初めての依頼と夜営の火
翌朝。朝靄がまだうっすらと残るリゼルダの南門前には、身支度を整えた四人の若者が待っていた。
「セージ、紹介するよ。あたしの仲間たちだ」
駆け寄ってきたリナに促され、誠二は一歩前に出て頭を下げた。
「セージです。臨時ですが前衛を務めさせていただきます。よろしくお願いします」
「俺はガイ。前衛で槍を扱ってる」
「あたしはミナ。回復魔法担当だよ」
「僕はトビアス。攻撃魔法を担当している」
ガイは体格のいい爽やかな青年で、ミナは小柄で親しみやすい少女、トビアスは眼鏡をかけた知性溢れる少年だった。全員、誠二より場慣れした様子で装備の手入れも行き届いている。一方の誠二は、ギルドで借りた安物の革胸当てを纏っただけの、いかにも新人らしい出で立ちだった。
「セージくん、よろしくね。力仕事が得意ってリナから聞いてるけど、無理はしないで」
「ミナの言う通りだ。新人が怪我をしては元も子もないからな。後ろは任せてくれ」
「ありがとうございます。足を引っ張らないよう気をつけます」
今回受けた依頼は、領都の南に広がる深い森へ入り、特定の薬草を大量に採取してくるというものだ。移動と採取を含めて一泊二日の予定である。
門をくぐり、緑豊かな森へと足を踏み入れると、静寂の中に踏みしめる枝葉の音が響いた。
道なき道を進む中、誠二は先頭に立ち、道を塞ぐ倒木や大きな岩を素手で軽々と退けていく。
「……ねえ、セージ。いくらなんでも力技すぎない?」
後ろを歩いていたトビアスが、半目になりながら引きつった声を上げた。
「すみません、剣も使えませんし、他に退かし方が分からなくて……」
「いや、助かるんだけどさ……ちょっと引くレベルのパワーだよ、それ」
ガイも苦笑いを浮かべながら肩をすくめた。
昼過ぎには目的の薬草の群生地に辿り着き、全員で手分けして採取を開始した。ミナから手ほどきを受けながら、誠二は不慣れな手つきで作業を進めていく。
夕刻、安全な岩陰に移動して夜営の準備を終えると、パチパチと爆ぜる焚き火を囲んで温かい薬草茶を啜った。
「……それにしてもさ、セージのあの異常な頑丈さは何なんだい?」
トビアスが眼鏡の奥の目を細めながら、不思議そうに問いかけてきた。道中、飛び出してきた角ウサギの角をまるで岩のように『カツン』と弾き返した誠二の姿が、強く印象に残っていたらしい。
「あ、はは……。自分でもよく分からないんですが、生まれつき肌や骨が人より異常に頑丈みたいでして」
「ふーん。まあ、この世界にはいろんな種族がいるからね」
リナが事もなげに笑いながら、薪を火の中へ放り込んだ。
「巨人の血が混じってる珍しい種族の先祖返りか、あるいは生まれつき稀少な『耐性』のスキルでも持ってるんじゃない? 人間族に見えても、先祖を辿れば珍しい体質の持ち主なんて、街に行けばザラにいるしね」
「そうですね……まあ、そういう体質なんだなと思って納得していただけると助かります」
(なるほど……獣人や小人族なんかが当たり前に歩いてる世界だからこそ、こういう『規格外の体質』も多種族の一種として勝手に納得してもらえるのか。これはありがたいな)
誠二は胸の中で密かに安堵の息をついた。前世のコンサルタント時代なら辻褄合わせの言い訳に苦心するところだったが、この異世界の懐の深さに救われた形だ。
「そういえばさ」
リナが声を落とし、少し気をつかうように話題を変えた。
「今日の講習で実技の指導に来てた『ルチア』さん……見た?」
「ああ、『無敗の氷華』だろ? ギルドでも有名だからな」
ガイが真面目な顔つきで頷く。
「すごい美人だけど、近寄り難い雰囲気だったな。噂じゃ、かなり難度の高いBランク以上の討伐依頼も、たった一人で受けてるらしいぞ」
「そうそう。絶対にパーティを組まないソロの頑固者でね。昔、腕利きのパーティに誘われた時も『私に関わると死ぬ』って突っぱねたらしいわ。……何でも、彼女の過去には大きな影があって、恐ろしい連中に狙われてるとか何とか」
「過酷な依頼ばかり一人で受けてるから、『まるで自暴自棄になって死に場所を探してるみたいだ』なんて陰口を叩く奴もいるよな……」
トビアスがため息混じりに付け加えた。
講習の場で見た、あの藍色の髪の女性――ルチアのどこか投げやりで冷徹な目を、誠二は思い出していた。
(死に場所を探している、か……。あんなに若いのに、一体どんな重いものを背負わされているんだか)
「セージ、どうかした?」
「いえ……綺麗な人だけど、どこか思い詰めた顔をしていたな、と思いまして」
「関わらないのが一番だよ。あたしたちみたいなFランクじゃ、住む世界が違うからね」
翌日、薬草の採取を無事に終えたパーティは、夕暮れ時に無事リゼルダへと帰還した。
ギルドで依頼完了の手続きを済ませ、報酬を受け取る。
「セージ、本当に助かったよ! おかげで誰も怪我せずに済んだ」
ガイやミナに口々に感謝され、誠二は照れくさそうに頭をかいた。
「お役に立てて良かったです。また人手が足りない時はいつでも声をかけてください」
手を振って去っていく若者たちの背中を見送りながら、誠二は手の中の銅貨を見つめた。異世界での確かな一歩と人との繋がりが、誠二の胸の中に温かい充実感をもたらしていたのだった。
拙作、お読みいただきありがとうございます!
まだ試行錯誤してますので改稿する可能性があります。
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