急ごしらえのパーティーとEランク昇格
「……ちょっと、セージ! なにを呑気に歩いているのよ。足が遅いわ!」
朝の澄んだ空気が漂う領都リゼルダの街並み。前を歩く藍色の髪の少女――ルチアが、急かすように何度も振り返って誠二を睨みつけていた。
「いや、ルチアさん。まだギルドの開門時間にもなっていないですよ。そんなに急がなくても……」
「急ぐに決まっているでしょう! あなた、Fランクのままで満足しているの!? Fランクなんて薬草採取かドブさらいくらいしか受けられないのよ! さっさと卒業しなさい!」
腕を組み、フンと鼻を鳴らすルチア。
一見すると厳しく新人をしごいているベテラン冒険者そのものだが、その実「自分が一緒に高難度の依頼へ同行するために、手っ取り早くセージのランクを上げたい」という思惑が丸見えだった。
二人が冒険者ギルドの重厚な扉を潜ると、朝一番のホール内が一瞬で静まり返った。
ソロを貫き、誰も寄せ付けなかったあの『無敗の氷華』が、借り物の革胸当てを着た冴えないおじさん顔の新人――誠二を従えるように歩いてきたからだ。
「……おい、嘘だろ? あのルチアが誰かと一緒にいるぞ」
「しかもあいつ、この前教官を壁にめり込ませた規格外のFランクじゃねえか……?」
ざわめく冒険者たちの視線を一身に浴びながら、ルチアは迷わず受付カウンターへと進み、羊皮紙を叩きつけた。
「受付さん! この男とパーティー登録手続きを頼むわ。パーティー名は……そうね、『氷の盾』でいいわ!」
「え、ええ!? ルチアさんがパーティーを!? しかも……こちらのセージさんとですか!?」
受付の女性も目を丸くして二人の顔を交互に見比べた。
手続きを待つ間、遠くから誠二に手を振る者たちがいた。この前一緒に薬草採取へ行ったリナたちのパーティーだ。駆け寄ってきたリナが、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて誠二の肘をついた。
「ちょっとちょっと、セージ! 講習で『関わらない方がいい』って言ったばかりなのに、どうしてあの『無敗の氷華』様とパーティー組んでるのよー?」
「いや……僕が無茶をしないように監視してくれるらしくてね」
「へえ~『監視』ねぇ~? あの氷華様が、誰かを心配して監視だなんて聞いたことないけど? ……セージ、あんた案外すみにおけないじゃない」
「なっ……! ちょっとあなた、適当なことを吹き込まないでちょうだい!」
横から会話を聞き咎めたルチアが、耳まで真っ赤にして怒鳴り込んできた。
「私はただ、この知識のない新人が行き倒れてギルドの面汚しにならないよう、ベテランとして指導してあげているだけよ! 変な邪推はやめなさい!」
「はいはい、そういうことにしておくよー。頑張ってね、セージ!」
冷やかされて苦笑いする誠二と、顔を赤くしてプンプン怒るルチア。周囲の荒くれ冒険者たちも「あの氷華様が赤くなってるぞ……」「あの新人、一体何者だ……」と呆気にとられていた。
無事に仮パーティー『氷の盾』が結成されると、ルチアは間髪入れずに掲示板から一握りの依頼票を引っこ抜いた。
「Fランクの昇格規定は、特定の討伐依頼または採取依頼の規定数達成よ。今日一日で全部終わらせるわよ!」
「ええっ、一日でですか!?」
「当たり前でしょう! 私がついていくのよ、負ける要素なんてどこにもないわ!」
こうして始まった突貫のランクアップ作戦。
街郊外の森や街道へ繰り出すと、ルチアの宣言通り、怒濤の勢いで依頼がこなされていった。
危険な角オオカミの群れが襲いかかってくれば、誠二が『動く絶対不可侵の壁』として前に立ち、すべての攻撃を「カツンカツン」と弾き返す。その隙に、ルチアの華麗で鋭い剣閃が走り、一瞬で魔物を一網打尽にしていく。
「セージ! 右からもう一頭来るわ!」
「はい、任せてください」
飛びかかってきた巨体を受理し、ビクともせずに受け止める誠二。ルチアはその完璧すぎるサポートに、内心で舌を巻いていた。
(……本当に、傷一つ負わない。どんな強撃を受けても、この男は私の前で絶対に倒れない……)
自分が誰かを守るために傷つく必要も、誰かが自分のために死ぬ恐怖に怯える必要もない。誠二の背中越しに見る戦闘は、彼女にとって生まれて初めて味わう「圧倒的な安心感」だった。
日暮れ前。大量の魔物の討伐部位と採取素材を抱えてギルドに戻った二人に対し、受付窓口は騒然となった。
「……Fランク依頼5件を一日で全達成。申し分ありません。本日付で、セージさんを【Eランク】へ昇格といたします!」
「やったな、セージ!」「一日でE昇格かよ、すげえな!」
集まっていた冒険者たちから歓声と拍手が上がった。誠二は手渡された銅製の新しい冒険者証を受け取り、隣の少女へ視線を向けた。
「ルチアさん、ありがとうございました。おかげで昇格できました」
「ふ、ふん! 当たり前でしょう、私が手伝ったんだから! ……感謝するなら、明日からも私から離れないで、しっかり監視させなさいよね」
ツンと横を向くルチアだったが、その唇の端は隠しきれない満足感でかすかに緩んでいた。
五十歳の中身を持つおじさん誠二は、素直になれない少女の愛らしさに微笑みながら、「よろしくお願いします」と静かに頭を下げたのだった。
拙作、お読みいただきありがとうございます!
まだ試行錯誤してますので改稿する可能性があります。
よろしくお願いいたします。




