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お疲れ女神の無茶振り世直し転生 不老不死おじさんの苦悩  作者: mojito
第1章 セリオン村編

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ドーランと、罠の改良

剣術というほど大層なものではなく、棍棒や短剣の扱い、獣の急所、逃げるべき時と戦うべき時の見極め方――ドーランの教えは、生き延びるための実践的な技術だった。


 その日の稽古のあと、夕餉の席でドーランが珍しく愚痴をこぼした。


「……最近、獲物の掛かりが悪い」


「掛かり、というのは」


「罠に獲物が掛かる数だ。ここ数年で目に見えて減ってる」


「原因は?」


「わからん。森の奥に縄張り移した魔獣がいるとか、そういう噂もあるが……はっきりしねえ」


(――待てよ。これ、前に読んだ資料と似てる気がする)


 誠二は箸を止めた。前世、地方の中小企業を回っていた頃、酒造メーカーの原料である米農家が猪や鹿の被害に悩んでいて、業務の合間に自治体の獣害対策資料を読んだことがあった。


「ドーランさん、罠はどこに仕掛けていますか」


「そりゃあ、獣道の真ん中だ。決まってるだろう」


「同じ場所に、何度も?」


「当然だ。一番獲物が通る場所なんだから」


「……ちょっと、見せてもらえますか」


 翌朝、案内された罠の場所を見て、誠二は思わず唸った。


「これは……」


「どうした」


「人の匂いが、強く残ってます。それに、同じ場所を何度も使ってますよね」


「それがどうした」


「獣は賢いんです。同じ場所で何度も仲間が消えれば、警戒して近づかなくなります」


「はあ? 罠なんて、獣道のど真ん中に置くもんだろうが」


 ドーランは腕を組んで首を傾げた。


「罠は、人の匂いを消してから仕掛けるものです。灰を体に擦り込むとか。それと、何か所か候補地を作って、順番に使い回してみませんか」


「……お前、猟師でもないのに、なんでそんなことを知ってる」


「昔、そういう仕事の資料を読んだことがあるだけです。実際にやったことはありません」


「半信半疑だが……まあ、お前の力の異常さは目の前で見せられてるからな。やってみるか」


 灰を体に擦り込んで匂いを消し、罠を三か所に分散させ、順番に間隔をあけて使い回すようにしてみた。二週間後――


「セージ! おい、セージ!」


 息を切らせたドーランが誠二を呼びに来た。


「掛かった、掛かったぞ! しかも三か所全部だ!」


「本当ですか」


「……大したもんだな、お前は」


 ドーランはそう言うと、獲れたての肉を分けてくれた。


「これは、俺からの礼だ。それと――」


「それと?」


「お前、もう弟子扱いはやめだ。狩り、一緒に来い」


 それ以降、狩りに同行させてもらうようになり、時には二人で酒を酌み交わしながら、互いの過去をぽつぽつと語り合う夜もあった。


「セージ、お前、故郷に何かあったのか」


「……もう若くない頃に、離婚しまして」


「そうか」


 ドーランはそれ以上何も聞かず、ただ黙って誠二の杯を満たした。


(――こういう不器用な優しさ、嫌いじゃないな)

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