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デルタのスナイパー  作者: 二条路恭平


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45/297

45

マンスールの邸宅を観察している途中、不審な人物がフォルクス・ワーゲンに接近してくるのを察知したコーディネーターのジョンが機転を利かせて俺とマイクの観察を中断するよう提案してフォルクス・ワーゲンをUターンさせて、登って来た坂道を下り始めたが、その途中で突然フォルクス・ワーゲンの前へ飛び出してきた人物がいた。

首元が、ヨレヨレの白っぽいTシャツの上から所々が黒い色が掠れた古着の様なコンバットジャケットを羽織り、履き古しているのか左膝の辺りに孔の空いたジーンズを履いている。中東系の顔をした30代くらいと思われる男性である。その男性の顔付きは、顔中に髭を蓄えて目付きが獲物を狙う獣のような鋭い視線で俺達を睨んでいる。

突然、目の前に男が跳び出してきたので運転手のジョンは慌ててブレーキを踏み込む。下り坂で急ブレーキを掛けられたフォルクス・ワーゲンは車のフロントが沈み込みキーッとタイヤを鳴かせてスピードを落とす。フォルクス・ワーゲンの車内ではシートベルトをしているものの俺とマイクは身体が前方へ振られるが、幸いにも手にした拳銃を離してしまうようなことはなかった。

跳び出してきた男性の1メートルほど手前で、停車したフォルクス・ワーゲンを見た男性は手に持っていたショルダーバックから2つの黒い物体を取り出すと、取り出した物体の1つをもう1つの物体に接合しようとしている。

男性が手にしている物体をよく見ると、ストックが折り畳まれた状態のドイツの銃器メーカーであるヘッケラー・アンド・コッホが製造している短機関銃のUMPであった。しかし、UMP短機関銃は使用する弾薬が45ACP弾薬、40S&W弾薬、9×19ミリメートル弾薬の3種類があり、目の前でUMP短機関銃の発砲準備をしてるのが、どの弾薬を使用するモデルなのかまでは判断できない。

そうしている間にも、男性はハンドガード左側上部に位置するボルトハンドを左手で、取っ手部分を叩くようにしてボルトを前進させる独特のHKスラップを行い発射準備が整おうとしている。

しかし、俺達も単に目の前に出現した男性がUMP短機関銃を俺達に向けて発砲しようとしている姿を眺めていたわけではなく、運転席と助手席に座っていたジョンと俺は、自分が持っている拳銃のスライドを上部からウィークハンドで鷲掴みにして後方へ引きマガジン最上部にある弾薬をチャンバーへ送り込んで発砲できる状態にし、パワーウィンドウのスイッチを押してサイドの窓ガラスを下げ始める。だが、最も早く目の前に現れた男性に対して拳銃を発砲したのは、後部シートに座っていたマイクであった。

後部右側の窓ガラスを下げたマイクは、何時の間に取り付けていたのか消音器を装着したHK45CT拳銃を握った右腕を車外へ突き出して、UMP短機関銃を腰だめにして構えている男性に向かってHK45CT拳銃を3連射する。

右腕1本のシングル・ハンドではあったが、時間があれば実弾射撃訓練で扱いに慣れているHK45CTからは、消音器を装着してはいるものの淀みなくリズミカルな小さい発砲音を響かせて、エジェクションポートから3つの空薬莢を続け様に排出させている。

マイクが放った3発の45ACP弾は、何れもUMP短機関銃を俺達に向けて構えていた男性の胸部中央付近へ命中した。

3発の45ACP弾が被弾した男性は、両手で構えていたUMP短機関銃こそ放り投げはしなかったが、両腕を広げて大の字になった態勢で背中から路面に倒れ込み、両側に広がったコンバットジャケットの下に着ていた白っぽいTシャツの胸部中央は被弾によって噴き出している血液に染まって真っ赤になっている。

その状況を見た後部シートにいるマイクは大声で

「ゴー、ゴー、ゴー」

と運転席のジョンにフォルクス・ワーゲンを発進させるように声を掛ける。

マイクから声を掛けられたジョンは、右手に握ってきたスミス・アンド・ウエッソンのボディーガード2.0拳銃に安全装置を掛け、そのボディーガード2.0拳銃をセンターコンソールの物入れに置くと、アクセルを踏み込んでフォルクス・ワーゲンをダッシュさせた。

その間、俺とマイクは窓ガラスを下げたままの状態で走行する車内から周囲へ目を配り、更なる襲撃の気配がないかと注意を向ける。

下り坂から平坦な道路に合流するまでの間は、周囲から追撃を受けるような事はなかった。ただし、平坦な道路を走行中も俺とマイクはサイドの窓ガラスを下げたままにして、運転席サイドの窓ガラスにしても下がったままの状態をジョンに上げろとは指示しなかった。

仮に、車に乗車している状態で周囲から襲撃を受けた場合、車内に居る人間が反撃のために拳銃を構えようとしても空間が狭くて腕を伸ばすようなことができない。そんな窮屈な状態でセミオートマチック拳銃を発砲したならば、適格に拳銃を保持できないので発砲直後に起こる空薬莢の排出と次弾装填の作動に影響を与え、結果として作動不良となって次弾の発砲ができなくなる。

それならば、窓ガラスを下げた状態にしておくことで、例えシングル・ハンドの状態であったとしても的確に拳銃を保持できているので、作動不良を発生させる可能性が低くなる。唯でさえ走行中の車両から発砲するので、車外からの襲撃者に対して命中させる確率が決して高いとは言えない状況ならば、少しでも多く発砲して襲撃者を撃退した方が生き残る確率を高く維持できる。

更に、車内空間が狭い状況で拳銃を発砲して運良く排莢が行えたにしても、発砲直後で高温となっている空薬莢が運転手の顔や背中に飛び込もうものなら、熱さのためにステアリング操作等が不確かになって事故を誘発させかねない。

窓を開け放ったフォルクス・ワーゲンの車内には強風のような風が吹き付けてくるなか、後部シートのマイクは常に顔を後方へ向けて追っ手が来ていないかを確認し、俺は俺で前方の左右へ視線を走らせて襲撃者が待ち伏せをしていないか注意する。

暫く平坦な主要道路を出来るだけスピードを出して快走したフォルクス・ワーゲンは、脇道に逸れるとジョンは更にウインカーを左に点灯させて車1台がやっと通れる路地へフォルクス・ワーゲンを進める。

狭い路地を10メートルも直進させると右手に空き地が見えてきた。ジョンは、ステアリングを右へ切って空き地に入ると、そこは駐車スペースとなっているようで数台の車が停車していた。

空いているスペースにフォルクス・ワーゲンを駐車させる頃になって、俺とマイクは降ろしていた窓ガラスを上げる。それを見たジョンもエンジンをストップさせる前にパワーウィンドウのスイッチを押して運転席側の窓ガラスを上げた。

全ての窓ガラスが上がるとジョンは俺達の方へ顔を向けて

「この辺は一戸建ての住宅のように見えますが、全て賃貸アパートになっていて、ここはアパートを借りている人達専用の駐車場なんです。これから、2人が寝泊まりするために借りた部屋に案内します」

と説明してくる。

元来、ミッション遂行中に高級ホテルのスイートルームや高級マンションの1室をアジトとして用意されているとは思っていない。流石に、いつ崩壊してもおかしくないようなボロアパートでは困るが、そうでなければ壊れそうもないベッドがあってキッチン、トイレ、シャワールームが共同利用でなければ問題ない。そもそも、借りてくれたアパートの部屋で一体どれだけ安心して眠ることができるのかさえ定かではないのだ。

運転席を降りたジョンが一度、上半身を車内に突っ込んでセンターコンソールに置いたボディガード2.0拳銃を右手で取ると、右腰のホルスターにボディガード2.0拳銃を収納してからハッチバックドアを開けてくれる。俺とマイクは、開けらえてアクセス可能となったトランクルームから互いのバックパックを取り出して背負う。

俺達がバックパックを背負うのを見たジョンが背を向けて先頭になって歩き出すが、細い路地の手前まで来たところでマイクがジョンの左肩を掴むとジョンの歩みを止める。

マイクの方へ顔を向けたジョンが不審そうな顔つきでいると、マイクは左手の人差し指を口元に当てて静かにしていろとジェスチャーして見せる。次いで、マイクはジョンの隣に移動すると、顔の右半分だけを狭い路地へ突き出すようにして今来た方向へ鋭い視線を送り尾行者の有無を確認する。

暫くの間、路地の先に視線を送っていたマイクが、「フッ」という溜息を漏らして頭を前方へ傾けた後、ジョンの方へ振り返りお道化たような表情を見せると

「でッ?ジョン、俺達のゴージャスな寝床は何処だい?」

とジョンに問い掛ける。

ジョンは、幾分か微笑むと

「それじゃ、早速ご案内します」

と言って先頭になって歩き出す。

周囲は全て似たような造りの2階建てが建ち並んでいるが、駐車スペースから3つ目の建物の前まで来たジョンが、建物の真ん中にあるドアを開ける。俺とマイクもジョンの後を追って建物に入ると2メートル先に屋内階段があり、ジョンは階段を上がっていく。俺達2人も続いて階段を登ると、階段を登り切った右側のドアへジョンが近付き、ズボンの右ポケットから鍵を取り出してドアの鍵穴に差し込みロックを開錠する。

「こちらです」

とジョンが言ってドアを開けてくるので、俺とマイクは部屋のなかに入る。

決して新しいとは御世辞にも言えないが、小綺麗な部屋で嫌な感じがしない。加えて、キッチンや洗面所にトイレが一緒のシャワールームが狭いながらもあるのは助かる。特に、今回のミッションでは銃撃戦が避けられそうもないので、仮に被弾して怪我をした際に血塗れで応急処置を施す際に周囲に気を配る必要がないのはありがたい。また、2つのベッドがキングサイズになっているのでマイクが寝ていても足先がベッドからはみ出す心配がなさそうだ。

一通り室内を見回してから、キッチンルーム兼ダイニングルームの中央に置かれている丸テーブルにある3脚の椅子に全員が腰掛けるとマイクが

「ジョン、アンタの雇い主にフォルクス・ワーゲンとは別の移動用車両の手配と、アンタとジョージに消音器の装着ができるセミオートマチック拳銃の手配を早急に頼んでくれないか?」

ジョンに聞いてくる。

「車と拳銃ですか?どれ位の時間で用意できるか聞いてみますが、拳銃なら私もジョージも持ってますけど」

ジョンが不思議そうに言うと

「おいおい、アンタもジョージが持っている拳銃に消音器が装着できないだろう?先程の偵察でジョージが見たという84ミリメートル無反動砲が間違いないなら、もし銃撃戦となってアンタとジョージが発砲すれば発砲音で2人の位置は直ぐに特定できる。そこへ84ミリメートル無反動砲を撃ち込まれてみろ、間違いなく3人ともイチコロだ」

そうマイクは言って両肩を竦める。

「分かりました。特に、84ミリメートル無反動砲の情報は私の方でもキャッチしていなかったので、極力早急にマイクのリクエストを準備してもらうよう伝えます」

ジョンはマイクの説明に納得した表情を見せて答える。

「それじゃ、私は自分の部屋に戻ります。因みに、私の部屋は真向かいになりますので、窓を開けて声を掛けてもらえばわかりますので」

ジョンは、そう言うと椅子から立ち上がる。

それを聞いたマイクが

「なんだ?3人一緒じゃねぇのか?」

と不服そうに言うと、ジョンは少し悪戯っ子のような表情となって

「そりゃ、2人が如何に陸軍の特殊部隊に所属していたとしても機密情報を安易に見せるわけにはいきませんよ」

と言って部屋を出て行く。

ジョンが部屋を出て行くとマイクは真顔になって

「ジョージが見た84ミリメートル無反動砲だが、何発くらい砲弾が用意されているか見えたのか?」

と俺に聞いてくる。

「いや、一瞬だったので砲弾までは見えなかったが、大きな筒状の形態は間違いなくカールグフタス84ミリ無反動砲だと断言できるよ」

俺はマイクの目を見ながら答えると

「想像していたよりも厄介な相手になりそうだなぁ」

溜息交じりにマイクが呟く。

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