冬を越えて、二年目の村
最初の冬が来た。
「セージ、雪、積もったな」
「積もりましたね……。これ、食料、足りますか」
「例年通りなら、ぎりぎりだな」
ドーランの言葉に、誠二は少し考え込んだ。
(――地下貯蔵庫、作れないかな。前世で、根菜類の保存に使われてたやつ)
「ガレンさん、村の地下に、食料を貯めておく場所ってありますか」
「地下? そんなもん、掘ったこともないな」
「土を深く掘って、藁を敷いて、根菜類なんかを埋めておくと、外の寒さから守られて、長く保存できるんです。地面の中は、意外と温度が安定してるので」
「……本当か、それ」
「試しに、小さいのを一つ、作ってみませんか」
村の広場の隅に、誠二の指示で小さな貯蔵穴が掘られた。藁と土を交互に重ね、芋や根菜を並べていく。種火の生活魔法で地面をわずかに固め、崩れにくくする工夫も加えた。
「セージ、これ、本当に持つのか」
「たぶん。……たぶん、ですけど」
(大見得切ったはいいけど、これ失敗したらどうしよう。前世の企画も、いつもこの段階が一番胃が痛かったな)
誠二は内心でひやひやしながら、貯蔵庫の様子を毎日確認していた。真冬になっても、掘り出した芋は瑞々しいままだった。
「セージ! すごいぞ、これ! 全然傷んでない!」
「……よかった」
誠二は心底ほっとして、その場にへたり込みそうになった。
この一件がきっかけで、村では毎年、収穫の一部を地下貯蔵庫に回すのが習わしになった。
その冬の終わり、村の近くに大型の魔獣が出没するという噂が立った。
「セージ、お前も来い。人手はいくらあっても足りん」
ドーランに連れられ、誠二は村の周辺を見回ることになった。
「戦うのは、正直得意じゃないんですけど」
「知ってる。だが、お前の考える罠なら、あてになる」
誠二はドーランと相談しながら、魔獣が通りそうな場所に、これまで培った罠の知識を応用した大掛かりな落とし穴と誘導柵を仕掛けた。人の匂いを消し、獣道の分岐を見極め、村の外周を迂回させるように誘導する――狩りの罠と、根本の考え方は同じだった。
「本当にこれで、大丈夫なのか」
「正直、絶対とは言えません。でも、可能性は上げられると思います」
(――ここで格好つけて『任せてください』とか言えたらいいんだけど、そんな自信ないんだよな、俺)
数日後、罠にかかって弱った魔獣を、ドーランたち猟師が仕留めることに成功した。村に死者も怪我人も出なかった。
「セージのおかげだな、これは」
「私は、罠を考えただけです。仕留めたのは、皆さんの腕です」
「またそれか」
ドーランは呆れたように笑ったが、その目には確かな信頼が浮かんでいた。
気づけば、あの森で目を覚ましてから、もうすぐ二年が経とうとしていた。
「……あっという間だったな」
誠二は貯蔵庫の様子を見に行く道すがら、ぼそりと呟いた。
(前世じゃ、一年なんてあっという間に過ぎて、気づいたら歳ばっかり取ってたのに。こっちの一年は、なんだか、ちゃんと生きてる感じがするな)




