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デルタのスナイパー  作者: 二条路恭平


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至極安全な速度で走行しているフォルクス・ワーゲンSUVは、徐々に登り坂を駆け上がっていく。

俺は、この登り坂を登りきった所にマンスールの邸宅があるものと勝手に思っていたが、運転手でコーディネーターのジョンは登り坂の途中でフォルクス・ワーゲンを路肩に寄せて車を駐車させると

「此処からマンスールの邸宅の全貌が見ることができます。本当は別の道を通ればマンスールの邸宅前に近付くことができるのですが、邸宅にはボディーガード数人が邸宅を含めた敷地を常時警戒しているので、あまり近付き過ぎると武器を携行した数人のボディーガードが正面ゲートに集結して警戒態勢を取りますから、敷地近くに車を駐車させて邸宅を監視するのは困難です。ですから、この辺りから双眼鏡を使ってマンスールの邸宅を監視していただくのが良いと思います」

そう説明して、後部シートに居るマイクの方へ振り向くと

「すみませんが、トランクルームに小さめの黒いプラスチック製のボックスがあるのですが、それを取って頂けますか?」

とマイクにトランクルームから荷物を取ってもらうように依頼してくる。

「オーケー」

と頷きながらマイクが言うと左の後部シートの背凭れを倒して、トランクルームに右手を突っ込み手探りで黒いプラスチック製のボックスを取り出すと運転席のジョンへ手渡す。

「ありがとうございます」

とジョンがマイクに礼を言って、黒いプラスチック製のボックスを受け取って蓋を開けると中には外装がアーミーグリーンにコーティングされた2個の双眼鏡が収納されていた。その双眼鏡をジョンが取り出して1個ずつ俺とマイクに手渡してくれる。

手渡された双眼鏡を見ると、陸軍や海軍で敵等を観測する際に使用しているのと似たようなモデルとなっており倍率が10倍となっているほか、対象物までの距離が表示されるレンジファインダー機能が付加させている。また、当然のことながら防水機能があって水に浸かっても使用できるほか、双眼鏡内に窒素ガスが充填されており暴風雨や高湿度の環境下で使用してもレンズ内部が曇ったり、カビが発生して使用できなくなる心配がいらない。

俺とマイクが、渡された双眼鏡を目の前に持ってきてから、手探りでパワーウィンドウのスイッチを探して、そのスイッチを押して窓ガラスを下げる。だが、対物レンズは車外に出ないように注意して双眼鏡を覗く。特に、日中に双眼鏡やライフル銃に装着したスコープを使用する場合には、ほんの少しの角度によって日光が反射して相手に存在を把握されてしまうので、可能な限り建物内等の外光が対物レンズに当たらないように気を配る必要がある。

双眼鏡の倍率は3倍にしてマンスールの邸宅位置を把握し易い状態で覗いて見ると、倍率が3倍であっても細かな部分までは判別がつかないが充分に良く見え、接眼レンズに映し出されている画面の端に表示された距離は正面ゲートまでの直線距離が433ヤード(395.94メートル)である事を示している。

双眼鏡を使わずともマンスールの邸宅が建っている敷地は広大で、サッカーコート4面分以上は優にあると思われ、その広い敷地にサッカーコート1面分くらいの建設面積を有した白壁の鉄筋コンクリート5階建ての邸宅があって屋上まで備えられ、その屋上には大き目の日除けシェードの設備もあり、丸テーブルやリクライニングデッキチェアが10脚以上も配置されているので、屋上でバーベキュー・パーティーが開けそうだ。更に、建物の直ぐ隣には25メートルプールまで作られており、プールに溜められている水がキラキラと反射していて眩しい。

ある程度、敷地内の状況が把握できたので双眼鏡の倍率を5倍にして詳細を観察していくと、建物の1階部分は中央にホテルのような車止めが設置された正面玄関があり、その右手側にはシャッターが閉じられているが屋内駐車場なのだろう。設置されているシャッターの幅を見ても4台以上の車両が駐車されているに違いない。

2階部分は、全ての窓にカーテンが閉められているので確実ではないが、小部屋に仕切られているようなので、恐らく常駐しているボディガード達が寝泊まりしている部屋なのだろう。ただし、正面から見て左端には広めなバルコニーが設けられているが、何故か厚手の遮光カーテンのような物が引かれて内部を伺うことができない。

そのバルコニー部分が気になりつつも、3階へ双眼鏡の対物レンズを移動させると外壁部分が全てガラスに覆われており、レースのカーテンが引かれているが食堂として機能していることが分かる。そして4階と5階は、2階と同様に全ての窓にカーテンが引かれているが、2階と比較しても1部屋あたりの区切りが大きいことからマンスールの家族や来客用の部屋として使っているのだろうと想像する。

そこまで建物の様子を観察したところで、やはり気になる2階のバルコニーへ双眼鏡の対物レンズを向けた瞬間、結構強めの横風が吹いてきたので遮光カーテンが一瞬だが捲れて内部を確認することができたのが、その光景を目にした俺は戦慄を覚えてしまい

「マイク、建物2階の左端にあるバルコニーを見たか?」

少し驚いたような声でマイクに声を掛けると

「うん?遮光カーテンのような物で隠されて内部が見えないが、それが一体どうした?」

どうやら遮光カーテンが捲られた瞬間をマイクは見逃してしまったようで、半ば呑気な調子で俺に問い掛けてくる。

「一瞬だが風で遮光カーテンが捲れたので内部が見えたが、とんでもない物があったぞ」

俺の答えを聞いたマイクは

「一体、何だ?核ミサイルでも見たのか?」

相変わらず呑気な調子で言ってくるので

「一瞬で、しかも1つしか見えなかったが、カールグフタス84ミリメートル無反動砲だ」

俺が冷静な声で答えると、コーディネーターのジョンも把握していなかったようで

「えっ?」

という驚きの声と同時に、マイクも驚嘆したような声で

「何?84ミリメートル無反動砲?おいおい、嘘だろう。そんな装備をしてるなら、個人のボディガードと言うよりも私設軍隊じゃないか」

と言って黙り込む。


スウェーデンの軍需メーカーであるサーブ・ヴォホース・ダイナミク社が製造しているカールグフタス84ミリメートル無反動砲は、1940年代初頭から中期に掛けて行われた実験的研究によって、20ミリメートル口径で無反動の原理を導入した対戦車兵器として開発されたが、第二次世界大戦において登場してきた新しい世代の戦車に対して20ミリメートル口径では威力不足と判断され、37ミリメートル口径、47ミリメートル口径と試された後に19世紀の大砲で使用された84ミリメートル口径が採用されて、1946年に最初の試作が完成をみている。

砲本体は、悪条件な戦場においても長く運用できるように頑丈な設計になっており、基本構造としてライフリングが施されている砲身と円錐形のベンチュリー・ファンネルを取り付けた閉鎖機によって構成され、本体前方下部に2つのグリップと中央下部付近に肩当てが備えられ、中央上部には運搬用の取っ手も取り付けられている。

当初、M1やM2と呼ばれたモデルでは全ての構成材が鋼製であったために重量が重く機動的な運用が困難であったため、M3では砲身の内筒と閉鎖機のベンチュリーのみを鋼製として、砲身外層部はカーボンとエポキシ樹脂による積層構造にして、それ以外の外装部品はアルミニウムやプラスチック製へ置き換えることで軽量化を図り兵士単独での運用を可能としている。

なお、米軍においては当該兵器を特殊部隊での使用を念頭に導入したのだが、現在では一般部隊にも導入を進めて運用している。


マイクの言う通り、個人の自衛の為にカールグフタス84ミリ無反動砲を準備しているのではボディガードと呼ぶには完全にオーバースペックと言っても過言ではなく。仮に、使用する砲弾が成形炸薬弾であるならば有効射程が700メートルとなるので、700メートル以内での交戦となれば相当の装備を準備していなければ不利な戦闘を強いられることになるのは容易に想像できる。加えて、拳銃、サブマシンガン、アサルトライフル銃、ボルトアクションライフル銃等の銃器だと発射した弾丸が相手に命中しなければ意味がないが、84ミリメートル無反動砲の砲弾ならば地表等に着弾した瞬間に、砲弾自体が炸裂するので炸裂した範囲に相手を捉えてしまえば、1人以上の相手に対して同時にダメージを与えることができる。

まさか、最初の偵察で驚くような兵器を準備している相手であることを知らされる結果となった。

今回のミッションでは、自分達も米陸軍特殊部隊デルタ・フォースのオペレーターというプライドもあり、傭兵上がりのボディガード達に対して、多少とも見下していた部分がなかったと否定はしないが、多分に甘く見ていたところがあったように思う。だが、84ミリメートル無反動砲といった軍隊並みの装備を見せられたのでは、こちらも相当の準備を整えて臨まなければ瞬時に命を落とし兼ねないことを実感した。

その事は、後部シートに居るマイクにも伝わったようで少し前までは呑気そうな表情でいたのが、今では呑気そうな表情が消え失せて徐々に険しいものへ変わり始めていた。

そんな車内の空気を一変させるようにコーディネーターのジョンが

「今日は、そろそろ引き上げましょう。2人が双眼鏡でマンスールの邸宅を観察している間に、近くに不審人物が現れてきています」

緊張した声で伝えてくる。

俺とマイクは、ジョンの提案に異存等ないので

「ああ」

と簡単に返事をして、覗いていた双眼鏡を下げてパワーウィンドウのスイッチを押して窓ガラスを上昇させる。

運転手のジョンは、周囲を見回してからステアリングを左に大きく切ってフォルクス・ワーゲンをUターンさせる。しかし、坂道を下っている最中に襲撃を受ける可能性も捨てきれないので

「ジョンは銃を持っているのか?」

と俺はジョンに質問してみる。

「ご心配なく」

と正面を向きながらジョンが上着の裾を引き上げると右腰の脇に装着しているホルスターからコンパクトサイズの拳銃が見えた。グリップの形状からは380ACP弾薬を使用するスミス・アンド・ウェッソン社製のボディガード2.0セミオートマチック拳銃のようである。

それを見た俺は、少なくとも銃撃戦が始まった場合にジョンが足手纏いになる可能性が低いことを確信した。俺達のように実弾訓練に多くの時間が与えられる軍人とは違って、CIAの要員とは言え軍人並みの実弾訓練が与えられない立場の人間であるならば、9×19ミリメートル弾薬や45ACP弾薬等を使用するタイプのコンパクトサイズの拳銃を持っているよりは、米国でセルフディフェンス用として最低限の威力と言われている380ACP弾薬を使用している方が、銃撃戦となったような場合には確実に相手へ命中弾を送り込む可能性が高い。

9×19ミリメートル弾薬や45ACP弾薬、ましてや357マグナム弾薬や44マグナム弾薬等の強壮弾を使用したとしても所詮は、相手に命中させることができなければ脅し以外の効果は期待できないし、秘匿携行の目的でコンパクトサイズを選択しているのであれば、380ACP弾薬くらいの威力のほうが拳銃自体の作動にも余裕があるだけでなく発砲による反動も少ないので連射に有利であり、排莢不良等の不具合が発生し難い。

そうなれば、俺かマイクの何方か1人がジョンに張り付いて守ってやる必要もないので、銃撃戦の際にはジョンを守るために不意を衝かれて被弾するような事態には陥らないことになる。しかも、周囲に不審者の陰を認めた状態にあっても、銃撃戦が開始されるかもしれない緊張状態にあってジョンは嘔吐していないのも俺の安心材料となっている。

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