↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お疲れ女神の無茶振り世直し転生 不老不死おじさんの苦悩  作者: mojito
第2章 町のギルドとスラム編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/55

老紳士の申し出

スラムの拠点での話し合いを終え、重い足取りで街へ戻った誠二は、気づけば足がいつもの居酒屋へと向かっていた。


カラリとドアを開けると、店内は相変わらずの喧噪に包まれている。誠二がカウンターの角の席に腰を下ろすと、まるで申し合わせたかのように、すぐ隣の席から低く落ち着いた声がかけられた。


「浮かない顔だね、セージさん」


振り向くと、そこにいたのは身なりの整った老紳士――グレイだった。上質なコートに身を包み、変わらぬ穏やかな笑みを浮かべながら静かにグラスを傾けている。


「……またお会いしましたね、グレイさん」


「ふふ、私の唯一の楽しみは、こうして街の生きた噂話に耳を傾けることだからね。それにしても、今日の君は一際暗い影を背負っているように見えるが……何か壁にでもぶつかったかい?」


「……ハハ、隠せませんね」


誠二は自嘲気味に苦笑いを浮かべ、注文した麦酒に口をつけた。

グレイの醸し出す不思議な包容力に背中を押されるように、誠二は抱えていた苦しい胸の内をぽつぽつと打ち明け始めた。


「鍛冶屋の親方と相談して、少ない力で重い土砂を引き揚げる『複合滑車』の設計は上手くいったんです。ですが……肝心の資金が、どうしても足りなくて」


「ほう、滑車の設計は完成したのか。だが、資金か」


「はい。鍛冶屋の見積もり、掘削に必要な足場の資材費、作業員の最低限の手当……全てを合わせると相当な額になります。マフィアの元締めに相談しても『そこまでの余裕はない』と言われましたし、私個人の貯蓄や行商の報酬を叩きつけても、遠く及びません」


誠二は深くため息をつき、杯を見つめた。


「結局、スラムに金を出す物好きなんてこの街にはいない……それが現実なんですよね。技術ややり方は頭の中にあるのに、お金という壁一枚で何も進まない。悔しいですよ」


前世のコンサルタント時代にも何度も直面した、予算の壁によるプロジェクトの頓挫。異世界に来てまでその壁に阻まれる歯がゆさに、誠二は思わず唇を噛みしめた。


グレイは黙って誠二の言葉に耳を傾けていた。その瞳は、誠二の真摯な熱意と悔しさをじっと見定めているようだった。

としばらくの沈黙の後、グレイは静かにグラスをテーブルに置いた。


「――なるほどな。それだけの規模の計画なら、確かに膨大な金がかかるだろう」


「はい。ですから、どうにか別の迂回策がないか考えているところで……」


「私が出そうか」


「――え?」


誠二は一瞬、自分の耳を疑った。あまりにも唐突で、静かな提案だったからだ。


「私が出そう、と言ったんだよ。その井戸掘りに必要な資金を、ね」


「い、いや! グレイさん、冗談はおやめください。そんな見ず知らずの私に、そこまでの大金をポンと出していただけるわけが――」


「見ず知らずでもないだろう」


グレイは目元に優しい皺を寄せ、いたずらっぽく笑った。


「もう何度も、この店のカウンターで顔を合わせているじゃないか。君の真面目さも、その熱意も、私はよく知っているつもりだ」


「ですが……いくらなんでも、何の得もないスラムの井戸掘りにそんな額を投資するなんて、あまりにも理由がありません」


「理由ならあるさ。……年寄りにはね、時々こういう贅沢な『道楽』が必要なんだよ」


グレイは手元のグラスを軽く揺らし、琥珀色の液体を見つめながら言った。


「金なんてものはね、あの世まで持っていけるわけじゃない。死に金として溜め込んでおくくらいなら、君のような骨のある若者の『挑戦』に使った方が、よっぽど有意義な使い道というものだ」


「……本当に、いいんですか? 何の見返りも、利権もお約束できませんよ」


「ああ、構わないとも。ただし――ひとつだけ条件がある」


「条件……ですか?」


誠二の表情が引き締まった。やはりただの慈善事業ではないのかと警戒する誠二に、グレイは穏やかな笑みを深めた。


「うまくいったら、その報告を私に直接聞かせてくれ。スラムにどんな風に水が湧き、人々がどう変わったか……君の口からその続きの『物語』を聞かせてほしい。それだけでいい」


「そんな……それだけでいいんですか?」


「私にとってはね、それが一番価値のある報酬なんだよ。年を取ると、若い男の面白い挑戦を聞くことくらいしか、楽しみがなくてね」


目を細めて語るグレイの言葉を聞きながら、誠二はその瞳の奥にある、どこか遠くを見つめるような深い色を感じ取っていた。


(――ただの好事家や、噂好きの老人って感じでもないんだよな、この人は……)


この老紳士がただ者ではないことは確かだ。だが、その差し伸べられた手には一切の邪気がなく、純粋な期待と応援が込められていることを、誠二の直感が告げていた。


誠二は立ち上がり、グレイに向かって深々と頭を下げた。


「……ありがとうございます、グレイさん! この御恩は、必ず結果でお返しします!」


「礼はいい。楽しみにしているよ、君が描く奇跡の続きをね」


グレイは杯を掲げると、静かに微笑んだ。誠二も弾む心で自分の杯を掲げ、カチンと小さな音を立てて二人の杯が触れ合った。

拙作、お読みいただきありがとうございます!

まだ試行錯誤してますので改稿する可能性があります。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。