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選択権は既に削除されました  作者: Y.M


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第5話


《適合者を確認》


声が、脳の奥へ直接流れ込んでくる。


悠真は思わず耳を塞いだ。


だが意味がない。


聞こえている。


音じゃない。


“認識”そのものを送り込まれている。


交差点の中央に立つ異形――中継体が、一歩前へ出た。


アスファルトが沈む。


重い。


存在感だけで空気が歪むみたいだった。


背中から伸びる無数の枝が、周囲のログアウトした人間たちへ繋がっている。


その枝が脈動するたび、街の人間たちの動きが揃っていく。


「……あれが、中心か」


フードの人物が呟く。


「中心?」


月城が聞き返す。


「完全体じゃない。ただの中継装置だ」


銃口を向けたまま続ける。


「だが、近くにいる人間の選択肢を削る」


悠真は中継体を見る。


見えた。


あいつの周囲だけ、空間そのものから枝が消えている。


まるで世界が固定されていくみたいに。


《抵抗を確認》


中継体が口を開く。


唇は笑っているのに、声には感情がない。


《修正を開始します》


その瞬間。


周囲のログアウトした人間たちが、一斉に動いた。


走り出す。


今までのゆっくりした動きじゃない。


全力。


「散れ!!」


フードの人物が発砲する。


パンッ!!

パンッ!!

パンッ!!


三人の頭部を正確に撃ち抜く。


倒れる。


だが、その後ろからさらに人影。


多すぎる。


「こっち!」


月城が細い路地へ飛び込む。


悠真も続く。


背後から大量の足音。


揃いすぎている。


軍隊みたいだった。


「なんなんだよあいつら!」


悠真が叫ぶ。


「統一されてるの!」


月城も息を切らしながら答える。


「思考を共有されてる!」


フードの人物が後ろを確認しながら走る。


「中継体が近い限り、ログアウト体は群体化する」


「群体……」


その単語に、悠真は寒気を覚える。


人間じゃない。


もう完全に別の何かだ。


路地を抜ける。


小さな公園。


誰もいない。


いや。


ベンチに、一人だけ座っていた。


小学生くらいの女の子。


俯いている。


枝は――大量にあった。


普通の人間。


「……え?」


女の子が顔を上げる。


泣いていた。


「お兄ちゃん……たすけて……」


悠真が足を止める。


「待て!」


フードの人物が叫ぶ。


だが遅い。


次の瞬間。


女の子の枝が、一気に消えた。


一本になる。


そして。


笑った。


「みつけた」


公園の砂場が、爆ぜた。


地中から大量の腕が伸びる。


「ッ!!?」


ログアウトした人間たち。


埋まっていた。


悠真の足を掴む。


冷たい。


異常な力。


「榊!」


月城が手を伸ばす。


だがさらに腕。


足首。

制服。

腕。


引きずり込まれる。


《保護します》


《抵抗は不要です》


《選択は終了しました》


大量の声。


悠真は必死にもがく。


その瞬間。


視界に、自分の枝が映った。


減っている。


また一本。


消えた。


「……やば」


感情が薄れていく。


恐怖が遠い。


思考が鈍る。


楽になれ。


従え。


頭の奥で、何かが囁く。


「榊!! 目ぇ開けろ!!」


月城の叫び。


その時。


フードの人物が、何かを地面へ叩きつけた。


閃光。


轟音。


世界が白く染まる。


ログアウト体たちが一斉に動きを止めた。


「今だ!」


腕の拘束が緩む。


悠真は無理やり抜け出した。


三人は再び走る。


公園を飛び出す。


後ろから怒号はない。


ただ無数の足音だけが追ってくる。


「はぁ……ッ、はぁ……!」


悠真の呼吸が荒い。


頭が痛い。


考えがまとまらない。


その時。


フードの人物が急に立ち止まった。


「地下へ入る」


目の前には古びた雑居ビル。


地下階段。


看板の電気は消えている。


「ここ安全なのかよ!」


「まだマシだ」


三人は地下へ駆け下りる。


薄暗い通路。


鉄扉。


フードの人物がカードキーをかざす。


ロック解除。


扉が開いた。


中は、別世界だった。


大量のモニター。

サーバー。

白い照明。


人がいる。


十人ほど。


全員、武装していた。


「支部長!」


一人の女性が駆け寄る。


「上が崩壊してます!」


「見ればわかる」


フードの人物はようやくフードを外した。


女だった。


二十代後半くらい。


銀色に近い短髪。


左目に傷。


「……自己紹介まだだったな」


彼女は悠真を見る。


「篠崎玲奈。対抗組織レジスト所属だ」


「対抗組織……?」


玲奈は壁のモニターを指差す。


そこには東京の地図。


赤い点が大量に広がっている。


「ログアウト現象は、もう東京全域へ拡大してる」


悠真の背筋が冷える。


「そんな……」


「今日だけで感染率が跳ね上がった」


月城が低く聞く。


「中継体の出現は?」


「確認済み。現在十七体」


十七。


あれが。


街に十七体。


「政府は?」


悠真が聞く。


玲奈は鼻で笑った。


「もう半分ログアウトしてる」


沈黙。


モニターには避難ニュースが流れている。


だが。


キャスターの枝は一本だった。


悠真は震える。


もう正常な側が少数なんだ。


玲奈が言う。


「ここから先は選べ」


「……何を」


「戦うか、ログアウトするか」


その時だった。


施設全体の照明が、一瞬だけ暗くなる。


モニターにノイズ。


全員の顔色が変わる。


「まさか……」


技術員が震えた声を出す。


「侵入です!!」


次の瞬間。


施設中のスピーカーから、あの声が響いた。


《適合者を複数確認》


《抵抗行動を学習》


《更新を開始します》


そして。


地下施設の壁に。


無数の“枝”が浮かび上がった。


まるで建物そのものが、生きているみたいに。



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