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星を隠さぬ君の隣で  作者: 最後に残った形


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第8章 第11話:二人で挑む、大型イベント


 アステリオの中央広場は、いつもよりずっと賑やかだった。


 夜空のような天蓋には、期間限定イベントの開始を告げる巨大な光文字が浮かんでいる。

 広場の噴水には星屑のような粒子が舞い、石畳には青白い魔導紋が浮かび上がっていた。あちこちでプレイヤーたちが集まり、装備を確認したり、パーティを募集したり、攻略情報を交換したりしている。


《星環試練・双影の迷宮》


 それが今回の大型イベントの名前だった。


 五人一組で参加するレイド型の迷宮。

 ただし、途中で何度かパーティが二人組と三人組に分断されるらしい。

 特に最奥に近づくほど、“ペアの信頼”を試すギミックが増えると告知されていた。


 信頼。


 その言葉を見た時から、ノアの胸は少しだけ落ち着かなかった。


 隠さない恋。

 全部見せなくても隣に立てること。

 怖いことを隠さないこと。

 まだ話せないことは、まだ話せないと言うこと。


 現実で朔と話し、少しずつ自分たちなりの答えを見つけてきた。

 でも、“信頼”という言葉は、まだ少し怖い。


 信じるとは、どこまで預けることなのだろう。

 見えない場所でも、相手がそこにいると信じること。

 自分が全部を把握していなくても、手を伸ばせること。


 それができるのかと聞かれると、ノアはまだ少しだけ不安だった。


『ノアさん!』


 明るい声がして、ノアは顔を上げた。


 ピピが広場の向こうから大きく手を振って走ってくる。

 その後ろから、セレスが穏やかに歩き、フレアが腕を組んだまま冷静な足取りで続いていた。


『お待たせしました! 今日ですよ、今日! 大型イベント! しかもペアギミック!』

『声が大きい』

 フレアがすぐに言う。

『だって楽しみなんです!』

『楽しみなのはわかりますが、開始前に疲れないようにしてくださいね』

 セレスがやわらかく笑う。


 ノアは少しだけ肩の力を抜いた。

 いつもの三人がいる。

 それだけで、少し安心する。


『アークさんは?』

 ピピがきょろきょろと周囲を見る。

『もう来てる』

 背後から声がした。


 振り向くと、アークがノアのすぐ後ろに立っていた。


「いつの間に」

『今』

「声かけて」

『かけた』

「背後から」

『悪い』

 アークは少しだけ笑った。


 その笑い方が現実の朔と重なって、ノアの胸が少し温かくなる。


『あー』

 ピピがすぐに声を上げた。

『今の空気、甘いです』

「ピピ」

『すみません。でも甘かったです』

『早速ね』

 フレアが淡々と言う。

『今日、戦闘中もそんな感じなら観察しがいがあるわ』

『観察しないで』

 アークが言う。

『戦闘記録として見るだけ』

『それも嫌だ』

『諦めなさい』

 フレアの冷静な返しに、セレスがくすりと笑った。


『でも、今日は本当に連携が大事になりそうです』

 セレスが言う。

『ギミック解除条件に、ペア間の行動同期や視界共有があるみたいですから』

『視界共有?』

 ノアが聞き返す。

『一時的に、片方の視界が遮断されて、もう片方の指示だけで動く場面があるようです』

 フレアが補足する。

『あと、二人が同時に別方向のスイッチを踏むとか、片方が敵を引きつけている間にもう片方が詠唱を完了するとか』

『信頼イベントですね!』

 ピピが楽しそうに言う。

『ノアさんとアークさんにはぴったりです!』

「ぴったり、かな」

 ノアは少しだけ曖昧に返した。


 アークがこちらを見る。

『不安?』

「少し」

『俺も少し』

「アークも?」

『ギミックは初見だし』

 アークは軽く肩をすくめる。

『でも、ノアとならいけると思ってる』

 また、そんなことを自然に言う。


 ノアは胸が熱くなった。

 同時に、少しだけ怖くもなる。


 信じられている。

 それが嬉しい。

 でも、その信頼に応えられるのかと思うと、不安になる。


『じゃあ、行きましょう!』

 ピピが元気よく手を上げる。

『星環試練、五人で完全攻略です!』

『最初から飛ばしすぎない』

 フレアが注意する。

『はい!』

『返事だけはいいですね』

 セレスが微笑む。


 五人はイベントゲートの前に立った。


 巨大な円環状の門が、青白い光を放っている。

 門の中央には、二つの影が背中合わせに立つ紋章が浮かんでいた。

 まるで、互いを見ないまま互いを支えるように。


 ノアはその紋章を見つめる。


 見えなくても、信じる。

 そんな言葉が、胸の中に浮かんだ。


『ノア』

 アークが個別回線で呼ぶ。

『行ける?』

「うん」

 ノアは頷いた。

「行く」


 五人が同時にゲートへ触れる。


 次の瞬間、視界が星の光に包まれた。


 転送先は、空に浮かぶ巨大な迷宮だった。


 足元には黒曜石のような床。

 壁には星座の線を描く光。

 遠くには幾重にも重なる円環が回転し、空間全体がゆっくり呼吸するように明滅している。


 開始地点には、青い火の灯った石柱が五本並んでいた。


『すごいです!』

 ピピが目を輝かせる。

『綺麗……というか、落ちたら怖いですね!』

『足場外は即死ではなく転送戻しらしいけど、タイムロスになる』

 フレアが冷静に言う。

『落ちないように』

『はい!』

 セレスは周囲を見渡しながら、補助術式を展開した。

『初見ですし、無理せず進みましょう』


 最初のエリアは、五人全員で進む通路だった。

 星座を模した床の上を歩くと、足元に淡い光が走る。

 数十メートル進むと、影でできた獣のような敵が三体現れた。


『来る』

 アークが剣を抜く。

『右、私』

 フレアがすぐに動く。

『中央、ピピさんお願いします』

『はい!』

 セレスが補助を飛ばし、ピピが前へ出る。


「アーク、左」

『了解』

 ノアは術式を展開した。

 星の軌道を描くように、青い光の輪が敵の足元へ走る。


 アークが踏み込む。

 ノアの拘束が入る半拍後に、アークの剣が振り下ろされる。

 影獣が砕け、星屑になって散った。


『やっぱり速いですね!』

 ピピが敵を引きつけながら叫ぶ。

『ノアさんとアークさん、前よりさらに息ぴったりです!』

『喋りながら余所見しない』

 フレアが横から影獣を撃ち抜く。

『してません! ちょっとだけです!』

『それを余所見と言う』

 いつもの会話に、ノアは少しだけ笑う。


 戦闘は安定していた。

 関係を話したあとも、五人の連携は壊れていない。

 むしろ、以前より空気が楽になった気さえする。


 アークの動きも、よく見える。

 どこへ踏み込むか。

 いつ下がるか。

 どの瞬間に支援を入れればいいか。


 ノアはそれを迷わず追えた。


 第一エリアを突破すると、迷宮の奥に二つの道が現れた。

 床に浮かぶ文字が、淡く輝く。


《二影と三光に分かれよ》

《信頼する者と対を成せ》


 ピピが文字を読み上げる。


『ペア分断来ました!』

『早いわね』

 フレアが言う。

『二人と三人に分かれるようです』

 セレスが確認する。

『組み合わせは任意ですね』


 三人の視線が、自然にノアとアークへ向いた。


 ノアの胸が跳ねる。


『これはもう』

 ピピがにこにこする。

『ノアさんとアークさんですよね!』

『まあ、ギミック的にも連携が取れる二人が妥当』

 フレアが冷静に頷く。

『私たちは三人側で進みましょう』

 セレスが微笑む。


 アークがノアを見る。

『いい?』

「うん」

 ノアは頷いた。

「行く」


 でも、胸の奥には少しだけ緊張があった。


 二人で進む。

 信頼を試されるギミック。

 それは嬉しいようで、怖い。


 左の通路にノアとアーク。

 右の通路にセレス、フレア、ピピ。

 分岐の前で、ピピが大きく手を振った。


『ノアさん、アークさん、頑張ってください!』

『ピピさんも気をつけて』

「うん」

『フレアさん、セレスさん、行きましょう!』

『走らない』

『はい!』


 三人の姿が右の通路の奥へ消えていく。


 ノアとアークは、左の通路へ入った。


 通路は静かだった。

 星の光が壁に流れ、足音だけがやけに響く。

 しばらく進むと、広い円形の部屋に出た。


 中央には大きな天秤のような装置があり、左右に光る台座がある。

 壁には文字が浮かんでいた。


《片方は見て、片方は進め》

《視る者は動けず、動く者は視えず》


 ノアは思わず息を止めた。


『視界遮断ギミックか』

 アークが言う。

「たぶん」

『どっちが動く?』

 その問いに、ノアは台座を見る。


 片方は術式操作の紋章。

 もう片方は戦闘用の足場へ繋がっている。

 構成から見れば、ノアが視る側、アークが動く側のほうが自然だ。


「私が視る」

『俺が動く』

「うん」

『指示、任せる』

 簡単に言われて、ノアの胸が少しだけ重くなった。


 任せる。


 その言葉が嬉しい。

 でも、怖い。


 アークが台座へ足を乗せる。

 ノアも術式側の台座へ立った。


 起動と同時に、部屋全体が星の光に包まれた。

 ノアの視界には、アークの前方にある通路全体が映し出される。

 同時に、アークの視界は黒く覆われたらしい。


『見えない』

 アークの声が個別回線に響く。

「私には見えてる」

『指示して』

「うん」


 アークの前方には、細い足場と複数の影敵。

 足場の端には落下判定の星霧が広がっている。

 敵は見えているが、アークには見えない。


 ノアの指示だけで進ませなければならない。


 胸が一気に緊張で満ちる。


「前に三歩」

『了解』

 アークが動く。

「右、半歩」

『うん』

「止まって」

 影敵が横切る。

 アークのすぐ前を、黒い刃のような尾が通り過ぎた。


 ノアの喉が鳴る。


 危なかった。

 でも、避けられた。


「左に二歩。すぐ前方から敵」

『攻撃方向は?』

「右斜め前。低い」

『了解』

 アークが剣を振る。

 見えていないはずなのに、ノアの指示通りに刃が走り、影敵を斬った。


 うまくいった。


 でも次の瞬間、床の星紋が変化した。

 足場が動く。

 敵の位置もずれる。


「待って」

『止まる』

「右の足場が下がる。左へ」

『左?』

「うん、左」

 指示を出した瞬間、ノアは迷った。


 左で本当に合っているか。

 足場の移動速度が思ったより速い。

 アークの今の位置だと、左へ動く前に敵の攻撃範囲へ入るかもしれない。


 失敗したら。

 アークが落ちたら。

 自分の指示で危険に晒したら。


 頭が一瞬、真っ白になる。


『ノア』

 アークの声が届く。

『次は?』

「……待って」

『うん』

 敵が近づいている。


 早く言わなければいけない。

 でも間違えたら。


 ノアの指先が震える。

 視界には全部見えているのに、判断ができない。


 アークが見えない場所にいる。

 自分の声だけを頼りにしている。

 その重さが怖い。


『ノア』

 アークの声が少しだけ強くなる。

『俺を見て』

「見てる」

『じゃなくて』

 彼は言った。

『俺を信じて』

 胸が強く鳴った。


『失敗しても、一緒に立て直す』

「でも」

『見えてるのはノアだ』

「うん」

『動くのは俺だ』

「うん」

『二人でやるギミックだろ』

 その声は落ち着いていた。

 見えていないのに、アークのほうが落ち着いている。


『ノアの指示を信じる』

「……」

『だから、ノアも俺が動けるって信じて』

 その言葉が、胸の中で何かを押した。


 信じる。

 見えているから全部を背負うのではない。

 指示する自分だけの責任ではない。

 動くアークも、自分の判断で応える。


 二人でやる。


 ノアは深く息を吸った。


「左じゃない」

『うん』

「前に一歩。そのあと右へ二歩。敵の攻撃を誘ってから、斜め左に抜けて」

『了解』

「タイミングは、私が言う」

『任せる』

 敵が迫る。

 床が動く。

 足場が傾く。


 ノアは目を逸らさなかった。


「今」

 アークが動いた。


 前へ一歩。

 右へ二歩。

 敵の攻撃が空を切る。

 その瞬間、ノアは叫ぶ。


「斜め左!」

『了解』

 アークが滑るように動き、細い足場を抜けた。

 影敵が背後で崩れ、星の粒子になる。


 成功した。


 ノアの胸から、一気に息が抜ける。


『抜けた?』

「抜けた」

『よかった』

「……怖かった」

『うん』

「でも、行けた」

『うん』

『ノアのおかげ』

「アークが動いてくれたから」

『二人で、だろ』

 その言葉に、ノアは小さく頷いた。


「うん」

「二人で」


 ギミックを突破すると、アークの視界遮断が解除された。

 彼がこちらへ戻ってくる。

 ノアは台座から降りた瞬間、少し足元がふらついた。


『ノア』

 アークがすぐに近づく。

『大丈夫?』

「大丈夫」

『本当に?』

「少し、力抜けただけ」

 言いながら、ノアはアークを見た。


 さっきまで見えない中を進んでいた人。

 自分の指示を信じて動いてくれた人。


「アーク」

『何』

「信じるのって、怖いね」

『うん』

「見えてるのに怖かった」

『うん』

「任されるのも怖かった」

『俺も、見えないのは怖かった』

「……そうなの?」

『当たり前だろ』

 アークは少しだけ笑った。

『でも、ノアの声があったから動けた』

 胸が熱くなる。


「私も」

『うん』

「アークが信じてくれたから、言えた」

 アークは静かに頷いた。


『次もそうしよう』

「うん」

『怖かったら、怖いって言う』

「うん」

『でも、止まり続けない』

「うん」

「一緒に立て直す」

 その言葉を、今度はノアが言った。


 アークの目が少しだけやわらぐ。


『それでいい』

 短い返事が、胸に届いた。


 通路の奥へ進むと、再び合流地点に出た。

 セレス、フレア、ピピの三人もちょうど到着したところだった。


『お二人とも!』

 ピピが駆け寄ってくる。

『どうでした? 甘い信頼ギミックでしたか!?』

「甘いかはわからない」

『でも信頼はしました?』

 ノアは少しだけ言葉に詰まった。

 それから、素直に答える。


「した」

 ピピの目が輝く。


『わあ!』

『騒がない』

 フレアが言う。

『でも、今のノアの返事は良かった』

『フレアさんもそう思いますよね!?』

『戦闘的な意味で』

『またそれですか!』

 セレスはノアの様子を見て、やさしく微笑んだ。


『少し疲れていますね』

「うん」

「でも、大丈夫」

『それなら良かったです』

 セレスは回復術式を軽くかけてくれた。

 身体が少し楽になる。


 フレアがアークを見る。

『そちらは?』

『視界遮断』

『ノアが指示?』

『うん』

『成功したなら上出来』

 フレアは頷いた。

『次はさらに難しくなるでしょうね』

『えっ、これより難しいんですか!?』

 ピピが叫ぶ。

『大型イベントだから』

『うう、楽しみですけど怖いです!』

『怖いくらいでちょうどいいです』

 セレスが微笑む。

『慎重になりますから』


 五人は次のエリアへ進んだ。


 その後も、迷宮は何度も連携を試してきた。

 同時に別方向のスイッチを押す部屋。

 片方のダメージをもう片方が引き受ける罠。

 片方が敵を引きつけている間に、もう片方が長い詠唱を完了させるギミック。


 ノアとアークは、何度も声をかけ合った。


『右、任せる』

「任せて」

『危なかったら言って』

「言う」

「アーク、三秒持つ?」

『五秒いける』

「じゃあ四秒で終わらせる」

『助かる』

 言葉が増えた。

 以前のように、呼吸だけで動くこともできる。

 でも今は、それに加えて、不安や確認も言葉にするようになっていた。


 それが、前より弱くなったとは思わなかった。

 むしろ、前より強くなっている気がした。


 言わなくてもわかる。

 それは確かに特別だ。

 でも、言えることもまた特別なのだと、ノアは少しずつ感じていた。


 中盤の大部屋では、五人全員での戦闘になった。

 星環の中央に巨大な影騎士が現れ、剣を振るたびに床の星座が組み替わる。


『ピピ、右の雑魚処理!』

『はい!』

『セレス、全体補助を厚めに』

『了解です』

『フレア、左翼』

『もう撃ってる』

 アークが前衛で影騎士を受ける。

 ノアは後方から拘束と弱体を重ねる。


 影騎士が大きく剣を振り上げた。


「アーク、下がって!」

『間に合わない』

「じゃあ、受け流して。左足場、残ってる」

『見えた』

 アークが足場の端へ踏み込み、剣を斜めに構える。

 ノアはその瞬間に防御術式を重ねた。


 衝撃。

 星の光が弾ける。


 アークは吹き飛ばされずに耐えた。


『ナイス』

「そっちこそ」

『今の、すごいです!』

 ピピが叫ぶ。

『もう完全に信頼コンボです!』

『名前をつけない』

 フレアが言う。

『でも精度は高い』

 セレスも頷く。

『二人とも、いい連携です』

 その言葉に、ノアは少しだけ照れた。


 でも、同時に嬉しかった。


 最後の一撃は、五人全員で合わせた。

 セレスの補助。

 フレアの狙撃。

 ピピの突撃。

 ノアの拘束。

 アークの剣。


 影騎士が星屑になって砕け、迷宮の奥へ続く扉が開く。


 五人は息を整えながら扉の前へ集まった。


『ここから最奥エリアですね』

 セレスが言う。

『システム表示によると、次はまた分断があります』

 フレアが確認する。

『二人、三人?』

 アークが聞く。

『いいえ』

 フレアは少しだけ眉を寄せた。

『表示が変ね』

『何ですか?』

 ピピが覗き込む。


 扉に浮かぶ文字が、ゆっくりと読める形になる。


《最奥へ進む者は、互いの影を預けよ》

《対を成した者のみ、星環の心臓へ至る》


 扉の前に現れたのは、二人分の転送陣だった。


 ピピがぱちぱちと瞬きをする。


『これ、二人だけですか?』

『そうみたいですね』

 セレスが静かに言う。

『残り三人は、別ルートで支援陣を維持する形式でしょうか』

 フレアが腕を組む。

『最奥はペア専用。ここで代表ペアを送る仕様ね』

『代表ペアって言ったら』

 ピピがにこっとする。

『もう決まりですよね!』

 三人の視線が、またノアとアークへ向く。


 ノアの胸が静かに鳴った。


 二人だけ。

 最奥。

 信頼ギミック。


 ここまで来たのだから行きたい。

 でも、また怖さもある。


 アークがノアを見る。

『行ける?』

 いつもの確認。


 ノアは少しだけ目を伏せた。

 さっきまでのギミックを思い出す。

 見えないアークへ指示を出したこと。

 怖かったこと。

 でも、信じて動けたこと。


 まだ怖い。

 でも、止まりたくない。


「行く」

 ノアは顔を上げた。

「アークと行く」

 アークの表情が少しだけやわらぐ。


『うん』

『行こう』


 ピピが両手を握りしめる。

『頑張ってください! わたしたち支援します!』

『こちら側の維持は任せて』

 フレアが言う。

『安心して進んでください』

 セレスが穏やかに微笑んだ。


 ノアは三人を見る。


「ありがとう」

『こちらこそ』

 セレスが返す。

『信じています』


 信じています。


 その言葉が、胸に残る。


 ノアとアークは転送陣へ立った。

 足元の星紋が光り始める。


 アークがそっと手を差し出した。

 ノアはその手を取る。


『怖い?』

「少し」

『俺も』

「でも、行きたい」

『俺も』

「信じる」

『俺も信じる』

 光が二人を包む。


 視界が揺れる直前、ノアはアークの手に少しだけ力を込めた。


 次の瞬間、二人の姿は星の光の中へ消えた。

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