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俺は、ジョージアのアブラヴィリ駅前にある噴水の脇でバックパックを背負って立っていた。これからミッションに従事するに及んで、相棒と現地コーディネーターに落ち合う為の集合場所として、ジョージアのアブラヴィリ駅前の噴水が指定されているのだ。
指定されている集合時間には、未だ5分くらい前ではあるが基本的に相手を待たせるのが性に合わない俺は、指定時間前に集合場所へ赴きボンヤリと噴水を眺めながら時間を潰している。
当然の事ではあるが、私服の状態でバックパックを背負っている姿はジョージアを訪れた旅行者にしか見えないだろうが、俺自身は旅行目的でジョージアへ来ているわけではないので、こうして相棒と現地コーディネーターを待っている状況は手持無沙汰で仕方ない。
旅行者という立場でガイドブックでも持っているのならば、そのガイドブックを広げて時間潰しもできるのだろうが、生憎と手元にはミッションの指令書くらいしか持っておらず、まさかミッション指令書を此処で広げて読むわけにもいかないので、意味もなく噴水を眺めているくらいしかやることがない。
何気に腕時計を眺めると集合時刻の3分前になっている。再び、視線を噴水へ戻そうとした瞬間
「よお、ジョージ。久しぶりだな、相変わらず早い到着じゃないか」
背後から聞きなれた声の英語が聞こえてきた。振り返る必要もないが英語圏ではない国にも関わらず、大声で英語を喋ってくるのは間違いなく相棒のマイク・マクナマラだろう。
振り返って声がする方を見ると、私服姿で顔には顎鬚を蓄えサングラスを掛けて大きなバックパックを背負っている大柄な相棒のマイクであった。
「よお、久しぶり」
俺は、そうマイクに声を掛けた後で口籠ってしまった。久しぶりに相棒と再会したということもあり少々気を許していた為か、危うく「生きていたか」と続けて言ってしまいそうになった。マイクはサングラスを掛けたままで近寄ってくると
「どうした?何か言おうとしたようだが」
口元を緩めながらも訝しそうに尋ねてくる。
俺は苦笑いを浮かべながら小さな声で
「危うく、生きていたか?と言いそうになったんだ」
とマイクに答えると、マイクは大笑いしながら
「そりゃ、こっちの台詞だ」
そう言ってサングラスを外し、右手を差し出してくる。
俺は、差し出されたマイクの右手を握り締め
「元気そうで、何よりだ」
と笑顔でマイクに言うと
「ああっ」
短い一言だが戦友だからこそ、それだけで充分に通じ合える懐かしさにマイクは左手で軽く、俺の右肩をポンポンと叩いてくる。
久しぶりに再会した戦友との挨拶が終わりそうになった頃、俺達2人に向かって近寄ってくる見知らぬ白人男性を俺は左目で捉え、マイクの背後から見知らぬ白人男性が近寄ってきているのをマイクに目でサインを送る。
それを見たマイクの顔から笑顔が消え去り、背後に注意を向けて緊張しているのが伝わってくる。
白人男性は、俺達の2メートルほど手前まで近寄ると
「お待たせしました。コーディネーターのジョン・キーマンです」
と自己挨拶をして、マイクの方に右手を差し出してくる。
マイクは、俺の右手を離してコーディネーターのジョンの右手を握って握手しながら
「よぉ、俺はマイク・マクナマラだ。そして、隣にいるのがジョージ・カツラギ」
マイクは明るい声で自分の名前を名乗ると、俺の方に笑顔を向けながら相変わらず俺の名前を間違えたままで、相手に紹介もしてくれる。
マイクが握手していたジョンの右手を離すと、その右手を俺の方へ差し出して
「よろしく」
とジョンが俺を見ながら握手を求めてくるので俺もジョンの右手を握り
「ジョウジ・カツラギだ。だが、マイクのように呼びやすくジョージで構わない」
笑顔でマイクの紹介を訂正しながら言うと
「オーケー、ジョージ」
と笑顔のジョンが言いながら、俺の右手を握って握手をしてくる。
それを見ていたマイクは
「あれぇ、お前の名前はジョージじゃなかったのか?」
と恍けたことを言ってくるので
「呼び易ければ、ジョージでもジョウジでも構わん」
俺は苦笑いをしながら、戦友の本名を覚えないマイクに呆れて言うと
「それじゃ、やっぱりジョージだ」
とマイクは言ってから笑顔を見せる。
そこへコーディネーターのジョンが、微笑ましいといった笑顔を浮かべながら
「それじゃ、早速ですが近くに車を停めているので、そちらに移動しましょう」
と言って振り返り俺達に背中を見せて、近寄ってきた時の方向と同じルートを遡るように歩いていく。
恐らく、これがテレビのドラマや映画のワンシーンならば合言葉を交わして初顔合わせとなるのだろうが、下手にそれっぽい合言葉を使うよりも何かキーワードを口にすれば自然な振る舞いとなって違和感を感じない。
今回のケースならば「コーディネーター」がキーワードとなり、予めミッションの内容を知らなければ初対面の人間を前にした自己紹介で「コーディネーター」なんて言葉が出ることはなく、周囲を行き交う無関係の人間達にしても俺とマイクは大きなバックパックを背負っているので旅行者にしか見えないだろうし、そこへ近付いて来たジョンが「コーディネーター」と言えば2人の旅行者をジョージアの観光ポイントへ案内するための「コーディネーター」としか思わないだろうから、ごく自然な日常の風景にしか映らないだろう。
数百メートルも3人で歩くと、目の前の路肩にシルバーの車体に塗られているSUVを見付けた。そのシルバーのフォルクス・ワーゲンT-Crossの後方へジョンが近寄るとハッチバックのドアを開けて
「2人の荷物は、こちらのトランクルームへ積み込んでください」
と言うので、俺とマイクは背負っていたバックパックを降ろしてフォルクス・ワーゲンのトランクルームへ積み込むとジョンはハッチバックのドアを閉めて、運転席のドアへ移動する。
俺は隣にいるマイクの顔を見ると、マイクは右手で俺に助手席へ行けといったサインをしてくる。
マイクは、身長が190センチメートルくらいあり筋肉質で大柄な体形でもあるので助手席では狭くて仕方ないのだろう。
ただ、マイクが後部座席に乗り込めば車が走行中に後部座席の背凭れを前方へ倒してトランクルームに積み込んだバックパックの荷物を取り出せるメリットがあるので、俺はマイクの指示に従い助手席のドアを開けてシートに座ると上着のジャケットを脱いで上半身はTシャツ1枚の姿になってシートベルトを締める。
マイクも自らで右側の後部ドアを開けてフォルクス・ワーゲンに乗り込むが、俺と運転席のジョンは細身と言っても良さそうな体形のため、あまり座席を後方へ動かしてはいないので、後部座席には比較的広い空間が確保できている。その為にフォルクス・ワーゲンへ乗り込むマイクは苦労せずに後部シートへ乗り込むことができた。
マイクが後部シートに座って後部ドアを閉めると、運転席のジョンがエンジンのスタートボタンを押すと2000CC排気量のエンジンが静かに始動するが、車内の防音が効いているのか耳障りな音量のエンジン音が響いてこない。
ジョンが、フォルクス・ワーゲンを走らせるのに後方確認の意味でルームミラーを覗いていると
「走行中に、後部シートの背凭れを前方へ倒せばトランクルームにアクセスして荷物を取り出せるのか?」
正面に顔を向けたマイクがジョンに聞いてくる。
「ええ、トランクルームにアクセスできますが、背凭れの倒し方は分かりますか?」
ジョンが後ろに振り向きながら言うと
「大丈夫、任せろ」
マイクが、そう言うと後部シートの左右へ視線を走らせる。
ジョンは、ウインカーの左側を点滅させてステアリングを左へ切り路肩から一般車線へフォルクス・ワーゲンのSUVを合流させながら
「一番左の後部シート上面にロック解除のボタンがありますから、それを押せば左の背凭れ1つ分が前方に倒せますので、そこからトランクルームの荷物が取り出せます」
とマイクに説明する。
ジョンの説明を聞いたマイクは、車窓から車外の状況を確認して左の後部シートの背凭れを前方に倒すとトランクルームへ右手を突っ込み
「ジョージ、お前の拳銃は昔と同様にバックパックの中程に仕舞っているのか?」
と俺に聞いてくるので
「ああ」
と一言で俺が答えると、マイクは俺のバックパックの中へ右手を突っ込んでからコルト社製コンバット・ユニット・レイル1911拳銃を収納しているナイロン製のソフトケースと同じくナイロン製のソフトケースに収納している10発入りのマガジンケースを取り出してから、車外から見えないように下の方からガンケースとマガジンケースを渡してくれる。
ガンケースとマガジンケースを受け取った俺は、マガジンケースから2本の10連マガジンを取り出して脱いであったジャケットの左右ポケットへ1本ずつ仕舞い、更にマガジンケースから10連マガジン1本を取り出し、ガンケースからコンバット・ユニット・レイル1911拳銃を取り出してから10連マガジンを装填してから、ジャケットでコンバット・ユニット・レイル1911拳銃を隠すようにすると2つのソフトケースをマイクへ渡す。
ソフトケースを受け取ったマイクは、俺のバックパックの上にソフトケースを戻すとバックパックの口を閉めてから、俺のバックパックをトランクルームの奥へ移動させて、変わりに自分のバックパックを手前へ移動させてくる。
マイクは、自分のバックパックの中に右手を突っ込むと右手にはヘッケラー・アンド・コッホ社製のHK45CT拳銃が握られている。HK45CT拳銃は、最初から消音器の使用を前提に開発されているのでスライドの先端から15ミリメートルくらいバレルが突き出しており、バレル先端から12ミリメートルに渡って雄ネジが切られてたスレッテッドバレルが備わっている。また、スタンダードなタイプのマガジンには45ACP弾薬が8発しか装填できない物が付属しているが、マガジン底部のパーツであるマガジンベースが20ミリメートル厚くなっているマガジンでは10発の45ACP弾薬を装填できるようになっている。
マイクは、自分のバックパックの右サケットから10連のHK45CT用のマガジンを3本取り出すと、2本は羽織っているジャケットのポケットに突っ込んで1本をHK45CT拳銃に叩き込むと、拳銃をシートの座面より下にしてからHK45CTのスライドを後方へ引いて45ACP弾薬をチャンバーへ送り込み、それからグリップ上方にあるレバーを右手の親指で下方へ押し下げると「カチン」という音と共に、起こされていたハンマーが安全な位置まで倒れてくる。なお、グリップの上方にあるレバーを上に跳ね上げれば安全装置を掛けることができるのだが、マイクは安全装置を掛けていない。
起こされたハンマーを安全な位置へ倒すのを「デコッキング」というが、「デコッキング」された拳銃はトリガーを引かない限りはチャンバーに弾薬が装填されていても発砲される危険性は低く、仮に拳銃を地面に落としたとしてもハンマーが前進してプライマー(雷管)を発火させる程には、ファイヤリングピンを強打する事はないので安全装置を掛けていなくとも弾丸が暴発する事態にはならないと言える。ただし、ハンマーから地面に落下すればハンマー等の可動部が損傷してしまい発砲機能が損なわれるので、拳銃としての機能を持たなくなり使い物にならなくなるが・・・。
しかし、これで結果として俺とマイクの2人で60発の45ACP弾薬を保持している状態となったので、多少の銃撃戦となっても対応可能になった。




