25
今回支給されたSR25M110SASSセミオートライフル銃の標準装備となっているスコープでの射撃もゼロインを済ませて、このSR25M110SASSセミオートライフル銃での射撃についても相当集弾を纏められるようになってきた頃、駐屯施設の司令官であるマッケイン中佐からの呼び出しを受け、外の突き刺すような日光から遮られて空調の効いた司令官室に7人のデルタフォース・オペレーターが集められた。
7人のオペレーターが召集された理由は明らかで、前回のミッションが結果的に不成功となり完全にトレースしていた筈と思い込んでいたCIAの情報がフェイク情報を掴まされて襲撃したのはイランの国家元首ではなく、兼ねてから噂されていた替え玉を殺害しただけで終わってしまい、肝心なイラン国家元首である本人を仕留め損なっており、その事実を受けてCIAは中東周辺に展開させている特殊要員を総動員してターゲットとしているイラン国家元首の動向を必死になって捜索した結果、やっとイラン国家元首の居所をキャッチして新たな襲撃ミッションが立案されて、俺達デルタのオペレーターの出番となって襲撃ミッションが本格的に動き出すのだろう。
デスクの皮張りの椅子に腰掛けているマッケイン中佐は威厳を繕うように一度咳払いをすると
「諸君等には、相当な時間を当駐屯施設で待機してもらってしまったが、漸く昨夜CIAよりターゲットであるイランの国家元首の居場所を突き止めたとの連絡が入った。その情報によると、ターゲットは隠密にモナコ公国内へ家族と共に所在しておりイラン防衛隊の大統領警護隊が常時厳重な護衛体制下の元で生活を営んでおり、諸君等にはモナコ公国内へ赴いてターゲットを襲撃してもらう事になった。そこで、本日10時に当駐屯施設からイタリアのアヴィアーノ空軍基地へ移動してもらい。アヴィアーノ空軍基地の司令官から詳細な作戦内容を受領した後に、襲撃任務にあたってもらう。以上だが、何か質問はあるかね」
A4版の用紙を右手に持って記載されている内容を読み終えたマッケイン中佐は、老眼鏡と思える眼鏡を鼻眼鏡のようにズラして我々の方へ視線を向けてくる。予めイラン国家元首を襲撃する新たな作戦が立案されるまでの間、この駐屯施設で待機させられている我々7人のオペレーターにとって新たに従事する任務内容がヨーロッパへ移ったという事ならば、今目の前に居るマッケイン中佐からの命令に何等疑問を差し挟む余地等ないし、新たな作戦についてマッケイン中佐に一体どの程度詳細な作戦内容が伝えられているのかも分からない状態では質問のしようがない。
7人のオペレーターが直立不動の状態で一言も発しないのを確認したマッケイン中佐が
「何も質問が無いようなら、各自荷物を纏めて第二ヘリポートへ集合したまえ」
と言われて俺を含めた7人のオペレーターは、司令官であるマッケイン中佐に敬礼すると司令官室を退室して、各自のベッドルームへ向かい自分の荷物を取りに行く。
自分の荷物を纏めているバックパックを担いで、マッケイン中佐から言われた第二ヘリポートへ赴くと、UH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターのメインローターがアイドリング状態で回転して機体の周辺に強風を巻き上げていた。
メインローターの回転によって巻き起こされる風に両目を細めながら上半身を屈めて、開け放たれている後部の搭乗ハッチへ近寄り担いでいるバックパックを降ろしてUH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターの搭乗ハッチからバックパックを投げ込むように積み込んで、自分自身も後部ハッチからUH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターに搭乗する。
7人全員のオペレーターがUH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターに搭乗すると、駐屯施設の整備兵が搭乗ハッチを勢い良くスライドさせて閉じると、UH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターの機長に手でサインを送り離陸準備が整ったことを知らせる。
俺は、左手首に巻き付けているカシオのデジタル腕時計を見ると時刻は午前9時58分30秒を示しており、UH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターのメインローターの回転速度が徐々に早まってくると、機体内部ではヘッドセットタイプの無線を使用しなければ通常の会話さえも困難になるくらいにエンジンの騒音が響き渡ってくる。UH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターの窓から外を見ているとハリケーンの様な状態でUH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターの周囲から砂埃が巻き上げられて外の視界が遮られた瞬間、UH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターの機体がフワッとヘリポートから浮かび上がり、離陸したUH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターは、徐々に高度を上げて地中海を目指して飛行を開始する。
巡航速度を上げて飛行するUH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターは、順調に1時間も航行していると窓から紺碧に輝く地中海の海原が見えてくる。それから暫くして昼少し前には、アヴィアーノ空軍基地のアスファルト敷きのヘリポートへ無事に着陸した。UH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターのメインローターの回転速度が少しずつ弱まっているが、後部搭乗ハッチが開かれた機体の外部は依然として強風のような風が吹き荒れている。
そこへ7人のオペレーターがUH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターから降り立つと近くに2台の軍用ジープが停車しており、その内の1台に乗っている基地隊員が我々7人に対して、ジープの方へ来いと手招きしているのが見えるので7人のオペレーターがジープに近寄ると、2台の後部荷台に分乗したならば司令官室のある建物へ案内するとの事で急いで乗り込めと叫んでいる。
7人は、3人と4人のグループに分かれジープの荷台部分に乗車する。俺は、4人グループの方だったが、大きなバックパックを携行した男4人がジープの荷台に乗り込むには相当に狭く、俺は腰を下ろすというよりもバックパックを支えにして屈んでいるような姿勢であった。走り出したジープは、時速30キロメートルくらいだったので幸いにもジープに乗車中は姿勢を乱して危険な思いをせずに済んだ。
俺達を乗せたジープが鉄筋コンクリート4階建ての正面玄関前に止まり、3人のオペレーターを乗せていたジープを運転していた基地隊員が、司令官室は建物の4階になるのでジープを降りたら直ぐに司令官室へ向かうよう俺達にも説明する。
2台のジープから降りた俺達は、それぞれのバックパックを背負って正面玄関から建物の中に入る。建物に入って直ぐにエレベーターホールが見えたが、7人全員がバックパックを担いでエレベーターに乗り込むのは重量的に無理そうなので、エレベーターの脇にある階段を4階まで登ることにした。基本的に日頃から訓練で鍛えているので4階までの階段をバックパック1つ担いで登ったところで息切れをするようなオペレーターは1人もいない。
司令官室へ入室すると、目の前には木製で大層造りが立派なデスクと黒い皮張りのチェアーに腰掛けた黒人でスキンヘッドの40代後半くらいに見える司令官らしきブラウン空軍大将と、その傍らには30代前半くらいの白人空軍少佐が立っていた。
皮張りチェアーに腰掛けているブラウン司令官は、我々7人のデルタ・オペレーターが入室するのを見届けると、比較的柔和な笑顔を浮かべながら
「全員、ご苦労。各自の荷物は部屋の隅に置いてソファーに掛けたまえ」
応接用のソファーを指差しながら言うと、そのブラウン司令官の言葉を待っていたかのように白人の空軍少佐が司令官室の窓に取り付けられているブラインドに移動して全てのブラインドを閉じる。
少し室内が暗くなったが、我々7人も気にすることなくブラウン司令官が指していた来客用のソファーに腰を下ろし、ブラインドを閉じ終えた白人の空軍少佐が再びブラウン司令官の脇へ戻って控えるよう立っている。ブラウン司令官は皮張りのチェアーに座ったままデスクに両肘を突いて両手の指を組み合わせながら
「こちらに居るのは、当基地のシュナイダー少佐だ」
ブラウン空軍大将が、脇に立っている白人の空軍少佐を紹介する。
「諸君達も分かっていると思うが、これから諸君達に与えられるミッションについては極秘扱いとなるので、私が説明する内容が外部に漏れるわけにはいかないので、ブラインドを閉めさせてもらった。更に、これから説明する内容は口頭のみの説明となりペーパー資料等は一切ないので、そのつもりで漏れなく聞き取るように」
先程までの柔和な表情だったブラウン司令官が、引き締まった険しい顔付きで前置きを喋った後で、ブラウン司令官の脇に控えているシュナイダー少佐が部屋の隅へ向かい壁際のスイッチを入れると、ブラウン司令官から見て左上方の天井から音もなくスクリーンが電動で下がってくる。スクリーンが天井から下がってくる間に、シュナイダー中佐が部屋の隅に置かれているノートブックタイプのパソコンと1台のプロジェクターが載せられたキャスター付きのテーブルを押してスクリーンの前に移動させると、パソコンとプロジェクターの電源を入れて2台を起動させた。
スクリーンにパソコンの画面が映し出されるとシュナイダー中佐がピントを合わせてから、パソコンを操作してデスクトップ画面にあるファイルを開け
「ブラウン司令官、説明の準備が整いました」
ブラウン司令官に敬礼をしながら伝えるとブラウン司令官は軽く頷いて
「それでは始めようか」
ブラウン司令官が口を開くと、スクリーンには襲撃ミッションの対象であるイラン国家元首ムハマンド・アル・ザフィーの顔写真が映し出された。
「前回の襲撃が失敗となったイラン国家元首ムハマンド・アル・ザフィーは、その後のCIAによる賢明な捜査によってモナコ公国に潜伏しているのを確認した。前回のミッションでは確認不足によって替え玉を襲撃してしまったが、今回は、事前に本人のDNAを採取して確認しているのでムハマンド・アル・ザフィー本人である事は間違いない。ザフィーはイラン本国から家族等と出国する際に、スイス銀行にザフィー名義の預金口座を開設して多額の現金を預金した上で、モナコ公国内にマンション一室を購入して家族等と一緒に居住している。最も、マンションの一室と言ってもマンション最上階のワンフロア全てを購入しているようだが、そこにはイラン大統領警護部隊の精鋭15名も常駐させている事も確認されている」
そこまで、ブラウン司令官が説明するとザフィーを警護している大統領警護部隊15人の顔と言っても、全員が黒いサングラスを着用している状態なので容貌がハッキリとしない隠し撮り写真が次々に映し出される。
15人目の顔写真が映し出された後に、1人の40代半ばくらいの女性の顔写真が映し出されると
「この写真はザフィーの女房で、他に17歳の長男、15歳の長女、10歳の次男が同居しており、今回のミッションではザフィーと警護部隊を襲撃する際、この女房と3人の子供達も見逃すことなく襲撃対象とする」
ザフィーの女房の顔写真の後に、若々しい顔付きの男の子と女の子も顔写真も映し出されから
「そこで、今回のミッションだが諸君達は本日中にモナコ公国へ潜入してもらい。来週にモナコ公国で開催される一大イベントとさせているF1モナコグランプリの大会期間中にターゲットを襲撃してもらう。ターゲットであるザフィーは家族と警護部隊を伴ってレンタルした大型クルーザーに乗船してモナコ沖でF1レースを観戦するようなので、土曜日の予選が行われた後の深夜に大型クルーザーに乗船しているザフィー、その家族と警護部隊の人間を大型クルーザー内で襲撃してもらう」
その後、ブラウン司令官からは我々のモナコ公国における潜伏先等が事細かく指示され、俺以外の6人にはウェットスーツを着用して大型クルーザーに乗り込んで襲撃を行うので用意された銃器は消音効果が最も高いスターム・ルガー社製のルガー・マークⅣ22/45エリートと専用消音器に防水加工が施されたホルスターが支給されるそうで、俺は対岸から6人の襲撃をサポートするためにB&T社製のSPR300という近距離用消音ボルトライフル銃が用意された。




