夢の中の女神と次なる導き
大繁盛となった『木漏れ日亭』の忙しい一日が終わり、自室のベッドで深い眠りについた誠二。
ふと気がつくと、彼は純白の光に満ちた、どこか見覚えのある幻想的な空間に立っていた。
「……ここは?」
『あら、久しぶりねセージ! 元気に異世界ライフを満喫しているみたいで何よりだわ!』
頭上から響いた華やかで軽快な声とともに、光の粒子が集まり、一人の神々しくも親しみやすい雰囲気を纏う美女――誠二をこの世界へ転生させた『女神』が姿を現した。
「女神様……? ということは、ここは夢の中ですか」
『そうよ! 異世界でのその身体、どうかしら? 物理無敵の超スペック、役に立っているでしょう?』
「おかげさまで、傷一つ負わずに過ごせています。……ところで、わざわざ夢の中にまで来られたということは、何か重大な神託でも?」
誠二が身を正すと、女神は急に宙から舞い降りてきて、誠二の肩をゆさゆさと揺さぶった。
『重大も重大、超緊急事態よ! セージ、あなた……ずるいわ! 私を置いて下界でそんなに美味しそうなものを開発するなんて! ギョウザ! 私にもギョウザを食べさせなさいよ!!』
「……はい?」
『神界の観測映像で見つめていたのよ! あのジューシーな肉汁、香ばしい焼き目……! 神界の供え物なんて味の薄い果物やワインばかりで飽き飽きしていたの! 今すぐここで作って私に捧げなさい!』
身を乗り出して抗議してくる女神。五十代の世渡り上手なコンサル思考が働き、誠二は苦笑いしながら肩をすくめた。
「そう言われましても、ここは夢の中ですし、調理場も材料もありませんよ」
『むう……それもそうね。……今度、私の祠や神殿を見つけたら、焼き立てを一番に供えなさいよね? 約束よ!』
不満そうに胸を張る女神だったが、ふと表情を引き締めると、神々しい気品を漂わせながら誠二の目を真っ直ぐに見つめた。
『……コホン。さて、冗談はここまでにしておくわね。実はね、セージ。あなたに一つ、伝えるべき【導き】があってこうして夢に干渉したの』
「導き、ですか」
『そう。あなたが今日作ったギョウザ……あれは単なる美味しい料理にとどまらず、この街の未来を動かす小さなきっかけになったわ。……近いうち、あなたは【スラム街】へ足を運ぶことになるはずよ』
「スラム……商人ギルドのバロンさんやルチアからも、貧困の格差が一番激しい場所だと聞いています」
『ええ。あそこには、あなたの現代社会での知識と、その絶対的な頑丈さを必要としている人たちがたくさんいるの。歪んだ貧困、裏で蠢く悪意、そして……強い呪いに苦しむ幼い魂もね』
女神の言葉に、誠二の表情が引き締まる。
『それからね、セージ。……ルチアのことを頼んだわよ』
「ルチアさんを?」
『あの子は「無敗の氷華」なんて強がっているけれど、その心は今にも壊れそうなほど傷ついているの。事情は本人から聞いて欲しいから詳しく言わないけど、あの子が背負わされた過酷な宿命……。あなたのその「絶対に傷つかない頑丈な背中」だけが、あの子の孤独を救える唯一の盾になれるのよ』
先ほどまでのコミカルな態度から一転、女神の瞳には真摯な慈愛の色が宿っていた。
「……分かりました。元より、彼女にはパーティーとして、それに『監視役』として世話になっていますからね。大人の男として、しっかり見守りますよ」
『ふふ、頼もしいおじさんね。あなたをこの世界に呼んで正解だったわ。……あ、そうそう! 忘れるところだったわ! スラムに行くなら、あの安くて美味しいギョウザをたくさん持っていくと良いわよ! お腹を空かせた子供たちには、何よりの救いになるから』
「なるほど、フード支援と現場視察ですね。前世の地域再生事業でもよくやった手です」
『それじゃあね、セージ! ギョウザの供物、絶対に忘れないでねーーっ!』
女神の眩しい光とともに、夢の世界が引き潮のように遠のいていく。
――ハッと目を覚ますと、木漏れ日亭の自室に朝の光が差し込んでいた。
誠二はベッドの上でゆっくりと起き上がり、自分の大きな両手を見つめた。
(スラム街、そしてルチアさんの過去か……。食文化の改善の次は、この街の「闇」と向き合うことになりそうだな)
頼もしい決意を胸に、誠二は新しい一日を迎えるべく、静かに立ち上がるのだった。
拙作、お読みいただきありがとうございます!
まだ試行錯誤してますので改稿する可能性があります。
よろしくお願いいたします。




