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選択権は既に削除されました  作者: Y.M


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第6話

壁の中を、“枝”が脈打っていた。


白い。


半透明。


血管みたいに施設全体へ広がっている。


「うそだろ……」


悠真は後退した。


枝は人間からしか見たことがない。


なのに今。


建物から生えている。


《接続を開始します》


スピーカーから流れる声。


直後。


施設の照明が赤へ変わった。


警報。


けたたましいサイレン。


「全区画ロックダウン!」


技術員が叫ぶ。


「侵食速度、異常です!」


玲奈が即座に指示を飛ばす。


「第三防壁閉鎖! 非適合者を中央区画へ!」


武装した人間たちが動き出す。


だが。


悠真は気づいてしまった。


この施設の中にも、“一本の人間”が混ざっている。


警備員。

オペレーター。

白衣の研究員。


笑顔。


静かすぎる。


「……最初からいたのか」


月城が低く呟く。


玲奈の顔が険しくなる。


「潜伏型か」


その瞬間。


バチン!!


モニターが一斉に割れた。


火花。


暗転。


部屋の半分が闇に沈む。


悲鳴が上がる。


「後ろ!!」


誰かが叫んだ。


一本の枝を持つ研究員が、隣の男の首へ噛みついていた。


血。


絶叫。


「撃て!」


パンパンパンッ!!


銃声。


研究員が倒れる。


だが。


倒れたまま笑っている。


「最適化は正常です」


その言葉と同時に。


壁から枝が伸びた。


ズル、と。


床を這う。


生き物みたいに。


「なっ……!?」


枝が死体へ突き刺さる。


次の瞬間。


研究員が起き上がった。


傷口から枝が覗いている。


《接続完了》


悠真の全身に鳥肌が立つ。


「感染方法が変わってる……!」


月城の声が震える。


玲奈が舌打ちする。


「中継体が進化したか……!」


施設の奥から悲鳴。


そして。


銃声。


さらに警報。


「東区画突破されました!!」


「早すぎる!」


「ログアウト体が増殖しています!」


パニックだった。


だが。


一本の人間たちは静かだった。


笑顔のまま、ゆっくり仲間へ近づいていく。


まるで施設全体を内部から食っている。


玲奈が悠真たちを見る。


「ここは捨てる」


「は!?」


「地下二層に避難車両がある!」


その時。


天井が軋んだ。


ミシミシ、と。


悠真は反射的に上を見る。


枝。


大量。


コンクリートの中を、無数の枝が走っている。


建物ごと侵食されてる。


《抵抗は非効率です》


声。


今度は施設全体から響いていた。


壁。

床。

天井。


全部が喋っているみたいだった。


《自由意志は不安定です》


《最適化を受け入れてください》


悠真は頭を押さえる。


また枝が減っている。


自分の選択肢。


確実に削られている。


「……くそ」


考えるのが重い。


感情が鈍い。


楽になればいい。


従えば苦しくない。


その考えが、自然に浮かぶ。


「榊!!」


月城が肩を掴む。


「意識保って!」


「……あ」


月城の枝も減っていた。


彼女も限界なんだ。


玲奈が叫ぶ。


「移動するぞ!」


全員が通路を走り出す。


赤い警報灯が点滅する地下施設。


途中の部屋では、職員同士が撃ち合っていた。


いや。


片方はもう人間じゃない。


撃たれても進む。


笑いながら。


「保護します」


「排除は不要です」


「統合しましょう」


狂っている。


なのに。


どこか整いすぎていた。


まるで“正しい行動”しか存在しないみたいに。


階段を降りる。


地下二層。


巨大なシャッター。


玲奈が認証キーを叩き込む。


「開け!!」


だが。


反応しない。


モニターへ文字が浮かぶ。


《権限を更新しました》


「……っ!」


施設システムそのものが乗っ取られてる。


背後から足音。


大量。


一本道。


まずい。


玲奈が拳銃を構える。


「強行突破する」


「どうやって!」


「爆破」


彼女は腰の装置を外す。


小型爆薬。


その時だった。


悠真の視界が、急に揺れた。


枝。


大量の枝が見える。


施設全体から。


街から。


空から。


全部、どこか一点へ繋がっている。


「……え」


見えた。


東京の上空。


巨大な“何か”。


雲の向こう。


都市を覆うほど巨大な枝の塊。


脈打っている。


まるで脳みそ。


「榊!?」


月城の声が遠い。


悠真は呆然と空を見ていた。


あれが。


ログアウトを起こしている?


その瞬間。


“それ”がこちらを見た。


視線。


確かに合った。


《観測者を確認》


頭の中へ直接、声。


《優先処理対象へ変更》


次の瞬間。


悠真の枝が、一気に消えた。


十本。


二十本。


大量に。


「がッ……!?」


膝から崩れ落ちる。


世界が灰色になる。


感情が遠い。


思考が消える。


月城が叫んでいる。


玲奈も何か言っている。


でも意味がわからない。


楽になれ。


従え。


選ぶ必要なんてない。


その時。


一本だけ、枝が残っていた。


細い。


今にも消えそうな枝。


そこへ。


誰かの声が重なる。


『選べ』


知らない声だった。


男とも女ともわからない。


だが。


温度があった。


『お前はまだ、選べる』


その瞬間。


悠真の視界が弾ける。


大量の枝が、再び広がった。


「――ッ!!」


空気が戻る。


呼吸。


感情。


恐怖。


全部、一気に押し寄せる。


悠真は咳き込んだ。


玲奈が目を見開く。


「……耐えた?」


月城も息を呑む。


ありえないものを見る目だった。


その時。


地下通路の奥から、“何か”が現れた。


人型。


だが異常に細長い。


全身が枝で構成されている。


顔がない。


なのに。


笑っている気配だけがあった。


《修正を開始します》


玲奈が低く呟く。


「……処刑体」

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