燻製小屋と、失敗の日々
「セージ、また煙たいことしてるのか」
ドーランが呆れ顔で燻製小屋を覗き込んだ。
「すみません、また焦がしました」
「今日で何回目だ、それ」
「……五回目、です」
誠二は黒く焦げた肉を前に、ため息をついた。
(前世のプレゼン資料の作り直しより、地道な作業だな、これ)
「塩漬けだけじゃなくて、煙で燻す工程を加えるんです。煙には殺菌効果と、肉の表面を乾かして水分を減らす効果があります」
「煙で肉が腐らなくなるのかい? 妙な話だね」
「香草を一緒に使うと、臭みも消えて日持ちもよくなります」
「理屈はわかったが、焦がしてちゃ意味ないだろう」
「否定できません……」
種火の生活魔法は、火加減の微調整に驚くほど便利だった。強すぎる火は肉を焦がし、弱すぎる火は煙が足りず腐敗を招く。誠二は毎日火の番をしながら、温度と煙の量を細かく調整し、最適な燻し時間を見つけ出していった。
「今日はどうだ」
「……いい匂いです」
「本当か?」
「食べてみてください」
ドーランは半信半疑で一口かじると、目を見開いた。
「……これは香ばしくて旨い! それに表面は乾燥していて前のより日持ちしそうだ」
「でしょう?」
半年ほど試行錯誤を重ねた末、村独自の燻製肉が完成した。
「セージ、あんたのおかげで、今年の冬は肉に困らずに済みそうだよ」
「セージ、これ、うちの分も頼めるかい」
「今度は俺の家のぶんも」
村人たちが次々と声をかけてくる。誠二はその一つ一つに頭を下げながら、心の中でこっそり呟いていた。
(……こんなに感謝の声、浴びたことないな。会社じゃ、成果出しても『来月も頼むぞ』の一言で終わってたのに)




