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ブラウン司令官から、新たに立案されたミッションに関するブリーフィングが終わると
「ミッションの説明は以上だが、何か質問はあるかね?」
手元の書類から目を離したブラウン司令官が整列して目の前に立っている7人のオペレーターに問い掛けるのを受けて
「今日中にモナコ公国に潜入せよとの説明でありましたが、貸与される銃器のゼロインや習熟射撃の時間は頂けるのでありましょうか?」
俺は、右手を上げてブラウン司令官に質問をしてみた。他の6人はターゲットが乗船している大型クルーザーへ乗り込んで至近距離から拳銃を発砲するので、いざとなればぶっつけ本番でも対応可能かもしれないが、俺の場合はスコープのゼロインもせずに発砲しても何処に命中するか分からないし、最悪の場合は味方を射殺する可能性がある。
「当然、諸君達に貸与する銃器のゼロインや習熟訓練もなしにミッションを成功させよというのに無理があるのは充分承知している。諸君達には銃器を貸与していから1時間の射撃時間を与えるので、その時間内に与えた銃器のゼロインや習熟を行ってもらう。射撃訓練終了時間になったら、準備しているレンタカーに分乗してモナコ公国へ出発してもらう事になる。他に、質問はあるかね?」
ブラウン司令官は、次の質問があるかと聴いてくるが他の6人のメンバーは特段の疑問もないようで、手持無沙汰の雰囲気を醸し出していると
「質問がないようであれば、各自の荷物を持って1階の備品係や向かい、貸与予定の銃器と弾薬を受領するように、以上下がってよろしい」
ブラウン司令官の一言を受けて、俺達7人のオペレーターは敬礼をしてから司令官室を退出して、建物1階の備品係へ向かい貸与予定の銃器及び弾薬を受領すると一目散に射場レンジへ向かう。
他の6人はルガー・マークⅣ22/45エリート拳銃に専用の消音器を装着して固定サイトの微調整程度でゼロインが済んでしまうのだが、22口径リムファイヤカートリッジとして定番の5.6×15ミリメートルR弾、通称22LR弾薬は9×19ミリメートル弾薬や45ACP弾薬等のような弾薬の底部中央にプライマー(雷管)があって、そのプライマーを銃器のハンマーやファイヤリング・ピンが殴打して発火・発砲となるのとは違い、弾薬の底部が潰れたような構造で薬莢本体よりも一回り外へ突き出した形態をしており、潰れたような状態のリム部分にある装薬を銃器のハンマーやファイヤリング・ピンが殴打することで発火・発砲となる。そのため銃器のハンマーやファイヤリング・ピンの打撃力が、弾薬の威力が弱そうに見える割には強くなければ弾薬が不発となって発砲ができなくなり、場合によっては不発となった弾薬をチャンバーから取り除かなければ発砲すること自体ができなくなる。また、薬莢自体が細く小さいために装薬量が少ない事に加えて弾丸の重量が30グレイン(1.9グラム)から40グレイン(2.6グラム)と軽量なのでセミオートマチック銃器で発砲した際に、発砲した後に空薬莢を銃器から排出しマガジンに装填されている次弾をチャンバーや送り込むためのスライド部を後退させるパワーが弱いので銃器によってはホットと言われる強装弾を使用しなければ的確な作動が望めない。因みに、米国内で市販されている弾薬は22LR弾薬以外の口径であっても、米国内で数多く流通している造りが比較的粗悪な銃器からでも安全に発砲できるよう基本的には弱装気味な弾薬が市販されている。これは、銃器の製造レベルが異なる雑多な銃器が流通している現状で、余りパワーを有する弾薬を販売してしまう場合には、粗悪な造りの銃器から発砲した際に、発火した弾薬の威力に銃器本体が耐え切れずに破損して射手が死傷するケースが想定され、そのような事故が発生すれば訴訟社会の米国では、損害賠償訴訟が起こされて弾薬製造メーカーは多額の賠償金を負担させられる事態を恐れて、基本的には安全マージンを担保できるくらいの装薬量とした弾薬を製品として販売しているのだ。
そのため6人のオペレーターは支給された弾薬、軍での使用が考慮されているので弱装弾ではないと想定されてもルガー・マークⅣ22/45エリート拳銃に支給された弾薬を装填して試射を行い確実に作動するのを確認しなければ安心して実践で使用する事ができない。
一方、俺に貸与されたB&T社製のSPR300ライフル銃は、スイスの銃器メーカーであるブリューガー・アンド・トーメAPC社がLE機関(法執行機関)でのスナイパー向けに開発した近距離用消音ボルトアクションライフル銃である。このライフル銃には、最初から長大な消音器がバレルに装着されており、使用する300AAC ブラックアウト弾薬と標準装備の消音器による組み合わせにおける静音性に加えて、メーカーでは射程距離が165ヤード(約150メートル)までの近距離における高い命中精度が謳われている。また、バレルに装備されている消音器を取り外して、折り畳み式の造りとなっているアルミ製ストックを折り畳むとライフル銃の全長が16インチ(約40センチメートル)となり、持ち運びに便利な携行性に優れたライフル銃となっている。
また、300AAC ブラックアウト弾薬は米国アラバマ州の銃器アクセサリメーカーであるアドバンスド・アーマメント・コーポレーション社が同じく米国の銃器・弾薬メーカーであるレミントン・ディフェンス社との協力によって開発された弾薬であり、7.62×35ミリメートル弾薬とも呼ばれ5.56ミリメートルNATO弾薬で使用するマガジンに装填する場合において同じ弾薬数が確保できたうえで7.62×39ミリメートル弾薬に近いパワーを実現する高速弾の面と、消音器を使用した際に高い静音性を実現する亜音速弾としての二種類をコンセプトとしている。
このようにSPR300ライフル銃と300AAC ブラックアウト弾薬の組み合わせは、携行性に優れた銃器によって確実にターゲットを狙撃可能な距離まで接近するのに便利であるだけなく、ターゲットが単独ではなく複数人数であり銃器等の武器を携行して人質がいるようなケースでは、高い静音性によってターゲットが狙撃されている状態を極力悟られる事なく襲撃できる点でLE機関でのスナイパー向けと言われる所以でもある。
今回のミッションでは、洋上での大型クルーザーに乗船している複数のターゲットを狙うだけではなく、周囲には無関係な人間達もF1レースを観戦するために多くのクルーザーやヨットが停泊している状態なので、周囲にいる無関係な人間達に発砲音を聴かれて騒がれるような事態となれば、瞬時にパニック状態を引き起こして確実なミッションが遂行できなくなる。今回のミッションについても襲撃メンバーが突入する瞬間から短時間でターゲットを射殺して現場から引き上げるまでは決して周囲に悟られる事なく遂行しなければならない。
今、俺が手にしているSPR300ライフル銃には等倍から4倍まで倍率を可変させられるショートスコープが取り付けられている。今回のミッションではターゲットまでの距離が150メートルと比較的近距離であり、ターゲットへのアタック時も日没後ではあるがF1レースというイベント開催期間中という状況という事もあり、ターゲットの周辺にも数多くの船舶が停泊しているので完全な暗闇状態というわけでもない。しかも、スコープの倍率を上げた場合には晴天時で日中のような光量がなければ接眼レンズに映し出される画像は暗く見えてしまうので、今回のように日没後での使用であれば倍率が4倍まであれば充分に事が足りる。また、使用する300AAC ブラックアウト弾薬は比較的フラットな弾道を有しているのでゼロインを行う射程距離は25メートルとなっているが、この射程距離でゼロインを行っても現地でのエレベーション修正量は割と少なくて済み、気になるのはターゲットが洋上という事で横方向から吹く風が弾道に如何ほどの影響があるかである。銃口とターゲットを結んだ直線に対して平行方向の風であれば弾道に与える影響は殆ど無視しても良いのだが、少しでも横方向からの風向きとなれば多少なりとも風力にもよるが弾道は横方向にスライドしてしまう。今回のミッションでもスポッター(観測手)がいないので、ターゲットが乗船している大型クルーザーに掲揚されるであろう各種の旗が靡く状態を目視確認した上で、自身の感覚を頼りに照準修正をしなければならない。
SPR300ライフル銃のマガジンには10発の300AAC ブラックアウト弾薬が装填でき、ショートスコープのゼロインにはマガジン1個分を発砲する事で完了したが、俺が最も驚いたのは静音性能の高さで思っていた以上に発砲音が小さい事であった。幾ら発砲音が小さいと言っても無音という事はないが、これならイヤーマフラーを装着していなくても難聴になる心配は必要ないだろう。しかし、この射撃レンジではアヴィアーノ空軍基地の隊員が9×19ミリメートル弾薬を使用した米軍制式採用拳銃であるシグ・ザウエル社製P320M17拳銃の射撃訓練で発砲しているのでイヤーマフラーを装着していなければ難聴になってしまう。




