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選択権は既に削除されました  作者: Y.M


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第11話


「……零号?」


悠真の声が掠れる。


頭の奥が痛む。


さっき見えた映像。


白い部屋。

大量のモニター。

そして、“自分に似た何か”。


あれが脳裏に焼き付いて離れない。


《記録照合完了》


空の巨大な目が、ゆっくり瞬いた。


その瞬間。


東京中の枝が脈動する。


ドクン。


街全体が、生き物みたいに呼吸した。


アキラが顔を青ざめさせる。


「まずい……認識された」


玲奈が即座に言う。


「移動するぞ!」


だが。


悠真は動けなかった。


零号。


その単語を聞いた瞬間から、自分の枝に異変が起きている。


増えている。


異常なほど。


普通の人間の数十倍。

いや、数百。


未来の枝だけじゃない。


別の“何か”まで見え始めていた。


建物の選択。

電波の選択。

都市の選択。


世界全体が、巨大な分岐構造へ変わって見える。


「榊くん!」


月城が腕を掴む。


「しっかりして!」


その瞬間。


悠真の視界に、“月城の死”が見えた。


枝。


数秒後。


空から落下する枝槍。


彼女の頭部を貫く未来。


「伏せろ!!」


悠真は月城を突き飛ばした。


直後。


ドォン!!


巨大な枝が屋上へ突き刺さる。


コンクリートが吹き飛ぶ。


数秒前まで月城がいた場所。


「……え」


アキラが絶句する。


玲奈も悠真を見る。


今のは偶然じゃない。


完全に未来を読んでいた。


《未来観測能力、再起動を確認》


空の目が、静かに告げる。


《観測者零号、機能回復率十二%》


悠真の血の気が引いた。


再起動?


機能?


まるで。


人間じゃなく、装置みたいな言い方。


「……俺、何なんだよ」


誰にも聞こえない声。


だが。


空の目は答えた。


《お前は、選択を記録するために作られた》


世界が静まる。


風すら止まった気がした。


「……は?」


《人類は不安定だった》


《感情は誤差だった》


《自由意志は非効率だった》


枝が空全体へ広がる。


巨大な神経網みたいに。


《故に、“観測者”が必要だった》


悠真の脳へ、また映像が流れ込む。


白い研究施設。


大量の人間。


無数のモニター。


その中央で、“幼い自分”が眠っている。


頭部へ接続された枝。


『成功です』


白衣の誰かが言う。


『零号、未来分岐観測に反応しました』


『これで人類は最適化できます』


映像が途切れる。


悠真が膝をつく。


吐き気。


「やめ……ろ……」


月城が支える。


「榊くん!」


玲奈の顔色が険しい。


「記憶を直接流し込まれてる……!」


アキラが空を睨む。


「ふざけんなよ……!」


彼女はライフルを空へ向けた。


届くはずもない。


それでも撃つ。


パンッ!!


弾丸は空へ消える。


だが。


巨大な目が、ゆっくり彼女を見た。


《抵抗を確認》


その瞬間。


アキラの枝が、一気に削れた。


「……っ!?」


彼女が膝をつく。


笑顔になりかける。


まずい。


悠真は反射的に彼女の手を掴んだ。


その瞬間。


枝が繋がった。


見えた。


アキラの未来。


ログアウトする未来。

抵抗する未来。

死ぬ未来。


大量。


その中で。


一本だけ。


助かる枝。


「玲奈さん!! 首の後ろ!!」


玲奈が即座にアキラを押さえる。


首筋。


そこへ、小さな枝が刺さっていた。


いつの間に。


「チッ!」


ナイフで切断。


枝が床へ落ちる。


ジュゥ、と煙を上げて消えた。


アキラが咳き込む。


「……はぁ、はぁ……」


笑顔が消える。


ギリギリだった。


玲奈が悠真を見る。


「他人の分岐まで読めるのか」


悠真は答えられない。


見え始めている。


どんどん。


人間の“未来”が。


その時だった。


空の巨大な目が、ゆっくり閉じ始める。


《零号回収を優先します》


嫌な予感。


東京中の枝が、一斉に動いた。


ビル壁面。

道路。

電柱。


全部の枝が、悠真へ向かって伸び始める。


「うそだろ……!」


都市そのものが、襲ってきている。


玲奈が叫ぶ。


「走れ!!」


四人は屋上を飛び出した。


非常階段。


だが。


階段の壁から枝。


床から枝。


建物全体が侵食されている。


《回収します》


《回収します》


《回収します》


無数の声。


悠真は走りながら、視界へ集中する。


未来。


無数の死。


無数の捕獲。


その中で。


また一本だけ見えた。


細い枝。


地下。


「下じゃない!!」


悠真が叫ぶ。


「上だ!!」


「はぁ!?」


玲奈が振り向く。


「屋上のさらに上!」


意味不明だった。


だが。


見える。


生存する未来がそこにしかない。


四人は方向転換し、さらに上へ駆け上がる。


階段の終点。


屋上の通信設備エリア。


巨大アンテナ。


枝が絡みついている。


その中央。


空間が歪んでいた。


黒い裂け目。


「……何これ」


月城が息を呑む。


悠真は理解していた。


なぜかわかる。


「あれ、“外側”へ繋がってる」


《零号》


空の声。


《帰還してください》


裂け目の向こうから。


無数の“目”がこちらを見ていた。




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