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スコープのレティクルセンターが概ね100メートル先の銃口センターが示す箇所と一致させたので、10発の7.62×51ミリメートルNATO弾薬を装填したボックスマガジンをSR25M110SASSセミオートライフル銃に取り付けて、チャージングハンドルを引きチャンバーに7.62×51ミリメートルNATO弾薬を送り込むとトリガー上方にあるセレクターを操作して安全装置を掛ける。
これで、セレクターを「SEMI」と刻印された箇所へ動かせば発砲可能な状態となる。ただし、気になるのは射場の風が8時の方向から2時の方向へ吹いており、風速は体感的に2~3メートルといった感じである。
この状態では、レティクルセンターをターゲットのセンターへ合わせて発砲しても着弾は完全に右側に逸れてしまう。これでは、確実にゼロインが行えたのか確信が持てないが、このゼロイン自体も時間制限が設けられているので、何時までも悩んでいられない。銃器全般に言える事ではあるが、精密な射撃を実現するには机上の理論が重要なのは間違いないが、所詮は道具としての銃器を実際に発砲してみて、その結果である着弾状態を見てみなければ何とも言えない。
俺は、レティクルのセンターをターゲットのセンターから9時の方向へ真横に移動させてからセレクターを「SEMI」の位置へ移動させて立て続けに3度トリガーを引いた。
リズミカルにSR25M110SASSセミオートライフル銃のエジェクションポートから3個の空薬莢が右後方へ弾き出される。俺は、一旦セレクターを「SAFE」と刻印された箇所へ移動させて安全装置を掛けてから、小走りに100先のターゲットへ向かう。ペーパーターゲットの前に着いて、着弾状況を確認するとターゲットのセンターから右側2インチほど離れた3時の方向に、3発が0.75インチ(19.05ミリメートル)のエリアに集弾しているのが分かった。ターゲットのセンターへ着弾するように発砲したのだが、風の影響を少し弱く想定した為か、或いはビンテージダイヤルによるレティクル・センターの移動が若干違っていた結果が着弾が横方向に逸れたのだと思うが、3発が1インチ以下に集弾していることで多少なりとも安心できた。
俺は、ターゲットの着弾状況を確認すると直ぐに踵を返して射座へ引き返す。ゼロインのために与えられている時間は30分しかないので、改めて射座から3発を発砲してゼロイン状態を再確認するのと支給されたSR25M110SASSセミオートライフル銃の細かい着弾の癖を少しでも把握できるようにする。
例え同一モデルの銃器であっても全てが同じ癖を有しているわけではなく、組み立てられた時の状況から大量生産の道具である以上は僅かながらであっても個別に微妙な違いの癖があり、例えばトリガーの引き代にしても切れるまでの距離は些細な違いがあり、長距離における精密射撃を行えば結果として着弾結果に違いが生じる。それを理解した上で銃器を扱わなければ、毎回同じように構えて発砲している筈なのに、同じモデルの銃器であっても別の個体を使用するとまったくと言って良いほど当たらないというのは決して珍しい事ではない。
SR25M110SASSセミオートライフル銃を再び構えてスコープを覗き、先程よりもレティクルセンターを9時方向へ1インチ分移動させた状態でトリガーを引き始めるが、身体に感じる風は最初に発砲した時と大きく変化していないようなので3発の7.62×51NATO弾薬をセミオートで発砲してみる。
エジェクションポートからリズミカルに空薬莢が弾き出され、SR25M110SASSセミオートライフル銃から排出された空薬莢が地面に落下した時に発する軽い金属音を耳にすると同時にセレクターレバーを「SAFE」と刻印されている箇所へ移動させて安全装置をオンにしてから駆け足でターゲットへ向かう。
ターゲットのセンター付近には、1インチの範囲に7.62×51ミリメートルNATO弾が貫通して開けた弾痕が見える。たった6発の発砲でしかないが、一応はゼロインが納得できる状態となったと確信すると同時に支給されたSR25M110SASSセミオートライフル銃の癖も概ね把握できたように思える。
ターゲットの着弾状況を確認して、100ヤードの距離を駆け足で射座に戻ってくると腕時計を眺めていた黒人教官が
「タイムリミット3分前となった。そろそろライフル銃をケースに仕舞え、テスト・ステージには基地のジープで移動する」
と言ってきた。できれば残弾となっている4発をターゲットに向かって発砲して更に自信を深めておきたいところだが、少なくとも最低限の準備はできたのでボックスマガジンをSR25M110SASSセミオートライフル銃から外して、外したマガジンをテーブルに置くとチャージング・ハンドルを後方へ引いてチャンバーに装填されている7.62×51ミリメートルNATO弾薬をエジェクションポートから排出し、弾き出された7.62×51ミリメートルNATO弾を拾ってボックスマガジンに補弾してから専用ケースへ仕舞う。
伸ばしていたバイポッドの脚を引っ込めてから前方へ折り畳んで、スコープの対物レンズと接眼レンズに保護キャップを装着してからSR25M110SASSセミオートライフル銃をアッパー部分とロア部分に分離させて専用ケースへ仕舞うが、特にスコープが装着されているアッパー部分を収納する時には細心の注意を払って専用ケースへ収納する。
スコープのビンテージ・ダイヤルやエレベーション・ダイヤルは少々の力が加わっても簡単に動くことはないが、アッパー部分を乱暴に扱ってスコープ本体に余計な力が加わればアッパー部分との取付け箇所に微妙な歪みが生じないとも限らず、そうなれば折角ゼロインができた状態なのに、次にSR25M110SASSセミオートライフル銃を発砲した際には、着弾が安定せず狙った狙点に着弾しない状態となる。
SR25M110SASSセミオートライフル銃の全てのパーツ類を専用ケースへ収納して、俺が専用ケースの蓋を閉じた時、背後にあるスピーカーからタイムアップを知らせるブザー音が聞こえてくる。
両手に専用ケースへ収納したSR25M110SASSセミオートライフル銃や7.62×51ミリメートルNATO弾薬40発が入っている弾薬箱、それに双眼鏡を持って射座を離れて黒人教官の前に立つと
「直ぐそこに移動用ジープを停めているので、それに乗って最初のステージに移動する」
と言って射撃レンジの出口へ歩いていくので、その後を両手に荷物を提げながら付いていく。
射撃レンジの出口を出ると、目の前には荷台に幌を掛けていないジープが1台停車しており、黒人教官が運転席に乗り込むと自分の荷物を助手席に置いて、俺に向かって右手の人差し指でジープの荷台を指しながら
「貴様は、持っている荷物と一緒に荷台へ乗り込め」
と無表情な顔付きで言ってくる。その横柄な態度に腹が立たないわけではないが、相手はテストの教官で階級的にも上位の人間であり「荷台に荷物を置いたら、走ってジープの後を追ってこい」と言われるよりはマシなので、両手に持った荷物をジープの荷台へ置いてからジープの後方から乗り込んで両脚を投げ出すような恰好でジープの荷台に座る。ここは、米軍基地内なので一般道の交通法規は適用されないか、らシートベルトをせずに走行する車両へ乗り込んでいても問題にはならない。しかも、目の前の黒人教官の態度から想像すると運転も荒い可能性があるので可能な限り安定した姿勢でいなければ、ステージへ移動途中に荷台から振り落とされてしまうかもしれない。
俺が、ジープの荷台へ乗り込んだのを見届けた黒人教官はジープをスタートさせるが、案の定ジープの運転は荒かった。仮に、ジープの荷台でしゃがみ込んだ姿勢で乗っていれば確実に振り落とされるのは間違いない。
そんな揺れが激しいジープの荷台に座りながら、俺は履いているカーゴパンツの太腿あたりにある左サイドポケットから携帯電話を取り出して、使用する弾薬と射撃距離、更にゼロインをした際の射撃距離を入力すればスコープのエレベーション移動量を瞬時に計算してくれるアプリケーションソフトを起動させておく。
黒人教官の荒い運転で、ジープの荷台から振り落とされることなく30分近く揺られていると、目の前には山岳部をイメージして整備されている実弾演習エリアが見えてきた。
その実弾演習エリアに入って直ぐの場所でジープを停車させた黒人教官が
「最初のステージだ。降りろ」
と荷台にいる俺の方へ顔を向けて言うと、自らもジープの運転席を降りて歩き出し、2メートルくらい先にあり高さが俺の腰くらいはある大きな岩の前に立ち
「ここから距離520ヤード(約475メートル)、650ヤード(約594メートル)、830ヤード(約759メートル)の地点に設置しているスチールターゲットに120秒以内で3発ずつヒットさせてもらう」
左手でスチールターゲットを設置した場所を指し示しながら説明してくる。黒人教官が指し示している場所へ視線を向けるが、肉眼では何処にスチールターゲットが設置されているのか見付けられない。
俺は、黒人教官の隣から離れてジープの荷台へ行くと双眼鏡を手にしてから、再び黒人教官の隣へ戻り、手にした双眼鏡を目の前に持ってきて覗いて見ると、背の低い木々が生い茂っている所でオリーブグリーンに塗装されたスチールターゲットを発見することができた。
概ね500メートルから800メートルくらい離れた距離に木々が生い茂っているエリアへオリーブグリーンに塗装されて設置されているのでは、ターゲットが周囲の木々に同化して肉眼で判別するのは不可能と言える。しかし、実践では周囲と判別がつかないようなギリースーツを着用した敵スナイパーを見付けて狙撃しなければならない場面もあるので決して無茶な設定とは言えない。
スチールターゲットの確認を終えた俺は、早速ジープの荷台からSR25M110SASSセミオートライフル銃が収納されている専用ケースとシューティングレストと弾薬箱を持って岩の前へ向かう。
SR25M110SASSセミオートライフル銃の専用ケースを開けてアッパー部分とロア部分を取り出して組み付け、ハンドガード下面に装着されているバイポッドの両脚を越してから黒人教官や俺に銃口が向かないようにしてSR25M110SASSセミオートライフル銃を地面に置こうとするが、大きな岩の下には無数に大小の石が転がっており平坦な場所がない。この状況は、ライフル銃を構えた場合に足元が安定しない事を意味しているので、長距離の射程で精密射撃を行うのには不利な条件となる。
どうにかSR25M110SASSセミオートライフル銃が安定した場所へ置くと、4発の7.62×51ミリメートルNATO弾薬が残されているボックスマガジンを取り出して、40発の弾薬が残っている弾薬箱から16発をボックスマガジンへ装填していく。
ボックスマガジンへ20発の7.62×51ミリメートルNATO弾が装填できたところで、一旦ボックスマガジンを専用ケースに置いて、双眼鏡を手にすると改めて3箇所のスチールターゲットを確認するが、双眼鏡の接眼レンズに映る画像には左端の方に目標までの距離が表示されているので、その距離を覚えたらカーゴパンツの左サイドポケットに突っ込んでいた携帯電話を取り出してエレベーション修正量を計算してくれるアプリケーションソフトに覚えた3つの距離を入力して、弾き出された3つの修正量を頭に叩き込む。
一度射撃がスタートすれば、俺に与えられる時間は12秒しかない。ボルトアクションライフル銃と違って発砲の都度に排莢と装填を手動で行うのとは違い、セミオートライフル銃ならば発砲後に直ぐオートマチックで排莢と装填を行ってくれるので楽勝のように思えるが、距離の違う3箇所に3発ずつヒットさせるのだから最低でも9発を発砲することになり、1発に1秒の時間を要するとすれば9秒の時間があれば足りる筈だが、それは1発もターゲットを外さず順調に射撃ができた場合の事であり、もし1箇所あたり1発を外してしまえば3箇所目に最後の1発をヒットさせた時点でタイムアップとなってしまう。
そうなれば、2つ目以降からスチールターゲットの距離を携帯電話のアプリケーションに入力している時間的な余裕等はまったくないのは明らかだ。
しかも、アプリケーションソフトが弾き出す答えは、必ずしも整数解とはならずに例外なく小数点が付いた答えとなり、その小数点部分を切り上げるのか切り捨てるかを判断してエレベーション・ダイヤルを移動させなければならない。更に、スチールターゲットが設置されている場所と俺が発砲する岩場の位置関係は、俺の方が上に位置するので撃ち下ろしとなるので、弾道が低伸する筈だから狙ったレティクルセンターの場所よりも上方に着弾する。加えて、風の状況はゼロインを行った100ヤードレンジの射場とは全くと言って良いほどに違っているので、12秒以内に9発を命中させるのでは指南の技と言っても過言ではない。




