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少し離れた場所に立って俺の様子を見ていた黒人教官が
「いつまでもモタモタしてると日が暮れてしまうぞ。早速、最初のステージを始めるから準備しろ」
そう声を掛けてくると、首の辺りにしていたイヤーマフラーを両耳に装着する。俺も、首に掛けていたイヤーマフラーを両耳に装着して
「準備オーケー」
と黒人教官へ返事をする。
このテストでは、使用するライフル銃を標的方向へ事前に向けた状態に出来ないばかりか、マガジンをライフル銃に装着しておくのも禁止とされており、スタートの合図と同時に使用するライフル銃にマガジンを装填してから標的方向へ銃口を向け、発砲を指定されている場所から射手が最も良いと思えるスタイルで射撃を行うので、スタンディング、ニーリング、プローンといった射撃姿勢が指定される事はなく、ライフル銃を両手で構えようが何かにライフル銃の一部を委託させて発砲する委託射撃も自由にして良いことになっている。
これは、与えられた条件下で如何にして銃器を安定した状態を確保して、ターゲットを確実にヒットさせらるのかスナイパーのスキルが試させられる内容でもあり、実践の場であるならば整備された平坦な場所でライフル銃を安定させて発砲できるというのは皆無と言えるので実践に沿ったテスト内容となっている。
そのようなテストであっても唯一の欠点は、合格ラインが命中率80パーセントという部分で、実践においては「ワンショット・ワンキル」という形式的な目標テーマは別にしても、限りなく100パーセントに近い命中率でなければ己の命や戦友の命が危険に晒されることになるので、発砲する以上はターゲットが戦闘不能となるようにヒットさせなければならないのは最低限の使命である。
最も、ターゲットが戦闘不能になるのは一発必中で死亡させしまう射殺だけではなく、被弾したことによってターゲットが戦闘行為を継続するのが不可能と言える程度に瀕死の状態へするというもの含まれるのだが・・・。
黒人教官が右手首に巻いている日本製カシオのデジタル腕時計を操作してタイマーモードに切り替え、12秒をセットすると左手の指がスタートボタンに添えられ
「レディ?ゴー」
と掛け声を発すると共に左手の指がデジタル腕時計のスタートボタンを押し込む。
俺は黒人教官からのスタート合図を待っている間、黒人教官へ視線を向けることなく地面に置いたSR25M110SASSセミオートライフル銃を凝視して、黒人教官からのスタート合図が聞こえてからは、SR25M110SASSセミオートライフル銃を左手で、20発の7.62×51ミリメートル弾薬が装填されたボックスマガジンを右手で掴み取ると、勢い良くボックスマガジンをSR25M110SASSセミオートライフル銃のマガジン挿入口へ叩き込み、その後に右手の人差し指と中指をチャージングハンドに掛けて手前へ一杯まで引いてから右手の人差し指と中指をチャージングハンドから離すと、連動して後退していたボルトが前進してボックスマガジンの最上部にある7.62×51ミリメートルNATO弾薬をマガジンから押し出してチャンバーへ送り込むが、その様子を目視することもなく弾薬がチャンバーへ装填された状況は耳に聞こえてくる音で判断し、右手はSR25M110SASSセミオートライフル銃のハンドガード下面先端に装着されているバイポッドの脚を前方へ倒すと、地面に置いていたシューティングレスト用のサンドバックを引っ掴んで目の前の大岩の上面へ載せる。
大岩の上面も平坦な箇所は1ヶ所もなくサンドバックが安定しているとは言い難いが、構わずにSR25M110SASSセミオートライフル銃のハンドガードをサンドバックに載せるが、ハンドガード下面の先端に装着されているバイポッドが邪魔にならないようバイポッド部分の後ろにサンドバックが位置するよう注意して載せたのは言うまでもない。
大岩の上面にサンドバックを置いてSR25M110SASSセミオートライフル銃を委託しているので、射撃ポジションとしては変則的なスタンディングとなっているが、デコボコと大小の石が転がっている足元が安定しないのが気になるが、SR25M110SASSセミオートライフル銃のストック上部にあるチークピースと呼ばれる部分に自分の左頬骨辺りを添えるようしてから左目でスコープを覗き、最初の520ヤードと黒人教官が説明していたが、双眼鏡で確認した距離が523ヤードの位置にあるスチールターゲットを探す。
左目でターゲットを探している間も時間を無駄にはできないので、利き目と反対側の右目と右手を使ってスコープのエレベーション・ダイヤルを523ヤードの距離に対応するだけ移動させておき、同時にSR25M110SASSセミオートライフル銃のグリップを握っている左手の親指でセレクターレバーを「SAFE」から「SEMI」へ切り替えておく。
エレベーション・ダイヤルを弄る際に、スコープを覗いていない右目を使わなくても右手だけで手探りによってエレベーション・ダイヤルを操作できそうに思われるが、下手に手探りだけとなれば場合によっては、時間の無駄になる可能性があるので目視によって対象物を捉えた方が結果的に時間の無駄にはならない。また、俺がスナイパー過程の厳しい訓練を受けていた時の担当教官から両目照準は厳しく指導されていた。どうしてもスコープを覗いていない方の目は瞑ってしまいがちになるが、仮にスコープによる照準で利き目以外の目を瞑ると射手の視界はスコープに映し出される範囲に限定されてしまい、戦場ではスコープから見える範囲に集中しているとスコープの視界の外から敵の増援から襲撃を受けた場合には、その存在に気付いていないので慌てることになる。慌てるだけで済むならば幸運だが、最悪の場合は命を落とす結果となってしまうので、戦場で生き残るためのスキルとしても両目照準はマストと言える。
接眼レンズから見える木々の揺れ方や俺が体感で感じる風の状態は、9時の方向から3時の方向へ風速4~5メートル程度の横風で流れているようなので、発砲された弾丸は狙った所よりも右方向へ15センチメートルは移動すると思われる。
そこで円形のスチールターゲットの下側の左縁から気持ち外れた辺りに、レティクルセンターを合わせてトリガーを引く。
1発目の発砲が響き渡るのと同時に、エジェクションポートから薄い白色の硝煙に包まれた空薬莢が吐き出される。同時に、俺の左腕の付け根にボクサーからストレートパンチを受けたような反動が襲ってくるが、幸いにも反動は真っ直ぐ後ろへ向かって来たので、銃口やスコープのレティクルセンターが上方へ移動する量は僅かであった。
レティクルセンターを最初に狙った辺りへ戻そうとした時、スチールターゲットの方から「ガィーン」という7.62ミリメートル弾がスチールターゲットにヒットした音が聞こえてきたが、これまでの経験からヒットした7.62ミリメートル弾はスチールターゲットの面部分ではなく、縁の辺りにヒットしたような感じの音ではあったが、結果としてスチールターゲットをヒットした事に違いはないので、スコープのレティクルセンターを初弾の時と同じ所へ合わせてトリガーを2度続け様に引いた。
SR25M110SASSセミオートライフル銃のエジェクションポートからは2個の空薬莢がリズミカルに排出されているが、俺は着弾した音を確認せずに銃口を650ヤードと言われていた2つ目のスチールターゲットへ向け始める。
1つ目のスチールターゲットに向けて発砲している間、少しでも身体と銃を安定させるためにスコープのエレベーション・ダイヤルを操作し終えた右手は、大岩の側面部分に添えて支えていたが、その右手を大岩の側面から離して、再びスコープのエレベーション・ダイヤルを双眼鏡で確認して携帯電話のアプリケーション・ソフトに計算させた654ヤードに対応する分だけ移動させるが、最初に523ヤード分は移動させた状態にしてあるので、実際にエレベーション・ダイヤルを動かすのは523ヤードとの差になる分だけとなる。
右手でエレベーション・ダイヤルを弄っている最中に、1発目がスチールターゲットに命中した時と同じようなヒット音が2度重なって聞こえてくる。これで、1つ目のターゲットには3発全弾命中とする事ができた。
2つ目のターゲットも、基本的には風の状況に大きな変化が感じられないので1つ目と似たような所へレティクルセンターを合わせてトリガーを絞ると、発砲音が鳴り響いた直後にエジェクションポートから空薬莢が弾き出され、同時に反動が左腕の付け根に襲ってくる。
反動によって僅かに動いてしまったスコープ内のレティクルセンターの位置を戻していると、1つ目のスチールターゲットよりも距離が離れているので多少とも音が小さくなったが「ガンッ」という力強いヒット音が聞こえてきた。恐らく、1つ目の時とは違って今度は7.62弾がスチールターゲットの面部分へ確実に命中したのだろう。
俺は、先程と同じ箇所へレティクルセンターを合わせて1つ目のターゲットと同様に2度続けてトリガーを絞り、エジェクションポートから2つの空薬莢が弾き出される最中に銃口を3つ目のスチールターゲットへ向ける。
再び右手をスコープのエレベーション・ダイヤルに掛けた瞬間に、「ガンッ」というヒット音が重なるように2回聞こえてきたので、これで6発発砲して全弾がターゲットにヒットした事になる。
気を良くして3つ目のスチールターゲットをヒットさせるべくレティクルセンターの位置を決めた時に、それまで吹いていた風が変化してきた。右目でスコープよりも広い視界を意識していると、3つ目のスチールターゲットよりも50メートルくらい離れた上空は黒っぽい雲に覆われて周囲が薄暗くなっている。しかも、体感で感じる風は1時の方向から7時の方向へ吹いており、先程までの横風とは明らかに変化しているだけでなく頬に感じる風は、横風の時とは違って明らかに冷たく感じるし、3つ目のスチールターゲットが設置されている箇所から離れたエリアの木々の揺れ方も違っている。
風向きは、向かい風と判断できるので発砲された弾丸が横方向へ逸れる可能性は低いと思われるが、気になるのは身体で感じる風が冷たいという事である。冷えた空気である事は間違いないので、上空の冷たい空気が吹き下ろしているのに違いなく、弱いながらもダウンバーストが発生しているのかもしれない。もしそうであるなら、発砲した弾丸が下降気流の影響を受けるので、飛翔速度が落ち始めて地面へ向けて下降する弾丸のドロップ量が増えることとなり、射撃的には射程距離が伸びたのと同じような状況になる。
もし隣にスポッターが居るのであれば、詳細にデータを確認して必要なエレベーションの修正量を指示して貰えるが、現状は俺1人であるばかりか時間制限の残りさえ僅かしかない。
これまでダウンバースが発生している状況での発砲経験がない俺には、イメージする材料が無さ過ぎるが、修正したばかりのエレベーション量をホールドして狙点を上方へ向けて発砲するより選択できる方法がない。
レティクルセンターをスチールターゲットの上端ギリギリに合わせてトリガーを一回だけ引いてみる。発砲音と共にエジェクションポートから空薬莢が弾き出されて、俺の左脇に反動の衝撃が伝わってくる。急いでスコープを覗き直してスチールターゲットへ向けるが、半ば想定していた通りにヒット音が聞こえてこない。ただ、覗いていたスコープの下側端で3つ目のスチールターゲットが設置されている下側に岩があったのだが7.62ミリメートル弾が岩に命中して飛び散ったと思われる破片等が一瞬だが左目で捉えた。
7.62ミリメートル弾が岩に命中したのを確実に目視したわけではないが、たぶんイメージよりも下降気流の影響を受けて弾道のドロップ量が多くて、3つ目のスチールターゲットの直ぐ下にある岩へ命中したに違いない。
俺は、直ぐにレティクルに刻まれている目盛りを頼りにレティクルセンターを上方へ移動させるが、接眼レンズに映し出されるスチールターゲットが全体の4分の1くらいしか見えなくなるが、時間も迫っているので見切り発射となってしまうがトリガーを2度引いて速射した。
2発を速射した関係で、聞こえる発砲音は1発分にしか響かなかった瞬間に
「タイムアップだ。射撃を中止しろ」
黒人教官が大声で俺に言ってくる。
黒人教官のタイムアップを告げた後に、3つ目のスチールターゲットの方から小さいながらも確実に「ガンッ」というヒット音が2回連続して聞こえてくる。
そのヒット音を耳にした黒人教官はニヤリと笑うと
「運の良い奴だ。発砲自体は、時間内なので3つ目のターゲットに2発命中したのを認めてやる」
と俺に言うと手にしたバインダーに付属している小さな電卓のボタンを操作して計算すると
「ファースト・ステージのテスト結果は命中率89パーセントで合格だ」
そう言ってバインダーに挟んでいた記録表の合格欄に、殴り書きのような感じでサインを記入する。
サインを書き終えた黒人教官は
「ササっと荷物を片付けろ、ジープに戻ったら次のステージへ移動する」
と言うと1人でジープに戻っていった。
俺は、SR25M110SASSセミオートライフル銃からボックスマガジンを取り出してから、チャージングハンドを引いてチャンバーに装填されている7.62×51ミリメートルNATO弾薬を取り出し、取り出した7.62×51ミリメートルNATO弾薬をボックスマガジンへ再装填して専用ケースへ仕舞い。次いで、スコープに保護キャップを装着してからSR25M110SASSセミオートライフル銃をアッパー部分とロア部分に分離してから、それぞれのパーツを専用ケースへ戻す。
肉体的な疲労はまったく感じていいないのだが、12秒間という短い時間ながら集中力と瞬時の判断力を瞬時に要するので精神的な疲労感は甚だしい。しかし、これがデルタフォースのスナイパーとして存在するために課せられる適性試験の一部なのだ。




