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お疲れ女神の無茶振り世直し転生 不老不死おじさんの苦悩  作者: mojito
第2章 町のギルドとスラム編

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スリの少年と奪われた日常

居酒屋を出て、夜も更けた静かな裏通りを二人で歩いていた時のことだ。

ふと懐に軽微な違和感を覚えた誠二は、素早く振り返って声を張った。


「――お前、今、何をした?」


月明かりの下、そこには痩せこけた一人の少年が立ち尽くしていた。その手には、誠二の財布らしき革袋が握られている。


「っ……あ……!」


少年は慌てて逃げ出そうと踵を返したが、数歩も進まないうちに、激しい咳き込みとともにその場に膝から崩れ落ちた。静かな夜の路地に、痛々しい乾いた咳が響き渡る。


「おい、大丈夫か!?」


誠二は反射的に駆け寄り、膝をついた。追いついたルチアも「待ちなさいセージ、罠かもしれないわ!」と警戒の声を上げたが、倒れた少年の惨状を見て絶句した。

少年の顔は真っ赤に上気し、荒い息が漏れている。額に触れると、まるで火のついた炭のような高熱があった。


「これはひどい……高熱に、激しい咳だ。居酒屋で聞いた熱病か……!?」


少年は苦しそうに肩を上下させながら、うっすらと目を開けた。焦点の定まらない瞳で、誠二を見上げている。


(――放っておけるわけがないだろ、こんな子供)


継ぎ接ぎだらけの服、浮き出た肋骨、痩せこけた頬。重度の栄養失調は一目で分かった。

誠二は躊躇なく少年を背負い上げた。あまりにも軽すぎる身体だった。


「しっかりしろ。今、宿に連れて行ってやるからな」


「……財布……は……」


意識が朦朧とする中で少年が掠れた声で呟くと、横で見ていたルチアがどこか痛ましそうな、それでいて厳しい表情で少年の手に残っていた革袋を取り上げた。


「そんなの、今はどうでもいいわ! セージ、急ぐわよ!」


「ああ!」


夜道に二人の足音が激しく響く。誠二は背中の命を守るため、宿への道を無我夢中で急いだ。


「女将さん! 部屋を貸してください!」


宿に駆け込んだ誠二を見て、女将が悲鳴に近い声を上げた。物音に気づいた亭主も厨房から飛んでくる。


「熱がひどいんです! 冷たい水と布を!」


「もちろんだよ! すぐにお湯と布を用意する!」


女将は慌ただしく動き出し、亭主も厨房へ駆け戻った。誠二は少年をベッドに優しく横たえ、生活魔法の水生成でつくった冷水で濡らした布を額に当てた。


「セージ、この子……あなたの財布を狙ったスリじゃないの?」


冷やし布を絞りながらルチアが低く問う。女将もハッとした顔で二人を見たが、誠二は首を振った。


「知っています。ですが、今はそんなこと関係ありません」


「……相変わらず、おめでたいお節介焼きね」


ルチアは呆れたように息を吐いたが、その手は素早く少年の上着を脱がせ、汗を拭う手伝いを始めていた。

その夜、誠二とルチアは交代で少年の枕元に付き添った。時折うなされる少年の額を何度も冷やし直し、誠二は以前冒険者ギルドで手に入れた安価なポーションの残りを少しずつ口に含ませた。


明け方近く、少年の呼吸がようやく穏やかになっていく。


「……よかった、峠は越えたみたいだな」


「ええ……なんとか持ちこたえたわね」


安堵の息を吐き、誠二はベッド脇の椅子にもたれかかったまま、泥のように眠りへ落ちていった。


翌朝。眩しい日の光で目が覚めると、ベッドの上の少年もうっすらと目を開けて周囲を見回していた。


「……ここ、どこ……?」


「宿だよ。お前、道端で倒れてたんだ」


「あんた……さっきの……。俺、あんたの財布、盗もうとしたんだぞ……?」


怯えたように身をすくめる少年に対し、誠二は優しく微笑んだ。


「そうだな。でも、そんなことより体調はどうだ?」


「……なんで助けたんだよ。衛兵に突き出せばよかったのに……」


「倒れてる子供を放っておいて、財布のことなんて気にしていられるかよ」


誠二が平然と言うと、少年は言葉を失い、ぎゅっと唇を噛み締めて俯いた。横で肘を組んでいたルチアが静かに問いかける。


「あなたの名前は?」


「……トト」


「トト、家族はいるの?」


「いない。……孤児院にいたけど、抜け出したんだ」


「抜け出した? どうしてだ?」


「……食い扶持を減らすためだよ。院長は優しいけど、みんなの分の飯なんて足りるわけないから……」


言葉を失う誠二とルチア。前世の日本でも、平和な世界でも想像したことのない過酷な現実だった。


「粥を食べられるか? 女将さんに作ってもらったんだ」


「……いいのかよ?」


「当たり前だろ」


差し出された熱々の粥を、トトは涙をこぼしながら一心不乱にかき込んだ。その姿を見つめながら、誠二は静かに本題を切り出した。


「それで……スリをやっていたのは、どうしてだ?」


「……スラムのマフィアの連中に拾われたんだ。スリの仕方を教えられて……その代わり、稼いだ分の一部を上納しろって。渡せないと……酷い目に遭うから」


トトは自分の凄惨な境遇を、どこか諦めを含んだ淡々とした口調で語った。

その事実を知ったルチアの瞳が、怒りと深い痛みに激しく揺れていた。


(――この子だけの話じゃない。スラムには、こういう子供たちが他にも大勢いるんだな)


女神の夢での言葉、バロンの話、そしてトトの証言。すべての点が一本の線でつながったのを感じながら、誠二は力強く拳を握りしめるのだった。

拙作、お読みいただきありがとうございます!

まだ試行錯誤してますので改稿する可能性があります。

よろしくお願いいたします。

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