夢の神託と、闇の正体
「セージさん、ちょっと聞いてほしいことがあるんだ」
孤児院での職業体験プログラムが順調に動き出し、スラム全体に明るい兆しが見え始めていたある日のこと。トトがいつになく浮かない、怯えたような顔で誠二を訪ねてきた。
「どうした、トト」
「……最近、スラムの子どもが、何人か消えてるんだ。いなくなったって噂だけで、誰も本当のことを知らないんだけど……」
「消えてる、というのは?」
「ある日突然、姿を見なくなるんだ。身寄りのない孤児が多いから、周りも最初は『別の街に移動したのかな』くらいにしか思わないんだけど……ここ半月で明らかに人数がおかしいんだよ」
誠二は思わず表情を険しくした。胸の奥で嫌な予感が渦巻く。
(――不法占拠地域や貧困層を狙った神隠し……いや、拉致か。社会的に存在を認知されていない人間を狙うのは、犯罪組織の典型的な手口だ)
「分かった。無理に探ろうとせず、トトは普通にしていてくれ。俺の方で調べてみるよ」
「うん……気をつけてね、セージさん」
拠点の自室で浅い眠りについた誠二は、いつもの「あの場所」にいた。
周囲に果てしない真っ白な空間が広がる、意識の狭間。誠二の前に佇んでいたのは、相変わらず浮世離れした美貌を誇る――誠二をこの世界へ送り込んだ「あの女神」だった。
『お久しぶりですね、誠二さん。すやすやと気持ちよさそうに眠っているところ、お邪魔しますね』
「お久しぶりです、女神様。……できれば、もう少しゆっくり眠らせていただけると助かるのですが」
誠二が苦笑いを浮かべながら丁寧に応じると、女神はクスクスと楽しそうに笑い、満足そうに胸を張った。
『ふふ、相変わらずお硬いですね。でもね、どうしても言いたかったのです! あなたが前に教会のお供えとして置いていってくれたあの『ギョウザ』というお料理……とっても美味しかったですよ! パリッとした皮と溢れる肉汁、素晴らしい工夫ですね』
「……お口に合いましたなら幸いです」
『ええ! それと……『カツカレーライス』というパーティ名! なんだか響きがユニークで、とってもセンスがあって私は好きですよ? いつかそのお料理も天界にお供えしてくださいね?』
「はあ……そちらも機会がありましたら」
どこまでもマイペースな女神に誠二が呆れつつも礼儀正しく返答していると、女神はふっと表情を和らげ、静かで重厚な眼差しを向けた。
『……さて、雑談はここまでにしておきましょうか。今夜お邪魔したのは、あなたに大切なことをお伝えするためなのです。――誠二さん、スラムの子どもたちを救いなさい』
「……子どもたち、ですか」
『ええ。あなたが今変えようとしているあのスラムで、無力な子どもたちの「未来」が惨く踏みにじられようとしています。これは単なる犯罪ではなく、この世界の理を歪める闇の萌芽……。チート能力を拒み、その「規格外のタフさ」と「知恵」で道を切り拓いてきたあなたに、この救済を託しますね』
「頼まれなくとも、そのつもりです。俺の仲間や子どもたちに手を出す連中を、黙って見過ごす気はありませんから」
『頼もしいお答えですね。……健闘を祈っていますよ、我が誇り高きコンサルタント』
女神が温かく微笑むと、純白の世界がスーッと薄れていき、誠二の意識は現実の朝へと戻っていった――。
翌朝。目が覚めた誠二はすぐにノエルとルチアを呼び寄せ、夢での確信を胸にすぐさまゴルドの拠点へと向かった。
「セージか。……ちょうど、お前に話そうと思ってたところだ」
ボスの部屋に足を踏み入れると、重厚なデスクに腰掛けたゴルドの表情は、これまでにないほど深く険しいものだった。煙草の煙を吐き出しながら、ゴルドは低い声で核心を切り出した。
「人身売買だ。……スラムのガキどもが、さらわれている」
「人身売買……!」
横で話を聞いていたノエルが小さな悲鳴を上げ、思わず首元のペンダントを強く握りしめた。ルチアもまた、細い眉を釣り上げて激しい憤りを瞳に宿す。
「この国じゃ、手続きを踏んだ奴隷制度自体は合法だ。重い借金の形や、重罪人の労役免除の代償……そういった書類と筋の通った奴隷なら、官憲も領主も認めざるを得ねえ」
「ですが、親のないスラムの子供たちにそんな『筋』が存在するはずがありません!」
ルチアが溢れ出る怒りを抑えきれずに声を荒らげる。ゴルドは重々しく首を振った。
「その通りだ、ルチア。……問題は、その裏側にある。さらってきた無戸籍のガキどもを、書類だけ偽造して『合法的な身売り奴隷』として仕立て上げ、市場へ売り捌く闇のブローカーがいるんだ。表向きは真っ当な人身売買商に見せかけてな」
「金と権力を使って、腐敗した役人に目をつぶらせているわけですね」
誠二が静かに言い放つと、ゴルドは短く頷いた。法律の隙間を利用し、子供たちの未来を食い物にする闇の組織。昨夜、女神が夢の中で直接「救え」と託してきた意味を、誠二は激しい怒りとともに理解した。
誠二の拳が、白くなるほど強く握りしめられた。
「……セージ。お前、どうする気だ?」
「潰します。……いえ、潰すのを、手伝わせてください」
「一人でどうこうできる相手じゃねえぞ、これは」
「分かっています。だから、ゴルドさんの力……それに、グレイさんの力も借りたいんです」
誠二の言葉に、ゴルドは一瞬目を見開いた。単なる血気盛んな正義感ではなく、相手の構造を見抜き、領主という最高権力者を巻き込んだ「制度ごとの解体」を見据えていることに気づいたからだ。
「……ハッ! 上等だ」
ゴルドは不敵な笑みを浮かべ、力強く立ち上がった。
「俺の縄張りの子どもたちに手を出す奴らを、放っておくつもりはねえからな」
「セージ、私も行きます! あの子どもたちを絶対助けたい……!」
「ええ。『カツカレーライス』の誇りとこの街の未来にかけて、その腐った連中を叩き潰しましょう」
ノエルとルチアも力強く頷く。夢で受け取った神託を胸に、誠二たちはスラムを脅かす巨大な闇への反撃を開始したのだった。
拙作、お読みいただきありがとうございます!
まだ試行錯誤してますので改稿する可能性があります。
よろしくお願いいたします。




