39
乱暴な黒人教官の運転するジープで第2ステージへ移動するが、到着したのは市街地を想定した簡易的な建物が建てられている実弾演習場であった。ただし、SR25M110SASSセミオートライフル銃を発砲するのは実弾演習場内の建物からではなく、実弾演習場外の小高い丘からで前下がりのスロープとなっている地面から約300ヤード(274.32メートル)と約720ヤード(658.37メートル)先の窓ガラスがない建物内に設置されたスチールターゲットを120秒の時間制限内にヒットさせる内容なのだが、最初の300ヤードをヒットしない限りは720ヤードへの発砲が許されていない。
一見簡単そうに思えるが、建物内に設置されているスチールターゲットは一部しか露出していないので、窓ガラスのない窓から見えるスチールターゲットの大きさによっては難易度が高くなってくる。更に、スチールターゲットが設置される屋内は実弾演習用の場所なので室内照明等という気の利いた装置があるわけもなく暗い場所になるから、スコープの倍率を極端に上げてしまうと光量が不足気味となって接眼レンズに映し出される画像が暗くなり不鮮明となってしまう。
ジープから降りている黒人教官からスチールターゲットが設置されている場所を教えてもらうが、双眼鏡を使って約300ヤードと言われたターゲットは双眼鏡内に示されている実際の距離が312ヤードとなっており、ターゲット自体は白色に塗装されているようだが、SR25M110SASSセミオートライフル銃を発砲する場所からはスチールターゲットの上半分しか見えない上に、窓から1メートルくらいは離れている。更に、別棟の建物で約700ヤードの距離と教えられたのも実際の距離が714ヤードとなっており、見えているのがスチールターゲット全体の右3分の1くらいしかない。
実弾演習場内に設置されている建物といっても、廃墟に佇む鉄筋コンクリート製の外側だけの造りとなっている。距離312ヤードと714ヤードの2棟だけが建っているなら良いが、実際には周囲に高さが違う構築物が数棟林立している状態なので、演習場内にはビル風が吹いているような状態で風の状態が読み難い。
俺は、ジープの荷台からSR25M110SASSセミオートライフル銃を収納している専用ケースを持ってくるとケースを開けて、SR25M110SASSセミオートライフル銃のアッパー部分とロア部分を取り出して組み立て始める。
その様子を見ていた黒人教官は
「ライフル銃の準備ができたら、早速テストをスタートさせるぞ」
と言ってくるので、SR25M110SASSセミオートライフル銃を組み立てている手を休めることなく
「ライフル銃の準備と2箇所のターゲットの距離までのエレベーション修正量を計算すれば準備完了ですので、5分時間をください」
と黒人教官に答えると、黒人教官は黙って頷くと準備作業をしている俺の様子を眺めている。
SR25M110SASSセミオートライフル銃のアッパー部分の下部前方とロア部分の前方にあるアッパー部結合用ピボットピンを通す穴を合わせてピンを差し込んでアッパー部分とロア分の前方を結合させてから、アッパー部分の後方を下げてロア部分へ差し込み、完全にアッパー部分とロア部分が結合されてからロア部分の右側面に突き出ているテイクダウンピンを押し込むことでアッパー部分とロア部分を結合し、見た目的にもライフル銃の形にする。
次いで、ハンドガード下面先端にあるバイポッドの両脚を前方から下向きに引き起こす。ジープに積み込んでいるシューティングレスト用のサンドバックを使おうかとも考えたが、黒人教官から指定されている発砲ポイントのスロープは、山土が露出しており比較的平坦そうなのと、ここ数日の晴天で固く締まってそうに見えるのでバイポッドを使用してもSR25M110SASSセミオートライフル銃の保持に支障はないと判断した。
バイポッドを使用できる状態にした後は、アッパー部分上面のレイルに取り付けてある専用スコープの対物レンズと接眼レンズを保護するために装着しているキャップを跳ね上げておく。
テストがスタートしていないのでSR25M110SASSセミオートライフル銃をスロープのターゲット方向へは置くことができないので、俺の足元近くにグリップを手前にして銃口を黒人教官と俺に向かないようにして地面に置いた。
マガジンを銃に装着しておらず、ましてチャンバーに弾薬を装填していない状態ならば暴発するような危険性はないのだが、実践で銃撃戦が行われているような場面でもなければ別だが、銃の取扱いは常に注意を払うように日頃からマッスルメモリーとしておかなければ暴発事故を防ぐことはできない。軍に限らず法執行機関や一般民間人によって発生する銃の暴発事故の殆どは弾薬が装填されていないはずという単なる思い込みで、安易に銃口を人が居る方向へ向けてしまう事で痛ましい事故になっているので、銃撃戦が始まった異常事態でもなければ目の前にある銃器には弾薬が装填されているものとして扱わなければならない。
SR25M110SASSセミオートライフル銃を地面に置いた俺は、カーゴパンツの左大腿部にあるポケットから携帯電話を取り出して2つのスチールターゲットまでの312ヤードと714ヤードの距離を入力してスコープのエレベーション修正量を計算させて、その答えを頭に叩き込むが目の前にあるSR25M110SASSセミオートライフル銃に取り付けられているスコープのエレベーション・ダイヤルは、ファーストステージでの3つ目のターゲットが設置されていた約830ヤードに対応した分だけ移動させているので、携帯電話のアプリケーションで計算した答えは100ヤードでゼロインしたスコープのエレベーション修正量なので、算出された答えの分に相当する量のエレベーションを移動させてしまえば、1,000ヤード以上の距離に対応する修正量となってしまい、今回のステージも撃ち下ろしとなる位置からの発砲となれば着弾位置は遥か上方となってしまう。
故に、俺の頭の中では830ヤードに対応させたエレベーション・ダイヤルを312ヤードの距離に合わせるための差を暗算した答えの分で下方修正するのを意識しておき、黒人教官へ視線を向け約束した5分前だが
「準備オーケー」
と一言のみ告げる。
俺の言葉を聞いた黒人教官は、手首に巻いたデジタル腕時計のタイマー・スタートボタンに指を添えて
「レディー・ゴー」
と掛け声を掛けると同時に、腕時計のタイマー・スタートボタンを押し込む。
黒人教官からのスタート合図を聞いた俺は、左手でSR25M110SASSセミオートライフル銃のグリップを握り、右手は専用ケースに入っている7.62×51ミリメートルNATO弾薬が10発残されているボックスマガジンを掴んで発砲ポイントであるスロープへ向かう。
6キログラム以上の重量があるSR25M110SASSセミオートライフル銃を片腕で持ち上げるのは結構力を要するのだが、テストと言っても集中して身体中にアドレナリンが溢れている為なのか、SR25M110SASSセミオートライフル銃の重さは大して気にならない。
発砲ポイントへ移動している最中に、右手で掴んだボックスマガジンをSR25M110SASSセミオートライフル銃のマガジン挿入口へ叩き込み、発砲ポイントで伏せ撃ちとなるプローンの姿勢になるためにスロープへ倒れ込む際、右手でスコープの接眼レンズ前方寄り近くに位置して10時の方向へ突き出した背の低い円柱上のダイヤルを回す。
このダイヤルは、レティクル・ラインを点灯させるためのバッテリーであるボタン電池を入れるのと点灯のオン・オフボタンとなっているので、レティクル・ラインを点灯させる為にオンの位置へ移動させたのだ。
このステージでは、スチールターゲットが建物の屋内に設置されて暗い状態のなかにあるので、スコープのレティクルを点灯せずに覗いてみても黒色のレティクル・ラインが周囲と同化してしまい、自分が何処へレティクル・センターを合わせているのか判断できない。そこで、レティクル・ラインを発光させることで周囲に溶け込むのを防ぎ自分の狙点箇所をハッキリとさせておく事ができる。因みに、レティクルを点灯させるとレティクル・ラインは赤色に発光する。
レティクル・ラインの点灯ボタンをオンにした右手は、そのままチャージング・ハンドに人差し指と中指を掛けて後方へ一杯に引いてから、その右手の人差し指と中指を離すとチャージング・ハンドが勢い良く前進するのと同時に、連結されているボルトも前進してボックスマガジンの最上部にある7.62×51ミリメートルNATO弾薬をチャンバーへ送り込む。
その間にも、右手はスコープの中央にあるエレベーション・ダイヤルに指を添えるとダウン方向へ廻し始める。約830ヤードの距離に対応させていたエレベーションを312ヤードに見合う分だけ下方修正させたところで、左の頬骨近くをストックの上部へ載せてから利き目である左目でスコープの接眼レンズを覗く。
プローンの射撃姿勢でスコープを覗いている俺の顔にも風が吹き付けてくるが、スチールターゲットが設置されているのは比較的高層階の建物が立ち並んでいる状態なので、ビル風が吹いているだろうから正確な風向き等の判断がつかない。
せめて建物の屋上にウィンド・フラッグでもあれば、少しは風向きや風速を判断する手掛かりになるのだが、そんな親切な物が設置されているわけもないので初弾については半ば当てずっぽうで狙うしかない。
しかし、幾ら当てずっぽうと言っても下手に狙点を移動させみたところで、何処に着弾するか分からないので必要以上に狙点を移動させて狙うのは止めた。
今、使用しているスコープはSR25M110SASSセミオートライフル銃に標準装備されているリューポルド社の3.5-10倍の可変倍率スコープなのだが、曇天となっている状況下で倍率を10倍にしても光量が不足して、接眼レンズに映し出される像は暗く見えてしまうので都合が良くない。加えて、倍率を上げてしまうと個々の物体を詳細に捉える事が可能となるが、一方で映し出される視界は狭められてしまう結果となり、レティクル・センターで狙った箇所付近に着弾するのなら良いが、狭くなった接眼レンズの視界から外れた箇所に着弾した場合には、幾ら両目照準をしていると言っても300ヤード以上も離れた場所を裸眼である右目で確実に捉えるのは不可能と言えるので、スコープの倍率は4倍のままにしておくにした。
そんな状態でスコープを覗き、レティクル・センターを上半分が見えているスチールターゲットの中央辺りで窓枠との堺へ合わせるようにして、グリップを握っている左手の親指をセレクターレバーに添わせて「SAFE」の位置から「SEMI」の位置へ移動させる。
因みに、SR25M110SASSセミオートライフル銃のセレクターは安全装置がオンとなる「SAFE」と単発発射が可能となる「SEMI」の2つしかなく、連続発射が可能となる「FULL」というのはない。従って、フルオートで発砲して着弾修正を行うような真似はできない。
セレクターレバーを移動させた後、再び左手の親指をグリップへ戻してからトリガーを慎重に絞ると「ドンッ」という大きな発砲音の直後に、ボクサーのストレートパンチのような反動が左腕の付け根付近を突き上げるように襲ってくると、エジェクションポートから7.62×51ミリメートルNATO弾薬の空薬莢が吐き出されてくる。
最初から想定していたが、「ガンッ」といったスチールターゲットをヒットした音は聞こえてこなかった。しかし、俺の耳には「ボコッ」というような7.62ミリメートル弾がコンクリートへ着弾した際に発する音が聞こるのと同時に、開いている右目にはスチールターゲットが設置されている窓の右側のコンクリート壁が着弾によって砕かれて破片が飛び散っているように感じた。
そこで、左目で覗いているスコープを着弾によってコンクリート片が飛び散ったと思われた辺りへ移動させてみると、倍率を上げていないスコープの画像ではあるがコンクリート壁に抉られたような痕跡を発見する事ができた。
スコープの接眼レンズに映し出されたコンクリート壁が抉られた箇所は、レティクル・センターで狙った箇所より、上方へ約10センチメートルで右方向へ20~25センチメートルくらい逸れている。1つ目の周辺で吹いているビル風が変化しないという確証はないのだが、この初弾の着弾跡で一定の修正量が把握できた。
ビル風の状況が気にはなるが、現状の俺が得ている情報は初弾の着弾跡だけしかなく、それ以上を悩んでみても時間制限は容赦なく迫ってくるのでスコープのレティクル・センターを最初の窓枠の縁から10センチメートル下、スチールターゲットのセンターから20センチメートル9時の方向の壁へ合わせて2発目を発砲する。
1発目と同じ反動が左腕の付け根付近に襲ってくるが、俺の耳には「ガキッ」という鈍い金属音が聞こえてきたので、スチールターゲットの面部分にクリーンヒットはしなかったが、スチールターゲットの縁付近に7.62ミリメートル弾が当たったのだろう。クリーンヒットではないにしてもターゲットに命中させた事実には違いないので、右手はスコープのエレベーション・ダイヤルに掛けて2つ目のターゲットが位置する714ヤードに対応する修正量の調節を行いながら、SR25M110SASSセミオートライフル銃の銃口を次のターゲットへ移動させる。
2つ目のターゲットは、1つ目のターゲットが設置された建物から離れているので、先程の風の情報を当てにはできない。確実に言えるのは、1つ目のターゲットが設置されていた建物から2つ目のターゲットが設置されている建物の間には、別の建物があるのでビル風が複雑に流れているだろうという事だけである。
1つ目のターゲットを狙った時と同様に、風の状態を知る手掛かりが無い以上は、闇雲に狙点を移動させみたところで偶然に頼ったラッキーパンチを狙っただけになってしまうので、今回もレティクル・センターを確認し易いスチールターゲットの高さ的にも幅的にも真ん中へ合わせてトリガーを引いてみる。
「ドンッ」という発砲音の直後に左腕の付け根に反動が来たのと同時に、エジェクションポートから薄い硝煙に包まれた空薬莢が弾き出されてくる。
当然、大して期待をしていなかったが、スチールターゲットに7.62ミリメートル弾が着弾したような音は聞こえない。1つ目のターゲットよりも更に遠い位置なので開けている右目で判断できるはずもないが、1つ目の時のように7.62ミリメートル弾が外壁に着弾したような手応えもないので、恐らくはスチールターゲットから外れて室内の奥にある壁へ命中したのだろう。ただし、困ったのは具体的な着弾痕が見当たらないので修正量の手掛かりも把握できてないので、2発目も目検討で発砲してみるより方法がないことである。
だが、1発目で判明したのは狙っているスチールターゲットに対して左右どちら側に逸れたのかだけは知ることができた。スチールターゲットが設置されているのは、俺から見て右側の壁に3分の2くらいが隠されており、スコープから見えるのはスチールターゲットの左3分の1くらいといったところで、それ以外は暗い室内しか見えない状態である。そうなれば、1発目に発砲した7.62ミリメートル弾はスチールターゲットの左側を飛び去っていったのだけは間違いがないので、1発目に狙った箇所から3時の方向へ30センチメートルくらいレティクル・センターを移動させた外壁に合わせてトリガーを絞る。
大きな発砲音と共に反動の衝撃がSR25M110SASSセミオートライフル銃のストックバッドプレートを通して伝わってくる。2発目の空薬莢も勢い良くエジェクションポートから弾き飛ばされた後に「ボコッ」というコンクリートに7.62ミリメートル弾が着弾したような音が微かに聞こえてきた。
俺は、急いでスコープをスチールターゲットの3分の2を隠している外壁へ向けてみると接眼レンズに映し出されている画像には微かながらも外壁が抉られたような跡を見付けることができた。もし、そこが2発目の着弾跡であるならば狙った箇所よりも上方に5センチメートルくらい逸れて、右の窓枠近くに着弾したことになる。
それを見た俺は、レティクル・センターを先程よりも僅かに9時の方向へ移動させてトリガーを急いで引き切ることにする。タイムアップまでは僅かな時間しか残されていない。




