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お疲れ女神の無茶振り世直し転生 不老不死おじさんの苦悩  作者: mojito
第1章 セリオン村編

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行商人との出会い

祭りから数日後、村に一人の行商人がやってきた。


「へえ、この燻製肉、これはいい。それに、この塗り薬……こいつは町の薬屋でも十分通用する品だ。誰が考えた?」


「私です」


 誠二が名乗り出ると、行商人――バロンと名乗った男は、値踏みするような目を向けてきた。


(この目、懐かしいな。前世で数えきれないほど浴びた目だ)


「セージといったか。……お前さん、こんな村に埋もれてるにはもったいない目をしてるな。町に出てみる気はないか? 冒険者登録に商人ギルド登録、両方やっとけば、この村と町を行き来する商売の口利きくらいはしてやれる」


「ありがたい話ですけど……バロンさん、なんだか疲れてません?」


(顔色、よくないな。前世の得意先で、決算前にいつもこんな顔してる経理担当がいたっけ)


「……わかるか。実はな、この商売、思ったより儲からなくてな」


「儲からない、ですか。これだけ荷を運んでるのに?」


「そうなんだよ。荷は運んでる、村々も回ってる、なのに、手元に残る金が少ねえ。女房には『商人失格だ』なんて言われる始末だ」


 誠二は思わず身を乗り出した。


(――これ、放っておけないやつだ)


「バロンさん、帳簿……お金の出入りを記録したもの、つけてますか」


「帳簿? そんな大層なもんはないな。頭の中で覚えてるだけだ」


「それだと、どこで損してるか、わからなくないですか」


「損なんてしてねえよ。安く仕入れて、高く売る。それだけだ」


「たとえば、この村からの仕入れ値と、町での売値、正確に覚えてます?」


「……だいたいは」


「だいたい、ですよね」


 誠二は木の板に、簡単な表を描いてみせた。仕入れ値、運搬にかかる日数、荷が傷んで捨てた分、町での売値――項目を並べていくと、バロンの顔がみるみる曇っていった。


「おい、待て。……これ、燻製肉以外の荷、結構な割合で傷んで捨ててないか、俺」


「たぶん、そうだと思います。それと、この村からの往復にかかる日数を考えると、割に合ってない品目もあるはずです」


「うわ、マジか……。じゃあ、俺は今まで、何のために」


「悪い話ばかりじゃないですよ。これ、書き出して整理するだけで、儲かる品と儲からない品がはっきりします。儲からない品は扱う量を減らして、儲かる品に力を入れればいいだけです」


「そんな簡単な話か?」


「簡単ですよ。ただ、書き出して、見えるようにするだけです」


(前世でも、これだけで劇的に改善する取引先、山ほどあったな。……いや、待て、俺、また余計なことに首突っ込んでる気がする)


 誠二は内心でそう呟きながらも、木の板に描いた表を、バロンにわかりやすいよう丁寧に書き直していった。


「ついでに、傷みやすい荷は、詰め方も見直した方がいいです。すき間を作って風を通すとか、乾燥させた葉を一緒に詰めるとか。それだけでも、傷む量はだいぶ減るはずです」


「セージ……お前、本当に何者なんだ」


「昔、そういう仕事をしていただけです」


「その『昔の仕事』、俺にも紹介してくれよ、まったく」


 バロンは半分呆れ、半分感心したような顔で、木の板の表を何度も見返していた。


「……よし、決めた。セージ、お前が町に来るなら、ギルドでの口利き、精一杯やらせてもらう。この帳簿のやり方も、ちゃんと使わせてもらうぜ」


「お役に立てたなら、良かったです」


(また、悩んでるうちに首突っ込んで、また解決しちゃったな、俺。……まあ、いいか)


「……少し、考えさせてください」


 誠二はドーラン、メイベル、ガレンの顔を思い浮かべながら、少し考えた。この二年間の村での暮らしは、もう十分すぎるほど居心地がよかった。だが――


(不老不死、なんだよな、俺。この時間の長さを考えたら、一つの村に留まり続けるのは、たぶん違う)


「行きます。ただし……」


「ただし?」


「この村との縁は、切りません。燻製肉と薬、これからも卸させてください」


「そいつは願ってもない話だ」


 バロンは満足そうに笑った。


 出立の朝、村中の人間が誠二を見送りに集まった。


「セージ、また戻って来い。獲物の掛かりが悪くなったら、お前の知恵が必要だからな」


 ドーランは無骨に肩を叩き、それだけ言うと、あとは何も言わずに手を振った。


「セージ、これを持って行きな」


 メイベルは、丹念に選んだ薬草の束と、旅の途中で使えるようにと配合した簡単な傷薬を持たせてくれた。


「お前さんはきっと、この村だけじゃ収まらない男だよ。……行きな。でも、たまには顔を見せておくれ」


「必ず戻ります」


 ガレンは、誠二の手を両手で包み込むように握った。


「セージ。お前がこの村に来てくれて、本当によかった。……行ってこい。この村は、お前の帰る場所の一つだと思っておいてくれ」


「はい。――ありがとうございました、ガレンさん」


 誠二は村を出た。振り返ると、ドーラン、メイベル、ガレン、そして多くの村人たちが、いつまでも手を振ってくれていた。


(……こんな見送り、前世じゃ一度もなかったな。転勤のときも、退職のときも)


 誠二は森の入り口で一度足を止め、村を振り返った。


「――ありがとうございました。また、必ず」


 誰にともなく呟いて、誠二は町へ向かう道を歩き出した。


 冒険者登録と商人ギルド登録。そして、まだ見ぬ町のスラム。困っている誰かが、きっとどこかで待っている。


「さて……次は、何が待ってるんだか」


 誠二はぼそりと独りごちながら、街道を歩いていった。


(隣の谷の村、それから町のスラム……女神様、随分と気軽に言ってくれるよな。予算も人手もないくせに、無茶振りだけは一人前だ)


 それでも、困っている誰かがいると聞かされれば、放っておけない。お人よしと言われようが、この性分だけは、前世から変わらないらしい。


(――まあ、いいか。行ってみるか)


 誠二は小さく苦笑いすると、足取りを速めた。二度目の人生は、ようやく本当の意味で動き出したばかりだった。

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