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デルタのスナイパー  作者: 二条路恭平


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ブラウン司令官より伝えられた通りに支給された銃器のゼロイン及び習熟射撃訓練を1時間で終えた俺を含む7人のオペレーターは、予定通りに用意された一般車両のレンタカーに分乗してモナコ公国へ向かった。

しかし、モナコ公国への入国ゲートは年に一度の世界三大モータースポーツレースと言われるモナコグランプリを観戦するために欧州各地から自家用車等が多数押し寄せてきているので、入国ゲートの数キロメートル手前からの渋滞に嵌ってしまった。

元々、モナコ公国には航空機が離発着可能な空港はないので遠方から訪れる場合であっても、最寄りの空港であるフランスのニースに所在するコートダジュール国際空港を利用した後は陸路によって入国するか、或いはクルーザーやヨット等を手配して海上から入国する以外の方法しかない事になる。また、モナコグランプリは市街地コースとなっているので、グランプリコース周辺の一般道路が各所で閉鎖されているので、モナコ公国内の目的地へ向かう場合は、迂回路を通行しなければ辿り着く事ができないばかりか、グランプリ開催期間はモナコ公国内の道路は常時渋滞が発生している状態である。

2時間近くを大して広くもない車内に閉じ込められながらも漸く入国ゲートを通過した俺達は、今回のミッションでモナコ公国内で活動しているコーディネーターとの合流ポイントへ車を向けた。世界でバチカン市国の次に国土面積が小さいモナコ公国は、広さが約2.02平方キロメートルしかないので、入国ゲートからコーディネーターとの合流ポイントまでは車で通常10分も掛からないはずだが、実際には殆どの道路で渋滞が発生しているので、コーディネーターと接触できたのは入国ゲートを通過してから1時間以上も経過してからであった。

現地のコーディネーターは、CIAの要員で30代後半くらいの白人男性であった。彼は、2台のレンタカーに分乗している我々の先頭を走行していた車両の助手席に乗り込み、彼の道案内で車両1台がやっと通れる狭い裏道へ向かいモナコ滞在中のアジトへ大した時間も掛からずに辿り着いた。

最も、アジトと言っても怪しげな建物等ではなくモナコで居住している一般市民が生活しているマンションの一室であった。モナコグランプリが開催されている期間は、あちらこちらの一般道が閉鎖されて通行禁止となるために、周囲で生活必需品を扱うような店舗は道路の渋滞等により商品の仕入れができないほか、来客数も極端に減る事から店を閉めて休業としているので、日常生活を営むのに支障を来たすので自らが住んでいるマンションやアパートの部屋をグランプリ観戦為に訪れた観光客に期間限定で貸し出し、その間は隣国等へバカンスと称してモナコ公国から避難している。その貸し出されている部屋を現地コーディネーターは隣り合った2部屋を借りて我々7人のアジトとして確保してくれていた。お陰で、アジトであるマンションの地下駐車場も2台分が使用できるので7人が分乗してきた2台のレンタカーも支障なく駐車する事ができる。

マンションの地下駐車場にレンタカーを駐車させると、各自が手荷物であるバックパックを担いでコーディネーターの後に続く。先導するコーディネーターは地下のエレベーター踊り場で一旦立ち止まり我々の方へ振り向くと

「全員が一度にエレベーターに乗り込むのは無理でしょうから、後から乗り込む方々は7階でエレベーターを降りて下さい。私は、最初に3人のオペレーターの方と先行しますが、7階で待っていますので」

そう言って3人のオペレーターと一緒にエレベーターに乗り込むとエレベーターは上昇していく、俺は、グループの後ろの方にいたので当然に後発組となる。暫くすると先発の4人が乗り込んだエレベーターが地下駐車場のあるフロアに戻ってきた。俺を含む4人のオペレーターがエレベーターに乗り込んでみると、確かに荷物を持った大人の男性が4人乗るとエレベーターは一杯の状態で他に乗り込む余地がなく、エレベーター内は息苦しさを覚えてしまう。

我々4人のオペレーターを乗せたエレベーターが上昇して7階で止まり、エレベーターの扉が開くと目の前にはコーディネーターと3人のオペレーターが、我々が到着するのを待っていた。4人がエレベーターを降りると再びコーディネーターが先導して廊下を進みながら

「今回、用意できた部屋は運良く海側に面しているのでモナコグランプリのコースを見下ろせますよ」

と比較的大きな声で7人のオペレーターに聞こえるように話してくる。我々からすれば世界最高峰と言われるF1モナコグランプリ等に関心があるわけではないが、この7階フロアで他の部屋に居る人間に、仮に聞こえてもモナコグランプリを観戦に来た観光客と思わせるように敢えて話をしているのだろう。

先導をしていたオペレーターが、フロアの中程で立ち止まりジーンズの右前ポケットに手を突っ込むと2つの鍵を取り出して、その内の1つを目の前のドアにある鍵穴に差し込んで

「それでは最初の3人さんは、こちらの部屋になります」

と言って部屋の玄関ドアを開錠して部屋の中へ入って行く、コーディネーターと一緒にエレベーターに乗り込んだ3人のオペレーターもコーディネーターの後に続いて部屋に入る。

その様子を見ながら廊下で待っていた俺を含めた4人のオペレーターに対して、コーディネーターが部屋の中から大きな声で

「廊下の4人の方も、一旦こちらの部屋にお入り下さい」

そう言われて俺達4人も部屋に入ると、コーディネーターは玄関のドアへ向かってから玄関ドアを閉めて

「貴方達のために借りた部屋以外の部屋にも期間限定でレンタルしている人間が居ますので、マンション内での行動にはくれぐれも注意をして下さい」

先程までの大きな声と打って変わって声のトーンを落として我々に注意喚起をしてくる。確かに、このコーディネーターに言われるまでもなく部屋の玄関ドアも大して厚みがあるわけでもないので、気を許してミッションに関する内容を喋ってしまえば聞かれてしまう可能性が高いと言えるし、今回のターゲットであるザフィーを警護する関係者が潜んでいる可能性も捨てきれず、我々のように高度に政治的な特殊ミッションに従事する者にとって情報の取扱いは、常に細心の注意を払う事に越したことはない。

我々オペレーターにとって当然の内容ではあるが、コーディネーターへ了解した旨を示す意味で頷いてみせると

「それでは、あちらの窓を開ければグランプリのコースが一部ですが見ることができます。それとバスやトイレ、ベッドに調理器具等は自由に使用しても構いませんが、この部屋は本来居住しているオーナーから期限付きでレンタルしていますので、部屋に設置している備品類については壊したり、傷を付けた場合には弁償しなければなりませんので、くれぐれも注意してください」

コーディネーターは、再び隣の部屋にも聞こえるくらいに大きな声で説明をしてくる。

その説明を聞き終えた3人のオペレーターは、担いでいたバックパックを降ろして双眼鏡を取り出すと窓を開けて外の様子を観察し始める。それを見たコーディネーターは右手で壁の方を指し示しながら

「それでは、4人の方は隣の部屋になりますので案内いたします。それと、この部屋の鍵はテーブルの上に置いておきますので、無くされないように管理してください」

そう言うとコーディネーターは、玄関ドアを開けて廊下へ向かうので俺達4人のオペレーターも後に従って廊下へ部屋を出て廊下に向かう。廊下に出たコーディネーターは左手に持っていた鍵を右手に持ち替えると、隣の部屋の玄関ドアの鍵孔に鍵を差し込んで開錠すると部屋の中に入っていく。俺達4人も後に続き部屋の中に入ると、部屋の造りは隣と大して違いがないように見える。

「部屋の造りは隣と大きく変わりませんが、若干ですが、こちらの部屋の方が少しだけ広くなっています。部屋の利用については先程申し上げた内容と変わりませんので、注意してください」

そう大きな声で説明すると、海側に面した窓を開けて隣の部屋で双眼鏡を使って周囲を観察しているオペレーターに

「外の様子を見ているところを申し訳ありませんが、こちらの部屋に来て頂けますか」

双眼鏡を覗いている3人のオペレーターに声を掛ける。

「分かりました」

3人のうち1人が答えて、窓を閉めると俺達が居る部屋にやって来た。3人のオペレーターが部屋に入ってきて3人目が玄関ドアを閉めるとコーディネーターは、ジーンズの右側尻ポケットからメモ帳を取り出し、着ている開襟シャツの胸ポケットに差しているボールペンを使って、メモ帳にザフィーがレンタルしている大型クルーザーの特徴を記載してテーブルの上に置く。それを俺達7人のオペレーターは覗き込んで見ると、船体は白で全長が100フィート(30メートル)を超え3階建の造りになっているほか、船尾には海への乗り降りが便利なように海上近くに出っ張った部分が付いている。また、1日に3回くらい定期的に料理等が小型船でデリバリーに来る。そのため、ザフィーと家族、それに警護隊4人のメンバーはモナコグランプリの開催期間中は陸地に上陸する予定はないと書かれてあった。

そのメモを見せ終えたコーディネーターは小さな声で

「今日は、木曜日ですのでF1はチームのスタッフだけがマシンの組み立てやピットの設営、それにモーターホームの設営を行い、明日から各チームのドライバーが来て最初の練習走行であるフリー・プラティクスが行われます。そうなるとモナコグランプリもお祭り騒ぎとなって各チームのアトラクションやスポンサーに対するパーティが夜に行われる事になりますので、ミッションの実行は金曜日の夜か土曜日の夜が狙い目となります」

とコーディネーターが説明するのを聞いた1人のオペレーターが

「それじゃ、基本的には明日の日没後にミッションを行う事にしよう。ただし、海上の状況次第では決行が困難な場合も想定できるので、あくまでも土曜日は予備日という事で良いか?」

と他の6人のオペレーターとコーディネーターに意思確認を行う。前回の襲撃に失敗している事もあり、陸上とは勝手が違う海上からの襲撃でもあるので予備日を設けてミッションを決行するのに誰も反対はしなかった。

それを聞いたコーディネーターは

「それでは、今日の夕方にはクルーザーに襲撃される6人のオペレーターに着用して頂くウェットスーツが私の所へ届きます。それと6人の方をクルーザーに近くまで送る小型ボートの手配を今日中に行っておきます」

再び小声で喋るのを聞いた俺は

「それで、この部屋から狙撃を行うことになるのか?」

コーディネーターの方を見ながら尋ねると

「貴方が良ければですが、この部屋からの狙撃に問題があるのならマンションの屋上を使う手がありますが、但し通常はマンションの住人が屋上へ行くのは禁止されているので、日暮れにこっそりと屋上を利用する事になります」

コーディネーターの答えを聞いた俺は、実際には分からないもののSPR300ライフル銃の発砲が1発で終わるとは思えないので、仮に複数発を発砲した場合には弾薬に装填されている火薬が燃焼するのに伴い生じる残臭が部屋に籠る事で部屋のオーナーが戻ってきた際、何らかの疑念を抱かれるのが気になっていたので、マンションの屋上を利用するプランを採用する事にした。

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