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デルタのスナイパー  作者: 二条路恭平


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モナコに到着した夕方、一旦別れた地元コーディネーターが部屋を訪ねてきた。

昼間、俺達にアジトとなるマンションの部屋を案内したコーディネーターは、明日に実行する予定となったミッションの手配とターゲットが乗船している大型クルーザーに襲撃する6人のオペレーター用のウェットスーツを受領するため、案内した部屋を退出して別行動をとる事になっていたのである。

俺達7人は暫くの間、それぞれの部屋で窓から双眼鏡を使ってコーディネーターから教えられた特徴と一致するターゲットが乗船しているであろう大型クルーザーを探しながら周囲の状況等も観察していたが、大型クルーザーに襲撃する際に送迎用ボートに乗り込む地点を実際に確認するとして6人は纏まって外出した。


今回のミッションを行うこととなるモナコグランプリは、常設のサーキットを使用するレースではなく通常のアスファルト路面を利用する市街地サーキットとなっている。サーキットのレイアウトは、海岸線を利用しているが1周3.337キロメートルで19か所のコーナーがあり、コース幅も一般的な対向1車線ずつの2車線分しかなく、常設サーキットであるならばコーナーの外側には競技車両がオーバースピード等で進入してコースを飛び出してもランオフエリアという部分が存在するが、モナコグランプリは市街地であるためランオフエリアを設ける事ができないので、競技車両であるフォーミュラーカーがオーバースピードで進入してしまえば立ち所に、道路脇に聳え立つ建物に突っ込んでしまい少なくとも建物1階部分を破壊して重大な事故が発生する恐れがあるので、道路脇の建物を保護する意味でもコースとなる道路脇の至る所にコンクリート製のブロックが並べられている。

ちなみに、俺達のアジトとなっているのはモナコグランプリのスタート地点から5つ目のコーナーとなる「ミラボー」と言われている付近で、比較的小高い丘の上に建設されているマンションの一室である。そして、ターゲットであるザフィーがレンタルしている大型クルーザーが停泊しているのは、スタート地点から8番目のコーナーである「ポルティエ」から18番目のコーナーである「ラスカス」にかけて競技車両の進行方向左側が直ぐ海となっているのだが、「ポルティエ」を過ぎるとマンションの建物が道路を跨いでいるためにトンネル状になっており、そのトンネルを通過すると10番目と11番目のコーナーが連続する「ヌーベル・シケイン」となっているが、大型クルーザーがいるのが「ヌーベル・シケイン」前の沖合に停泊しているので、「ラスカス」コーナーまでが一望することができる絶好の観戦ポイントとなっている。

そこで、大型クルーザーに襲撃する6人のオペレーターは「ポルティエ」コーナー近くから準備されたボートに乗り込んで海上から大型クルーザーに接近してターゲットを含めた10人近くを襲撃する事になるが、6人のオペレーターが今回使用するのは22ロング・ライフル弾を使うルガー・マークⅣ22/45エリート拳銃なのだが、銃器の知識に疎い者の感覚として口径が0.223インチ(5.7ミリメートル)の弾丸で人間が殺せるのか疑問に感じるかもしれない。しかし、人間も地球上に生存する動物として捉えるならば体表の皮膚は地上で生きている生き物の中でも脆弱な部類に当て嵌まり、事実1981年3月30日に米国ワシントンD.Cで発生した第40代大統領ロナルド・レーガンの暗殺未遂事件で使用された銃器は、22ロング・ライフル弾を使用する通称サタデー・ナイト・スペシャルと呼ばれる造りが粗雑で安価なリボルバー拳銃であり、そのリボルバー拳銃から放たれた6発の弾丸のうち1発は大統領専用車ビーストの防弾ガラスに当たった後で跳弾となってレーガン大統領の左胸部に命中し、心臓から僅か2.5センチメートル逸れた肺の奥深くまで到達している。幸いにも襲撃されたレーガン大統領は護衛のシークレット・サービス・エージェントによって直ぐ様、大統領専用車ビーストに乗せられてホワイト・ハウスへ向かったが、その移動中に車内でレーガン大統領が吐血した事で急遽近隣のジョージ・ワシントン大学病院へ向かい緊急手術が施された事によって一命を取り留めたが、もしレーガン大統領に命中した弾丸が2.5センチメートル逸れなければ心臓を貫通して大統領は死亡していたかもしれない。しかも、命中した弾丸は発砲されて直接レーガン大統領に命中したのではなく、大統領専用車ビーストの防弾ガラスに一度命中しているので弾丸から相当程度の破壊力が削がれている状態の跳弾であるにも関わらず肺の深い位置まで到達していた事からも口径0.223インチの弾丸が発砲されて人間に命中したならば、その人間が死傷するのは決してあり得ない話ではない。


部屋に入ってきたコーディネーターは俺の顔を見るなり

「それじゃ、屋上へ行きましょうか。双眼鏡を忘れずに持参してください」

俺にだけ聞こえるような比較的小さな声で言ってくる。

俺は、そのコーディネーターの言葉に無言で頷くとバックパックの中から双眼鏡を取り出した。本来ならば狙撃に使用するSPR300ライフル銃を携行して、SPR300ライフル銃に装着しているスコープでターゲットが乗船している大型クルーザーを見たいところだが、夏場に近い時期のモナコでは夕方と言っても日没となっていないので周囲は想像以上に暗くなっていない。そんな状況で、弾倉を装着しなくともSPR300ライフル銃を構えていては何かの拍子に見られた場合には厄介な状況が発生するのは明らかである。かと言ってSPR300ライフル銃に装着しているスコープを外してスコープ単体だけであれば大して目立ちはしないが、それでは再び取り外したスコープをSPR300ライフル銃に装着したとしても装着状態を取り外し前と完全に同一の状態にする事は物理的に不可能なので、再びゼロインを行わなければSPR300ライフル銃が使い物にならなくなってしまう。

今は狙撃を行う屋上からターゲットが乗船している大型クルーザーを確認して周囲の状況を把握するのは目的なので、バックパックに仕舞っていた軍用双眼鏡で良しとした。俺がバックパックから双眼鏡を取り出すのを見たコーディネーターは、一度頷くと黙って部屋の玄関ドアを静かに開ける。俺は右手に双眼鏡を持ってコーディネーターの後に続いて部屋を出て、左手に持った鍵で玄関ドアに施錠する。コーディネーターは、屋上に向かう際にエレベーターを使わずに階段を登って屋上へ向かった。少なくとも、このマンション内にいる他の人間に夕方屋上へ向かった人間がいた事を悟れないようにするためには当然の事であり、軍人として訓練等で鍛えている俺としても7階から屋上まで大した段数があるわけでもない階段を登るのに肉体的な疲労を感じる事もない。

屋上に出るドアの前に辿り着くとコーディネーターは、ジーンズの右前ポケットから鍵を取り出した。俺は、てっきり針金2本でも取り出すのかと思っていたがコーディネーターは事も無げに取り出した鍵を目の前のドアの鍵穴に差し込んで開錠してドアを開けて屋上に出た。

後に続いた俺が

「ここの鍵はどうした?」

とコーディネーターに問い掛けると

「今回のミッションが伝えられ、貴方達デルタ・フォースのサポート役を命令されてから狙撃ポイントとして、このマンションの屋上が最適だと判断しましたので事前に鍵の複製を準備しておいたのですよ」

コーディネーターは事も無げに無表情で答えてくる。

確かに、命令された内容から想定される事態を予想して事前準備を幾つかのオプションを用意しておかなければ、いざ実践となった段階で何等か不測の事態が発生した場合には適切な対処ができなくなってしまう。俺は内心で、目の前のコーディネーターが抜け目ない対応に関心しながら屋上へ出る。

屋上へ出た俺の顔に、海から心地よい風が吹き付けてきた。

その海風が吹き付ける方へ向かって俺は、右手に持った双眼鏡の対物レンズと接眼レンズに装着していた樹脂製の保護キャップを外して、その保護キャップをジーンズの右側尻ポケットへ突っ込むと接眼レンズを両目の前に持ってくる。

モナコの湾内に停泊している大型クルーザーや大型ヨットからは無数の照明が点灯しているので思った以上に明るく、昼間と同じとまでは言わないが双眼鏡の倍率を10倍にしても割と明るい画像が得ることができる。流石に10倍以上の倍率にしてしまうと光量が不足して接眼レンズに映し出される画像は暗くなり、狙撃の際には正確性が犠牲となり盲撃ちとまでは言わないが味方を誤射する可能性が否定できない。しかし、ターゲットが乗船している大型クルーザーまでは距離にして300メートルくらいのようなので倍率が10倍も使えれば狙撃に支障はないと言える。それよりも気になるのは、海からの風で10時の方向から4時の方向へ吹いている事である。今回の狙撃に支給されている弾薬の弾丸重量は110グレイン(約7グラム)なので、今吹いている風の強さ如何では狙ったポイントよりも右方向へ着弾が外れる可能性が強い。また、300AAC ブラックアウト弾薬は低伸性に優れた弾道を有するので、この屋上から大型クルーザーへは撃ち下ろしとなるのを考慮すると着弾は狙った高さよりも上方に移動する。

そんな事を考えながら双眼鏡で大型クルーザーを観察していると、船尾側に国籍等を示すための小旗が翻っているのが見えた。本来ならば、このような条件下でSPR300ライフル銃を試射するか、或いは目の前にいるコーディネーターにスポッター役を依頼できれば良いのだが、そんな事は最初から望んでみても試射は論外である事は間違いないし、目の前のコーディネーターが如何ほどの射撃スキルを有しているか分からない状況でスポッター役を頼んでみたところで、狙撃に必要な情報をどれ程的確に伝えてくれるのか分からないので望んでみても意味がない。そうなれば大型クルーザーの船尾側に掲げられている小旗が靡く状態を参考にして風向・風速を判断した上で、これまで俺が経験して体得している経験値で着弾修正を行って狙撃に臨むしかない事を悟った。

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