ないとね」

「……今日は起きているわ。起きていたいの」

「起きていてもいいけれど、ひどい顔させていたら僕がヴォルフに怒られちゃうよ。獣人は一晩寝ないくらい、大したことないんだから、今日のところは僕に任せて?」


 ルークが淹れてくれた紅茶はとっくに冷めていて、ほとんど口をつけていなかったからそれなりの量が残っていた。冷え切った紅茶を飲み干せば、さっき泣いたのもあって重くなってきた瞼を覚醒させることが出来るかもしれないと考えたのだけれど、そう上手くはいかなかったようだ。

 いつも二人に甘えて寝てしまっている時間をとっくに過ぎているわたしの目は、堪えきれずに閉じてしまいそうなのだけど、どうにかくっつかないようにぐっと力を込める。

 獣人が一晩寝なくても大したことない、なんて初めて聞いたし、ルークはいつも幸せそうな顔で寝ている。何時になるのかは分からないけれど、ヴォルフはきっと帰ってくるだろうから、ちゃんとに迎えなければ。


「セレちゃんが今一番やらないといけないのは、何?」

「ヴォルフを、迎えることかしら?」

「そうだよ、それも、とびっきりの笑顔でね。だから、ゆっくり休んで」


 ルークがすっと静かに立ち上がり、ソファーの空いたスペースにゆっくりとわたしを横たえてくれた。ふんわりと毛布を掛けられ、床に座り込んだルークが起き上がれないように、でも押さえつけるわけでもない絶妙な力加減でわたしの腕を押さえる。

 ただでさえとろりとしていた意識が耐えきれるわけはなく、抵抗らしい抵抗も出来ないままにわたしは今日も寝てしまった。



 *



「お帰り。酷い顔だね」

「あいつは……」

「寝かせたよ。どうにか言いくるめてね」


 獣人は一晩くらい寝なくても大丈夫、それは僕がセレちゃんに言ったことだ。実際徹夜したって次の日は変わらず動けるし、睡眠時間が短いからってヒト族のようにすぐに体調に変化が出ることはない。

 だけど、ヴォルフの目の下には、はっきりとそうだと分かる隈が刻まれている。

 それが示すのは、もう何日もヴォルフがまともに睡眠を取っていない、という事。


「そうか。……すまなかった」


 窓から見えないような位置を陣取り、それでも忙しなく動く耳と視線。だけどソファーで穏やかな寝息を立てているセレちゃんを見るとほんの少しだけ、安心したように纏っていた空気が和らいだ。


「港を避けるだけじゃ、解決にはならないよねえ」

「向こうにしたらようやく俺を見つけたんだ、今更どこに行ったって逃がさないだろ」


 ようやく、と言うくらい追われていたのに、セレちゃんと一緒にいた時にそれを感づかせなかったのは運が良かったのか、それともヴォルフが相当気を張っていたのか。

 どちらにせよ、目をつけられていたなら遅かれ早かれこの問題には直面していたって事だ。


「一人で動いているように見せるのも限度がある、か。それなら潰しちゃった方がいいね」


 どこに行ったって関わってくるのなら、一度はっきり実力を見せつけてしまった方がいいだろう。敵わないと思わせれば寄ってくるのは減るに違いない。相手がどの程度かは知らないけど、ヴォルフに、僕もいるならまあそれなりに立ち回れるだろう。


「ルーク、まさか」

「僕じゃないよ。同族。何人か見世物で連れていかれてるからねえ」


 コレクターはヒト族に多い。だけど、獣人にだっていない訳じゃない。同族を売る事に何も思わず、お金になるからとウサギ族やネコ族、サカナ族は捕まることが多い。ヒト族だけなら逃げられても、トラ族やトリ族のような、クマ族だって抵抗できないくらいの屈強な肉体を持っている種族が用心棒のように付き従っている時もあるようだから。


「お前の手を借りるつもりはないぞ。これは、俺が蒔いた種だ」

「標的は一緒、守りたい物も同じ。だったら手を組まない理由はないと思うけど?」

「……」


 これが、ヴォルフなりの優しさだろうというのは、直接はセレちゃんに伝えていない。たぶん、セレちゃんは僕の言葉からそれを読み取っているだろうけど。

 全部を一人で解決できるのだったら、抱え込んでもいいだろう。実際あの町に辿り着くまでのヴォルフは、きっと何とかしてきたのだと思う。

 頼る、という事をすっかり忘れてしまったヴォルフに、もう一度誰かの手を取るという事を思い出してもらわないと、この先困るのだ。セレちゃんの涙を、もう見たくないから。それを言葉にしない僕もずるいのかもしれないけど。


「すぐに答えなくてもいいよ。だけど、手はいつでも貸せるから覚えておいて」


 片手をひらひらさせながら、返事もせずに背を向けたヴォルフを見送る。この小屋には僕たちがいるこことは別にもう一部屋あるから、そっちで休むのだろう。

 休めるかは、分からないけれど。


「さて、薬草の仕分けでもしておこうかなあ」


 夜も更け、月明かりはほとんど届かないけれど、夜目は利く。ランプを使えばもっと早く見分けはつけられるんだろうけど、一晩起きているなら逆にやる事がなくなってしまう。

 ゆっくりと乾燥させておいた草の匂いを嗅ぎながら、それぞれ使う目的ごとに選り分けていく。


 苦い草を飲んだ時のセレちゃんの顔、面白かったなあ。あの時はヴォルフも珍しく表情を崩していたから、またあの時のように笑って旅を続けていくために、頑張らないとね。




 *


「え、ヴォルフ。もう一度言ってくれるかしら?」

「簡単なことを二度も言わせるな。今日は、俺も一緒に行くと言ったんだ」


 ぼんやりとする視界に飛び込んできた黒色に、寝足りない体からの欲求なんて吹き飛んでしまった。さらに告げられた言葉に、自分の耳を疑ってしまう。


「だって、あそこは……っ!」

「あそこは、何だ?」


 いつものように、何でもない事のように悠然と微笑むヴォルフに、それ以上何かを言えるはずはなく。


「なんでも、ないわ。それじゃあ行きましょう。この何日かで薬が結構作れたから引き取ってもらいたいのよ」


 結局、何事もなかったかのように朝食を用意し、簡単に済ませてから久しぶりに三人で小屋を出て町に向かう。

 隣にルーク、一歩後ろにヴォルフ。いつも通りの並びなのに、どこかそわそわしてしまうのはルークから話を聞いたからだろうか。

 当のルークは大したことないと言っていた通り、顔色も食欲もどこにも変なところはなかった。

 その様子にちょっとだけホッとしながらも、足を止めずに歩き続けていたからか、思っていたよりも早くリュム最大の港町、デーナに辿り着いた。




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