39 1回戦、第8試合
闘技場中央に二人の選手が現れると、すぐに試合が開始された。
昴の視界が歪み、直人の姿が消えていく。
観客からは消えたと叫ぶ人もいるが、他の場所から見ている人は、直人がただ立っているだけにしか見えない。
昴が構えると直人は右手を挙げ、昴に向かい掌を翳す。
周りからは早く戦えとヤジを飛ばす者も出てくるが、実際は直人が見えない攻撃を飛ばし、昴が受け流している。
そう!既に闘いは始まっていた。
直人は少しバックステップで距離を取ると今度は人差し指を向けた。
すると昴は受け流すのではなく、奇跡的な反射神経で避ける。
周りから見ると昴が狂った様に勝手に動いているみたいに見えるが、とても小さく早い空気の塊が昴に向かった飛んできている。
「それでも終わりか?」
無言だった二人の試合に初めて声が出た。
その時、まるで直人の位置が分かっているかのように空気の弾丸を最小限で避けながら近づくと、後少しの所で昴が吹き飛んだ。
「惜しかったな」
今度は直人が声を出した。
「なかなか面白い。遠距離からは見えない空気弾で小さく早い。中距離からは砲丸の様な大きさと威力のある攻撃で、近距離は直径約2メートルぐらいかな?そして威力もなかなかだ。これは普通に闘っては近づく事も出来ないな」
だが、さっきと同じ様に昴は直人に近づく。
すると、今度は直人が吹き飛んだ。
何が起きたか分からない状態で直人は立ち上がると、昴は一気に間合いを詰める。
直人は攻撃が間に合わない。
掌に空気を溜めた状態で昴に攻撃するが、全て受け流し、直人の攻撃力をそのまま返す。
そう!彼は自分の攻撃を喰らっているかの様なダメージを負う。
「勝者、真田昴!」
気付くと昴がほぼ無傷で勝利していた。
観客は口を開けたまま驚いている。
ほとんどの客は余裕で直人が勝つと思っていたからである。
しばらくしてようやく直人に賭けた客の嘆きの声が闘技場に響いた。
★ ★ ★
「さすが蓮!蓮が賭けた奴勝ったよ!!」
「本当に強いです。こっちから見ていて最初は何か見えない相手と闘っていると思ったら、気付くと相手を圧倒的な業で勝ちましたね」
「どうだった棗、あれが極めた柔術だよ。次は東城家の業と彼の業のぶつかり合いだね。まぁまだ彼では昴くんには勝てないけどね」
「私もまさか能力にまで柔術が使えるとは思わなかったわ」
「響子も良いとこ見てるね」
「ねぇ蓮、1つ分からないの」
「何が?」
「一度吹き飛んだ昴が2回目にはすり抜けた様に直人の間合いに入った。どうやったのかしら」
「それは彼がそこだけ能力を使ったからだよ」
「何の能力?」
「二重だよ」
「「「ドッペルゲンガー?」」」
「簡単に言ったらドッペルゲンガーがあの時空気の壁の中に入り、能力を消して自分がドッペルゲンガーの位置に瞬間移動をした。だからよく見ていた人は一瞬彼がブレた様に見えた筈だ」
「そういえば…」
「あの一瞬だけ彼は2人になり、分からない速さで能力を解いたって事」
「凄い高度な闘いをしたって事ですよね」
「そうだね。悠斗も自分の能力の使い方を勉強するといいよ」
「はい!」
そして蓮は口には出さなかったが確信した。
武田直人の正体はテンだ。
闘い方、能力、ほぼ間違いないだろう。
ただ、ここにいる3人は知らないので今言う必要は無いし、この部屋は監視されている。
ここでの会話は録音されている可能性は大だ。
だから余計な事は言わないようにしている。
そして扉からノックが聞こえると、案内人の女性が部屋に入ってきた。
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