初心者講習と臨時講師
翌朝、誠二は指定された時間に冒険者ギルドの二階にある講習部屋へと足を踏み入れた。
「Fランクの新人ども、席につけ」
集められたのは十人ほどの新人だった。若い男ばかりかと思いきや、誠二と同年代の者から、まだあどけなさが残る少年少女までいる。
部屋の最前列には、教官と思しき強面の男が腕を組んで立っていた。そしてその傍らには――昨日ギルドのホールですれ違った、あの藍色の髪の女性剣士が凛と佇んでいた。
「……こちらは『無敗の氷華』のルチアだ。今回の実技の臨時講師として、立ち立ってもらってる。死にたくなきゃ、これから言うことをしっかり頭に叩き込め」
教官の言葉に、新人たちの間に息を呑むような緊張が走った。
ルチアは一切の感情を排した氷のような瞳で新人たちを見回すと、凛とした涼やかな声を響かせた。
「……頼まれて立ち会っているだけです。群れるのは弱者の証。……私に無駄な口を告げないでちょうだい」
突き放すような冷ややかな一言に、教室が一瞬で静まり返る。
誠二は前世の新人研修を思い出しながら、座学に集中した。魔物の危険度ランク、依頼受託のルール、パーティーの基本的な連携――初めて耳にする用語ばかりで、必死に羊皮紙へメモを取る。
「隣、失礼するね」
声をかけてきたのは、隣の席の同世代くらいの女性だった。
「あ、はい。よろしくお願いします」
「あたしはリナ。見たところ、あんたも新人?」
「セージです。田舎から出てきたばかりで、右も左もわからなくて」
「じゃあ似た者同士だね。あたしはこの街の生まれなんだけど、家業を継ぐのが嫌で飛び出してさ。セージは……なんだか随分と訳ありな空気出してるよね」
「あはは……まあ、色々ありまして」
図星を突かれ、誠二は苦笑いで頭をかいた。
半日ほどの座学が終わると、階下の訓練場へ移動して木剣を使った実技講習へと移行した。新人たちが順番に木剣を構え、筋道や体捌きをチェックされていく。ルチアは腕を組み、壁際に孤立するように立ってその様子を厳しく見つめていた。
「次、セージ! 前に出ろ」
「はい」
教官に指名され、誠二は借り物の重い木剣を手にして前に出た。対戦相手は教官自身だ。
「よし、打ち込んでこい! ……手加減なんてすんなよ」
「わかりました。……行きます」
相手は百戦錬磨のベテラン冒険者だ。前世で格闘技の経験すらない誠二は、ただ「教官の掲げた木剣に向けて、軽く打ち合う」つもりで、ごく普通に木剣を振り下ろした。
――ドゴォォォンッ!!
訓練場全体を揺るがすような、凄まじい衝撃音が響き渡った。
打ち合った瞬間、教官の手にしていた頑丈な木剣が粉々に弾け飛び、教官の巨体はまるで大砲で撃ち出されたかのように直線的に吹っ飛んだ。そのまま後方の石壁へ一直線に激突し、ズドンと壁に当たりずり落ちて動かなくなった。
「「「………………!?」」」
静寂が訓練場を支配した。
全員が口ぐちに固まり、動けない教官と、木剣を構えたままぽかんとしている誠二を交互に見つめている。
壁際にいたルチアすらも、一瞬だけ目を見開き、驚愕の色を隠せない様子で誠二の手元と腕を凝視していた。
(……あ、これ、またやっちゃったやつだ)
誠二は冷や汗を流しながら、心の中で女神に対する理不尽なツッコミを入れまくっていた。
「お、おい……大丈夫か、教官……!?」
「な、なんだあの兄ちゃん……人間か……!?」
リナが目を丸くして立ち尽くし、壁からズルズルと這い出してきた教官は、頭をさすりながら呆れ顔で誠二を睨みつけた。
「……お前……っ、力の制御が下手くそすぎるだろ……! 人をぶっとばす新人がどこにいる……!」
「す、すみません……力加減がまだよく分かっていなくて」
「まあいい……お前、完全に前衛向きだな。攻撃じゃなく、壁になれ。敵の攻撃を受け止めて仲間を守る『タンク』役だ。お前の力なら折り紙付きだ」
教官にそう命じられ、誠二は自分の役割がなんとなく定まっていくのを、複雑な気持ちで受け止めた。
(強さは要らないって言ったのに、物理耐性と怪力だけは規格外にされたんだったな……。あの女神様、本当に人の話を聞いてないよな……)
講習の帰り際、ルチアが誠二の脇を通り抜けた。ほんの一瞬、彼女の冷ややかな瞳が誠二を捉え、微かに眉をひそめたように見えた。だが何も言わず、彼女は風のように去っていった。
「セージ! さっきの見たよ、凄まじい力じゃない!」
興奮気味に駆け寄ってきたのはリナだった。
「お恥ずかしい限りです……」
「ねえ、うちのパーティー、前衛が抜けたばかりでさ! 臨時でいいから薬草採取の依頼に一緒についてきてくれない? 泊まりがけの森だから、壁役がいないと不安でさ!」
「……わかりました。自分でお役に立てるなら、よろしくお願いします」
こうして誠二は、リナ率いる新人パーティーの「臨時のタンク役」として、初めての本格的な冒険者依頼へと挑むことになったのだった。
拙作、お読みいただきありがとうございます!
まだ試行錯誤してますので改稿する可能性があります。
よろしくお願いいたします。




