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デルタのスナイパー  作者: 二条路恭平


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マンスールの邸宅を最初に偵察してから4日目、俺達はアジトであるアパートから外出するのは、食糧の買い出し以外は控えた生活を送っていた。

理由としては、コーディネーターのジョンにマイクがオーダーしていた物資を供給してもらえるのか回答を待っていたのと、その物資が手元に届き俺達の態勢が整うまでは、マンスールの邸宅に近付いても不用意に危険な状態を招いてしまうだけで得る物がないと判断したためである。

そう判断した決定的な理由が、マンスールの邸宅を偵察した翌日の朝にコーディネーターのジョンにフォルクス・ワーゲンを運転してもらって食糧等の買い出しへ出掛けようとした際、ジョンが車に乗り込みエンジンのスタートボタンへ指を掛けようとした瞬間にマイクが

「ちょっとエンジンを掛けるのを待て」

とジョンに声を掛けると

「エンジンルームを見たいから、ボンネットのロックを外してくれ」

マイクが続け様にジョンへ声を掛ける。

コーディネーターのジョンは、最初マイクの言葉に怪訝そうな顔をしていたが、直ぐにマイクが意図している事を理解するとジョンの顔付きは一変して緊張したものに変化して、黙って頷くとボンネットのロックを解除するレバーを引いた。

小さく「ボンッ」というボンネットのロックが外れる音と共に、フロントのボンネットが僅かに浮かび上がると、マイクはフォルクス・ワーゲンのフロントグリルの前にしゃがみ込んで、履いているジーンズの左前ポケットから小型のハンドライトを取り出して点灯させると、僅かに浮き上がったボンネットの隙間にハンドライトの光を照射して丹念に覗き込み

「ボンネットには、何も仕掛けがされた形跡はなさそうだ」

と言って、右手に持っていたハンドライトを俺に渡してからフォルクス・ワーゲンのボンネットを上げて、エンジンルームが見えるようにする。

「ジョージは、そのハンドライトで手元を照らしてくれるか?」

とマイクが言う。

俺もマイクが意図していることが理解できているので、エンジンルームの下の方で見え難いイグニッション・スイッチの辺りへハンドライトの光を照射してやる。

マイクは、照らされたイグニッション・スイッチを見ようと前屈みになって覗き込むと

「やっぱりなぁ、少し見え難いが爆発物が仕掛けられている。間違いなくエンジンのスタートボタンを押してイグニッションが起動すると連動して爆発物が点火するように細工されているよ」

それを聞いた俺は

「爆発物は取り外せそうか?」

マイクに聞いてみる。マイクは、デルタのオペレーターの中では最も爆発物の取扱いに長けているので、もしマイクが解除不可能と判断したならば仕掛けられた爆弾を弄らない方が身のためだ。

「昨日の深夜になってから爆発物を仕掛けたんだろうし、こんな狭い駐車スペースでは余り複雑な作業はできないと思うので、恐らくナイフとニッパー、それにゴム手袋があれば爆発物を取り外すのは難しくないよ」

マイクは比較的簡単そうに答える。それを聞いたコーディネーターのジョンは、運転席を降りるとフォルクス・ワーゲンの後部へ向かい、ハッチバックドアを開ける。トランクルームの床に敷かれている厚手のシートを捲り上げて工具類が入っている工具箱を取り出してくる。

その工具箱をマイクの脇へ置いて、工具箱を開け折り畳みナイフにニッパー、それと手術等で使用するような薄手のゴム手袋をマイクに見せる。

それらを見たマイクは

「上等、上等」

と笑顔を見せながら、薄手のゴム手袋を掴むと器用にゴム手袋を嵌め始める。大きな手をしたマイクが、ゴム手袋を嵌めると今にもゴム手袋が裂けてしまいそうになるが、エンジンルーム内の狭い空間で作業をするであれば、下手に余裕があって大きなサイズ感のゴム手袋を着用してブカブカするよりも、キッチリとフィットしていた方が作業し易くミスを犯す可能性が低くなる。

ピチピチのゴム手袋を着用したマイクが工具箱から、折り畳みナイフとニッパーを取り出そうとした時、小型の懐中電灯がある事に気付くと

「これも使って照らしてくれ」

と言って俺に懐中電灯を渡し、替わりに俺が持っているハンドライトを受け取るとマイクは点灯させたハンドライトを口に咥える。その状態で、マイクは再びエンジンルームのイグニッション・スイッチを覗き込むように前屈みとなる。

俺は、フォルクス・ワーゲンの前方左側面に立って渡された懐中電灯の光で、マイクの手元に影が出来ないよう注意しながらイグニッション・スイッチを照らす。

ゴム手袋を着用した両手を狭い空間に突っ込んで20分近く悪戦苦闘していたマイクであったが、額に薄っすらと汗を滲ませながらも笑顔を見せると、狭いエンジンルームの空間から爆弾を持った右手を抜き出して

「とんでもねぇ、お土産を置いて行ったな」

とマイクが言いながら爆弾を眺めている。

「仕掛けは単純でイグニッションが起動した際に、車体に搭載したバッテリーから流れる電流を利用して起爆装置を稼働させるようになっていて、リモコン装置は装着されていないから、爆薬から信管を取り出せば爆発する心配はない」

と言ってC4と呼ばれるプラスチック爆薬から慎重に信管を外し

「何か大き目な紙袋はないか?」

とコーディネーターのジョンに尋ねる。

ジョンは頷くと、フォルクス・ワーゲンの運転席ドアを開けてコンソールボックスから折り畳んだ紙袋を持ってくる。その紙袋を受け取ったマイクが、紙袋にC4プラスチック爆薬を入れ

「ちょっと、これを持っていてくれ」

と言って紙袋を俺に手渡してくる。C4プラスチック爆薬が入った紙袋を俺が受け取るとマイクは両手に着用していたゴム手袋を外し、その外したゴム手袋で信管が取り付けられている起爆装置を包んでから、俺が持っているC4プラスチック爆薬入りの紙袋へ入れる。

この状態ならば、何かの衝撃が起爆装置に加わったとしても信管が直接C4プラスチック爆薬に接していないので起爆することはない。

マイクが俺から紙袋を受け取るとコーディネーターのジョンに向かって

「この車はアンタの自家用車なのか?」

と尋ねる。

「いや、今回のミッションのためにレンタルした車です」

ジョンが答えるのを聞いたマイクは

「それじゃ、この車は直ぐに返却して新しい車を準備したほうが良いなぁ」

と真顔になってジョンに言う。

確かに、深夜のうちに使用している車両へトラップ爆弾を仕掛けてきた事実を見れば、このフォルクス・ワーゲンは相手に把握されているに間違いない。

このまま使用していては危険性が高まるばかりで、更に手の込んだトラップを仕掛けられるか、或いはマンスールの邸宅に近寄った際にカールグフタス84ミリ無反動砲の標的とされるのは確実である。

マイクの言葉を聞いたジョンは

「それじゃ、直ぐに車を返却してきます」

と言って運転席へ乗り込もうとすると

「折角だから、俺達も同乗して買い出しに行こうぜ」

とマイクは気楽な調子で言う。

一見、マイクのお道化た感じは不謹慎と思われる部分がないとは言えないが、この楽天的な雰囲気が極度の緊張を和らげてくれるのでチームとして行動する場合には、チーム全体の潤滑剤となってくれる。

「お二人が良いならば、私は構いませんが」

とコーディネーターのジョンが俺達の顔を交互に見ながら答える。

「それじゃ、決まりだ。ただし、ジョージもジョンも拳銃を携行しているな」

とマイクが言いながら、フォルクス・ワーゲンのボンネットを閉める。


駐車スペースからフォルクス・ワーゲンを出して、狭い路地から一般道路へ出ると

「買い物は最後にして、最初はCIAの連絡所へ紙袋に入れたお土産を渡した方が良いな、爆弾を取り外す際、俺は手袋をして作業したので相手の連中の指紋なんかが採取できるかもしれないし、それ以外の情報も検出できて分析できるかもしれない」

後部シートに座っているマイクが、運転席のジョンに声を掛けるが、その間も周囲へ鋭い視線を走らせることは怠らない。助手席に座っている俺も気楽にして、マイクの話を聞いていることなく前方への警戒を抜かりなくしている。

「了解しました。ただし、お二人を信用していないわけではありませんが、軍の人間であっても部外者に連絡所の場所を教えるわけにはいかないので、離れた場所に車を停めて私1人が向かいますが大丈夫ですか?」

ジョンは前方を見詰めながら口にする。

「当然だろうなぁ、俺やジョージが同じ立場なら同じようにする。それに、3人で車を離れたりしたら再びトラップを仕掛けられる危険性があるから、俺とジョージが車に残って見張り番をしているから安心して爆弾を渡してこいよ」

マイクが言う言葉に、俺もマイクに賛同した意味を込めて助手席で頷く。

暫く一般道をフォルクス・ワーゲンが走ったところで、ジョンがウィンカーを右へ点灯させて、徐々に車速を落とし道路脇にフォルクス・ワーゲンを停車させると紙袋を持って運転席のドアを開けたジョンが

「それじゃ、後は宜しくお願いします」

と言って車外へ出て歩道を歩いていく。

俺達に背を向けて歩道を歩いて行くジョンを見送りながら

「わざとジョンにCIAの連絡所へ行くよう仕向けたな?」

前方へ視線を向けながら俺はマイクに尋ねた。

「ああ、どうせ車は此処に置いていくことになるだろうから、待っている間に俺達を尾行している人間を見付け出して、車を降りた時そいつを引っ捕まえて情報を聞き出せば少しはミッション遂行の助けになる」

マイクも素知らぬ風を装いながら答えると周囲へ視線を走らせている。

暫くすると、俺とマイクはフォルクス・ワーゲンを停車させている反対側の歩道から携帯電話で写真を撮りながら歩いているヒッピー風の姿をした男に注目していた。

俺は助手席のサイドミラー、マイクは顔を左へ向けてヒッピー風の男を観察しているとヒッピー風の男は旅行者のような感じで、頻りに街並みの写真を撮影しているような仕草をしているが、明らかに俺達の方へレンズを向けてシャッターボタンを押しているのが分かる。

そこへ前方からジョンが歩いて来るのが見えた。フォルクス・ワーゲンに近付いたジョンが運転席のドアを開けて

「この車は、此処に置いておくことになりましたので、ここからは歩きです」

と俺達に言ってくる。

それを聞いたマイクは

「オーケー、それじゃ歩こうか」

と言って後部ドアを開けて歩道に降り立つ。

俺も助手席ドアを開けて、フォルクス・ワーゲンから降りると歩道へ向かう。

俺が歩道に来るとマイクは明るい声で

「それじゃ、こっちの方へ行ってみようぜ」

と言うと、歩道をフォルクス・ワーゲンの後方へ向かって歩き出した。そのマイクの後を黙って俺が後に続き、ジョンも俺達を追うように歩き出す。

反対側の歩道にいるヒッピー風の男との位置関係が、真正面になった辺りでマイクは俺とジョンの方へ振り返って

「ジョン、この辺りで美味そうな食い物を売っている店はあるのか?」

とジョンに問い掛けると同時に、マイクは反対側の歩道へ向かってダッシュを始める。マイクの行動を予め予測していた俺は、慌てることなくマイクを追って反対側の歩道へ走り出した。

反対側の歩道にいるヒッピー風の男に近付いたマイクは、迷うことなくヒッピー風の男にタックルをするとヒッピー風の男は建物の壁へ飛ばされ、持っていた携帯電話を歩道に落とす。

俺は壁に飛ばされたヒッピー風の男へ走り寄り、走ってきた勢いを利用するようにヒッピー風の男の鳩尾へパンチを叩き込んでやるとヒッピー風の男は「ウッ」という唸り声を発して気絶する。

その様子を後から付いてきたジョンが呆気に取られた様子で立ち尽くしているので

「その落ちている携帯電話を拾え」

俺がジョンに声を掛けると、ジョンは慌てて歩道に落ちている携帯電話を拾い上げる。

それを横目で見ていたマイクは、気絶しているヒッピー風の男に近付くとヒッピー風の男が着ている上着の襟首を掴んで路地へ引っ張って行く。そのマイクの後に付いて路地へ向かう俺はジョンの方へ顔を向けて

「ジョンも携帯電話持って付いて来い」

と声を掛ける。未だ完全に事態が飲み込めていないジョンは、俺に言われた通りに拾い上げた携帯電話を持って付いて来る。

歩きながら俺が

「その携帯電話にマイクや俺、それにジョンも隠し撮りされているだろうから、その写真データが何処かへ送信されているかを確認して、もし送信されていなかったら写真データの全てを消去しろ。そう言う作業は、俺達よりジョンの方が得意だろう」

と言うと、漸く事態が飲み込めたのかジョンが携帯電話のアルバムをチェックすると俺達を隠し撮りした結構な枚数の写真データを発見する。次いで、ジョンがメールやライン等の通信履歴をチェックして写真データが送信された痕跡がない事を確認するとアルバムに保存されている写真データを全て消去した。

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