ガレンと、水路の改修
「セージ、お前、村中を歩き回って水路を見て回っているそうだな」
ある日、畑の見回りをしていたガレンに声をかけられた。
「気になったもので。……水路、古いですよね」
「ああ。あちこちで水漏れや詰まりが起きてる。特に、遠い区画まで水が届かなくてな。毎年、そこだけ作物の育ちが悪い」
「原因、たぶんわかります」
「本当か」
「水路の途中で、傾斜が緩くなっている場所があるはずです」
「……傾斜?」
「水は、高い所から低い所へ流れます。ずっと同じ角度で下っていれば、勢いを保ったまま流れますが、途中で平らな場所や、逆に少し上りになっている場所があると、そこで水が溜まって淀む。土砂も一緒に溜まって、詰まりの原因になります」
「……お前、そんなことまでわかるのか」
「測ってみればわかります。ちょっと、道具を作らせてください」
誠二は木の板と紐を使って、簡単な水準器のようなものを作ってみせた。板の中央に紐で重りを吊るし、水平になったときの角度を目印にする、原始的だが実用的な道具だった。
「これは?」
「傾斜を測る道具です。これを使って水路全体を調べれば、どこで詰まりやすいか、あらかじめわかります。全部作り直さなくても、問題のある場所だけ直せば、手間も資材も節約できます」
「……試しに、やってみるか」
若者数人を連れて水路沿いを歩き、簡易水準器で傾斜を測っては、印をつけていった。
「セージ、ここ、逆に傾いてるぞ!」
「本当ですか。印をつけておいてください」
案の定、水路の三か所で傾斜が緩くなったり逆流気味になったりしている場所が見つかった。
その三か所だけを掘り直し、石を組んで傾斜をつけ直す作業に、村総出で三日を費やした。
「セージ! 見ろ、水が!」
水路が直った日、遠くの区画にも勢いよく水が流れ込むのを見て、ガレンは目を潤ませていた。
「……何年も、この村の年寄りたちと頭を悩ませてきた問題だったんだ。まさか、流れ者の若いのに解決されるとはな」
「私は知識をお伝えしただけです。実際に動いてくれたのは、村の皆さんですから」
「そういう謙遜ができるところも含めて、お前は大したもんだよ、セージ」
「恐縮です」
(こんなにストレートに感謝されるの、いつ以来だろうな。前世じゃ、数字上げても『当然』の一言で終わってたのに)
誠二は柄にもなく、鼻の奥がつんとするのを感じた。
それ以来、ガレンは村の重要な相談事があると、必ず誠二を呼ぶようになった。




