大陸共用語と、この国のこと
「セージ、お前が話そうとしてるその言葉、間違ってはないが、ちょっと古い言い回しだな」
村の広場で農具の使い方を教わっていたある日、ドーランにそう指摘された。
「古い、ですか」
「ああ。……ああ、そうか。お前、そもそも『共用語』ってのを知らんのか」
「共用語?」
「この大陸じゃ、国も種族も違うもんが行き来するだろう。だから、どこでも通じるように作られた言葉があるんだよ。『大陸共用語』ってな。俺たちが今喋ってるのも、それだ」
「……それとは別に、この地方だけの言葉とか、あるんですか」
「あるにはあるが、廃れかけてるな。今じゃ年寄りが、たまに混ぜて使うくらいだ」
(なるほど。前世でいう、共通語と方言みたいなもんか)
誠二は納得しながら、村長ガレンの家で、もう少し詳しい話を聞くことにした。
「セージ、お前、この国のことも、そろそろ知っておいた方がいいだろう」
ガレンは炉端で薪をくべながら、ぽつぽつと語り始めた。
「この村があるのは、リゼンド王国の東の端――ラウド辺境伯領ってところだ。国の中心である王都までは、馬でひと月はかかる」
「ひと月……それは、遠いですね」
「辺境ってのは、そういうもんだ。王都の連中からしたら、俺たちみたいな辺境の民は、税を納めるだけの存在に見えてるだろうよ」
「国は、いくつあるんですか。この大陸に」
「大きいところで五つ、六つだな。リゼンド王国、それと隣国のギャラス公国、南の方には、確か商業国家があったはずだ。もっとも、俺は王都にすら行ったことがないから、詳しいことは、ここに来る行商人にでも聞いた方がいいだろうな」
「行商人」
「たまに来るんだよ。共用語も、王国の噂話も、あいつらから仕入れるのが一番早い」
(――行商人、か。あとで会ったら、いろいろ聞いてみるか)
誠二は心の中でそう呟きながら、頭の中に流れ込んでいたはずの断片的な知識と、ガレンから聞いた話をすり合わせていった。魔法が発達しすぎて技術が停滞しているこの世界では、国同士の交流も、前世の地球ほど活発ではないらしい。それでも、大陸共用語という一本の軸があるおかげで、辺境の村と王都、そして異国とが、かろうじて繋がっている。
「魔法は、国によって違うんですか」
「基本は同じだと聞くな。ただ、王都には『魔法学院』とかいうご大層なところがあって、そこで学べば、もっと強い魔法が使えるようになるらしい。まあ、辺境の村の人間には、縁のない話だ」
「メイベルさんの生活魔法とは、また別物なんですね」
「ああ。メイベルの魔法は、誰でも多少は使える、生活のための小さな魔法だ。学院で教わるのは、もっと物騒なやつだろうよ」
(……派手な魔法学院に、地味な生活魔法。RPGでいう、主人公と村人くらいの差がありそうだな)
誠二はそんなことを考えながら、小さく笑った。
こうして誠二は、言葉だけでなく、自分がどんな世界のどんな場所に立っているのかを、少しずつ理解していった。




