二話閉塞
登場人物紹介
本多咲大学一年 たまてばこ所属
渡辺巡大学三年 演劇部所属
4月になり大学の二回生ともなると、僕というどこにでもいそうな人間でも少なからず立場というものが出来る。
新入生歓迎のいろいろが落ち着いた5月の始め、僕は倉庫と呼ばれる作業場に来ていた。
「先輩、最近ちゃんと食べてます?また顔色悪くなってきてますよ」
「…うん、まあ食べてるよ、割と」
前よりはね、と付け足すと足を早め作業に戻ろうとする。
「あ、先輩!!」
足をはやめた僕に、少し遅れて彼女も合わせてついてくる。
彼女は僕が所属しているサークルの後輩だ。申し訳ないが名前はまだ覚えていなかった。
僕の所属するサークル“たまてばこ”は非公認サークルながら割と昔から続くサークルで今も細々と活動している。
活動内容と言えばほとんど演劇部と似たり寄ったりの演劇部モドキなのだが、代々の先輩方の弁からすると、もっとアバンチュールでエキセントリックでアウトソーシングな部活らしい。
いろいろな解釈があるが、演劇部内で二つの派閥が出来て分裂した、と言う歴史的背景があり、その片方が今の僕の所属するサークルなのだ。
設立当初の母体が下請けの様な仕事ばかり押し付けられていた二年生が主体であったらしく、その部分がアウトソーシングなのだろうと言われている。
また別サークルを作ることを許可してもらうかわりに大道具など今までの仕事もちゃんとやる事、それが設立の条件だったらしく、そのまんまの意味で下請け業者になったとも言われている。
余談が過ぎてしまった。
しかして活動を続けてきた中で、大道具など組み立てのノウハウは今に息づいており、我らサークルの誇りでもあった。
あわせて、脚本家に恵まれないのがうちの伝統であるらしく、今年もしっかりその流れを引き継いでいた。
「渡辺先輩酷いんですよ、私にヒロインやれ、だなんて」
「いいじゃないか、こんなところでトンカチ叩いてるよりよっぽどマシだろ」
「先輩までそんなこと言う」
頬を膨らませて怒ってますアピールをするのをよそ目に大道具に使う木材を持ち上げる。
「あ、端持ちます」
「おう」
一人で運べる、と言うとまた拗ねるので口には出さずに黙っておく。
今日は活動自体は休みでみんな休んでいる日にこうして出て来てくれているのだから
缶ジュースでも奢らないとな、と心にとめた。