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月と紡ぐ物語  作者: 柚みつ
小話集

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15/61

1.

短い話の詰め合わせ

旅の合間のお話

「ヴォルフとの出会い?」


 たき火をするために小枝を拾い集めていたら、そっと寄って来たルークからの質問に、思わずそのまま聞き返してしまう。首を傾げてみせたわたしの様子に、頷いて返したルークは、わたしの少し前にあった太い枝を拾い上げる。


「そう、僕は町で噂を聞いて探してたんだけど、二人はどうして一緒に旅をすることになったの?」


 わたしでは拾ったところで、テントをしているところに持ち帰るまでに腕が疲れてしまうから、選べない太さの枝。同じくらいの太さや、それ以上ありそうな物までひょいひょいと集めるルークは、もうそれなりの量を抱えていた。これくらいあれば、一晩火を絶やすことなく過ごせるだろう。

 枝の心配がなくなったので、さっきの質問に答えようと考えを巡らせる。答えるのは構わないのだけれど、それよりもルークの言っていたことに少しだけ、引っかかる事があった。


「むしろ、わたしはその噂がどんなものだったのかが気になるのだけれど」

「へ!?」

「だって、獣人とヒト族の組み合わせなんて、この大陸では珍しくもないでしょう?」

「あー、うん、それはまあ、そうなんだけど……」

「ヴォルフが目立つのはしょうがないけれど、わたしにこれといった特徴なんてないでしょうし」


 ヒト族しか住んでいないと言われるモジュール、そこに住んでいたのは短い期間だったけれど、獣人の姿を見かけたことはない。それどころか、話を聞いたことすら。獣人、という単語ですらあの大陸に住むヒト族は嫌っていたようだった。獣人を嫌って移住したわたしの母がいい例だろう。

 このリュムは、ヒト族と獣人、それぞれがお互いを良き隣人として接することが出来るヒト達が住んでいる大陸だ。それでも、わたしとヴォルフがヒトの目を集めるなら、それはヴォルフの方だろう。黒髪の獣人、他に見たことないから。

 もう一つの大陸にも行ってみたいと思っているけれど、あそこは獣人しかいない、と言われているしヒト族でも自分の身を自分で守れるヒトじゃないと行けないと聞いている。わたしが行けるようになるのは当分先の事だろう。


「僕にはヒト族の特徴は分からないからなあ」

「わたしも、同じよ。これからルークの話を聞けるのが楽しみだわ」


 そんな話をしながら、ヴォルフが組み立ててくれたテントに戻る。もう設営は終わっていて、わたし達を待っていたようなので、種火をもらって少しずつ、火を育てていく。一気に枝を入れ過ぎてもいけないし、この作業は毎回緊張するのだけど、嫌いではない。


「ねえ、ヴォルフ。セレちゃんって」

「比べる対象が自分の祖父母だけだ」

「そっかぁ……」


 ルークが持っていた太い枝をヴォルフも一緒に小さく割っていく。素手で枝をバキバキと折っているのに、棘が刺さっている様子もない。小さく会話をしているのは聞こえていたから、ヴォルフも随分とルークには気を許しているのだろうと思った。


「ねえ、そろそろ焼けるわよ」


 ある程度火が大きくなった頃合いで入れていた芋に、良い感じの焦げ目がついてきた。念のために一つ割ってみれば、蒸気が湧き上がる。ハーブと塩を混ぜたものをパラパラと振りかければ、今日のご飯の完成だ。ヴォルフ達には物足りないだろうから、干し肉も少し炙っておいた。後は自分たちで量を調整するだろう。


「ありがとー!」


 結局、その場は美味しく芋を食べて終わってしまい、ヴォルフとの出会いについてもわたし達の噂についても、それ以上の何かを聞くことはなかった。


 *


「食べ物の好き嫌いね」


 どうしても、旅をしていると食の話題が多くなるな、と思ったけどこれも大事な話だ。ルークと一緒に行動するようになってから、きのこや木の実、植物の見分けには多少の知識が増えたけれど、まだまだ知らない事は多い。

 今のところは食料の調達には三人で動けているけれど、いつどうなるのか分からないのだから。お互いの好き嫌いを知っておくのは悪い事ではないだろう。


「特にないな」

「ヴォルフはそうよね。出て来たものを残しているの、見たことないもの」

「セレちゃんはあるの?」


 ちなみに、ルークも特にはないそうだ。好みはあるみたいだけど選んでいられるような余裕がない時に、食べられないなんて言ってられないという何とも殺伐とした理由を笑顔で語るものだから、しばらくの間ルークの好きそうな食事を選べればいいな、とは思ったけれど。


「今のところ、思いつかないけれど……」


 ちらり、と二人の方を見ればルークが川から獲ってきた魚を、何の手も加えずに腹から丸かじりしようとしている。

 お腹も強い獣人ならではの行動だとは分かっているけれど、わたしが同じことをしようとするならしばらくの間は腹痛に怯えながら過ごさないといけなくなる。

 はい、と手渡された魚に視線を落とし、ついでにため息も一つ。


「そうやって、生のお魚をそのまま食べるのはちょっと難しいかもしれないわ」


 棒を刺して、塩を振ってから火の近くに持っていく。火の勢いが思ったよりも強かったからか、あっという間に辺りには美味しそうな匂いが漂い始めた。


「……そっちの方が美味そうだな」

「だよね。僕も思った」

「え、ちょっと二人ともそのまま火にくべないで!」


 かじろうとしていた手を止めて、わたしの調理とも言えない作業を見ていた二人が、火の傍に寄ってくる。手にしていた魚を、そのまま火に投げ入れようとするのを必死で止めて、同じように棒に刺してから焼いていく。

 どうやらお気に召したようで、一口食べて目を輝かせたルークは食べ終わるとすぐに川に向かって行った。ヴォルフはもう何本か魚に刺せそうな長さの棒を持ってきては黙々と形を整えている。

 町で食べるものに比べたら手もかかっていない、何ともシンプルなものなんだけど。二人が美味しそうに食べているからいいか、と思ってわたしも自分の分の魚に手を伸ばした。



 *


「きゃあ!」

「大丈夫?」

「あ、ありがとうルーク。おかげで転ばずに済んだわ」


 手を伸ばしても届かないくらいの距離は開けて歩いていたはずなのに、わたしが躓いたらさっと手を回して、地面にぶつからないように支えてくれていた。ヴォルフもだけど、ルークも動きが速いのよね。

 足元を見たら、木の根っこが道の方に飛び出していた。ちゃんとに見れば避けられる位置なのに、段々と暗くなり始める時間だからか、陰になる所にあるものは見落としやすくなっている。


「近くに小屋も見当たらない。あっちに水場があるから今日はそこだな」

「ええ、そうしてくれると助かるわ」

「……どこか痛めたのか」


 しまった、言い方を間違えた。そう思った時にはもうヴォルフの目はわたしの足元を捉えていた。さっと動かそうとするよりも早く、この薄暗い中でも的確に。


「ルーク」

「分かった!」


 ヴォルフが名前を呼んだだけで、心配そうに私を見ていたルークはサッと身を翻して森の中へと消えて行った。枝を落として光が入りやすくなっている道ですら足元が見えづらくなってきているのに、森は木々の手入れなんてしていないから暗さは段違いだろう。それなのにルークの足取りには何の迷いもなかった。


「自分で歩けるか」

「肩だけ、貸してもらえるかしら?」


 ヴォルフがわたしの足元を見る目は厳しく、肩だけでいいのかと伝えようとしているのは分かっているけれど、出来る限りの事は自分でやりたいわたしのわがままを知っているからか、それは言葉になる事はなかった。

 スッと少しだけ屈めてくれた肩が答えの代わり。申し訳ない気持ちもあるけれど、やっぱり優しいな、とその気遣いに嬉しくて笑みがこぼれてしまう。


「ふふ」

「何がおかしい」

「前にもこんなことあったな、って思いだしたのよ。そんなに時間は経っていないはずなのに、すごく懐かしくなって」


 おじいちゃんとおばあちゃん。仲の良かった二人は最期まで一緒だった。その二人が眠る前に立った時に、支えとなっていたものが全部なくなったように、わたしはその場から動けなくなった。

 町の誰もが動かそうと、家に連れて行こうとしてくれたのに動けなかったわたしを、引っ張ってくれたのがヴォルフ。

 その時にも今みたいに険しい顔をして、耳は忙しなく動いていたし、言葉は相変わらず少ないけれど。


「尻尾がね、そっと寄り添ってくれていたの。今と同じね」


 ちょっとだけごわついた毛並みだけど、触れるか触れないかくらいのところにずっとあった温もり。

 ハッとした顔を見せたヴォルフからしたら、不本意だったのかもしれないけれどその温かさはとても嬉しかったのだ。

 記憶よりも見上げなくてはいけなくなった目線だとか、逞しくなった体つきだとか、変わっていくものも確かにある。それでも、今も寄り添ってくれる温もりは変わっていない。


「セレちゃん! はいこれ!」

「え、ちょっと待ってルークそんなに持てないわ」


 水場に到着するなり手渡された、というより手に落ちてきたのはこの辺りからかき集めて来たんじゃなかろうかと思うくらいの量。一瞬にして自分の手が緑に埋まる。

 肩を支えてくれていたヴォルフがため息を吐きながらスッと離れ、一枚だけ手に取って渡してくれた。


「腫れを鎮める薬草だ。こっちは痛み止め。すり潰して飲むとよく効く」

「すり潰して、って苦い、のよね?」

「大丈夫だよ、セレちゃん!」


 モジュールにいる時にもらった薬は、苦みなどを感じないように作られていたから、わたしも平気で飲めた。それがなくなってからはおばあちゃんに教えてもらった薬の作り方を少しだけ甘くしてもらって、飲みやすいようにしていたから、今でも苦いものはあまり得意ではない。

 そもそも、最近は薬のお世話になるような事なんてなかった。

 わたしの気持ちが通じたのか、薬草を山ほど持って来てくれたルークが笑顔で大丈夫だといってくれるのであれば、この薬草はそこまで苦くないのだろう。

 そんなわたしの期待は、すぐに打ち砕かれてしまうのだけれど。


「口直しに、たくさん果物も取ってきたから! ちょうど食べごろの甘いやつ!」

「ルークの好意を、無駄にはしないよな?」


 一晩で、腫れも痛みも確かに引いたけど、これからはより一層足元に注意して進もうと決めた。


「これだけ取ってきたんだ、乾燥させて何枚か持っておくか」

「そうだね、場所によっては良い値段で買ってもらえるよ」


 口の中一杯に広がる苦味と戦っていたから、二人の間でそんな会話がされていたことを、わたしは気付けるはずもなかった。


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