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選択権は既に削除されました  作者: Y.M


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第7話

処刑体は、音もなく立っていた。


地下通路の赤い警報灯が、その輪郭を不規則に照らしている。


細い。


異様なほど。


人間を無理やり引き伸ばしたみたいな体型だった。


全身が“枝”でできている。


皮膚も肉もない。


無数の半透明の枝が絡み合い、人の形を維持しているだけ。


顔には何もなかった。


目も鼻も口もない。


なのに。


確かに笑っている気配がある。


《観測誤差を確認》


声は頭の中へ直接響いた。


《修正を開始します》


玲奈が銃を構えたまま後退する。


「全員、目を合わせるな」


「目ないじゃねえか……!」


悠真の声が震える。


玲奈は低く答える。


「見られること自体がまずい」


処刑体の周囲だけ、空間が歪んでいた。


枝が消えていく。


人間の選択肢が。


まるで存在を“固定”されているみたいに。


「爆薬、まだ?」


月城が聞く。


玲奈が舌打ちする。


「あと十秒」


長すぎる。


処刑体が、一歩前へ出た。


ズル、と。


足が床に沈む。


コンクリートへ枝が侵食していく。


《自由意志は不完全です》


《個体差を排除します》


次の瞬間。


処刑体が消えた。


「――ッ!?」


速い。


悠真の視界から一瞬で消える。


直後。


バキン!!


玲奈が吹き飛んだ。


壁へ激突。


コンクリートにヒビが入る。


「玲奈さん!」


月城が叫ぶ。


処刑体の腕が、異常な長さへ伸びていた。


枝の束。


槍みたいに鋭い。


玲奈は咳き込みながら立ち上がる。


「……化け物が」


処刑体は首を傾けた。


《敵意を確認》


《削除します》


再び消える。


今度は悠真の目にも、かろうじて残像だけが見えた。


右。


「月城ッ!!」


悠真は反射的に彼女を突き飛ばす。


枝の槍が、二人の間を貫いた。


床が爆ぜる。


コンクリート片が飛び散る。


「……っ!」


月城が息を呑む。


一瞬遅れていたら死んでいた。


処刑体が悠真を見る。


いや。


“観測”している。


《適合値上昇を確認》


《危険因子認定》


嫌な感覚。


全身を解析されているみたいだった。


その時。


悠真は気づく。


処刑体の枝。


流れが見える。


普通の人間の枝じゃない。


もっと巨大な何かから、直接繋がっている。


東京上空の“あれ”。


あの巨大な枝の塊。


「……中継してるのか」


処刑体が止まる。


《理解速度を確認》


《危険度上昇》


玲奈が目を細める。


「見えてるのか?」


悠真自身も驚いていた。


枝の流れ。


情報。


接続。


なぜかわかる。


処刑体が動く前に、“次の動き”が枝として見える。


右腕が伸びる。

月城を狙う。

その後、玲奈。


見えた。


「右だ!!」


月城が反射的に伏せる。


枝の槍が空を切った。


玲奈が即座に発砲。


パンパンパンッ!!


弾丸が処刑体へ直撃する。


だが。


効いていない。


枝が弾を飲み込んでいる。


《攻撃行動を学習》


「チートかよ……!」


悠真が叫ぶ。


玲奈が爆薬をシャッターへ投げつける。


「伏せろ!!」


轟音。


爆発。


熱風。


巨大シャッターが吹き飛ぶ。


「行け!」


三人は地下駐車場へ飛び込む。


薄暗い空間。


軍用車両が数台並んでいる。


玲奈が一台へ飛び乗る。


「早く!」


エンジン始動。


その瞬間。


処刑体が爆煙の中から現れた。


無傷。


ありえない。


《逃走行動を確認》


《修正を継続》


処刑体の背中から、大量の枝が広がる。


蜘蛛みたいに。


地下駐車場全体へ伸びていく。


枝が車へ絡みつく。


「邪魔だッ!!」


玲奈がアクセルを踏み込む。


エンジンが唸る。


車が強引に枝を引きちぎる。


だが。


処刑体が追ってくる。


四足歩行。


人間離れした速度。


「なんであんな速ぇんだよ!!」


悠真が後部座席で叫ぶ。


月城が息を切らしながら答える。


「ログアウト体じゃない……! あれはもっと上位!」


処刑体が跳躍する。


天井近くまで。


次の瞬間。


ドンッ!!


車の上へ着地。


車体が沈む。


「うおッ!?」


天井へ枝が突き刺さる。


悠真の顔のすぐ横。


数センチ。


処刑体がこちらを覗き込む。


顔がないのに。


確かに“見ている”。


《観測者》


《発見》


枝が悠真へ伸びる。


避けられない。


その瞬間。


悠真の視界に、枝が見えた。


未来の枝。


数秒先の可能性。


「左!!」


玲奈がハンドルを切る。


車が急旋回。


処刑体のバランスが崩れる。


その隙に。


悠真は足元の拳銃を掴んだ。


初めて持つ重さ。


震える手。


でも。


見える。


枝が集中している場所。


処刑体の中心。


胸部。


そこだけ、接続が異常に密集している。


「……そこか」


引き金を引く。


パンッ!!


弾丸が枝の中心を撃ち抜いた。


一瞬。


処刑体の動きが止まる。


《接続異常》


初めて声が揺れた。


「効いた!?」


月城が叫ぶ。


悠真は確信する。


あいつにも核がある。


完全無敵じゃない。


だが。


次の瞬間。


処刑体の傷口から、枝が再生し始めた。


「……は?」


《学習完了》


その瞬間。


地下駐車場の壁を突き破って。


大量のログアウト体が雪崩れ込んできた。


数十。


いや、百近い。


全員が笑っている。


《回収を開始します》


処刑体が、静かに告げた。

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