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デルタのスナイパー  作者: 二条路恭平


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208/210

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叢の中、耳から伝わる音の情報を信じれば執事と思われる男の真横くらいの位置には居るはずで、動きを止めて静かにしていると微かだが「ハァー、ハァー」という男の荒い息遣いが聞こえてくる。

想像通りに、執事と思われる男は負傷している関係で体力の消耗が激しいためか息遣いが荒くなっているのだろう。そうなっているのであれば、俺が相手に止めを刺さぬうちに勝利を確信して余程の油断でもしない限りは、俺は今回も生き残ってミッションの遂行を達成することができるはずだ。

まだまだ相手との距離はあるだろうが、執事と思われる男の背後と思われる位置にまで移動できたように推測するので、これから相手との距離を詰めていくことにする。

ただし移動中は、更なる注意を払わなければ執事と思われる男から至近距離による反撃の発砲を浴びて死傷することになるので、くれぐれも油断だけは許されない。

まるで冬場の湖の湖面にできた薄氷の上を歩いているような感じで、少しも油断することなく1歩ずつ近付いていくのだが、左手のニュースーパー・ブラック・44マグナム拳銃のマズルは、常に執事と思われる男が潜んでいる方へ向けて直ぐにでも発砲できるように備えておく。

進んだ距離は、僅かに1メートル程度なのだが感覚的に1時間以上もの時間を要した感じがしており、自分の呼吸音でさえ執事と思われる男に聞こえぬように口を半開きにしているだけでなく、耳と目に神経を集中して些細な変化も逃さないようにしているくらいに神経を使う。

耳には、先程よりも執事と思われる男の荒い息遣いがはっきりと聞こえてくるので、10メートル以内には接近していると判断して左手に持っているニュースーパー・ブラック・44マグナム拳銃を構えて荒い息遣いが聞こえる方へ向けて発砲する。

「ドォンッ」という発砲音と群生している草木が、強引に引き千切られる「ガサッ、ガサッ」という音を残して44マグナム弾は群生している叢へ飛翔していくが、瞬時に「ゴソッ、ゴソッ、ゴソッ」という音がして前方の叢が不自然に揺れ、その揺れた草木の先から「ガサッ」という音と共に高齢の執事と思われる男が勢い良く立ち上がり、顔中汗まみれになった決死な表情を浮かべて、手には拳銃を構えて物凄い形相をして俺の方へマズルを向けてくる。

執事と思われる男が持っているのは、アルコーン Type B拳銃という9×19ミリメートル弾薬を使用するストライカー・ファイヤー方式のセミオート・マチック拳銃で、元々はロシアのアーセナル・ファイヤーアームズという銃器製造メーカーが開発したStryk Oneという拳銃をベースにコンパクト化したものである。

なお、アルコーン Type B拳銃はスライド上面のフロント・サイトからエジェクション・ポート前端から2センチメートル前方くらいの範囲が抉れたようなデザインとなっているが、これはアメリカでの販売を狙った際にアメリカ国内での受けを狙ったもので元のベースであるStryk One拳銃には抉れたようなデザインではなく、通常の真っ直ぐなスライド上面となっている。

また、アメリカの法執行機関等でも可成りのシェアとなっているグロック・ピストルよりもバレルの銃腔軸線がグリップを握っている手の位置に比較的近いことから発砲により反動が射手に伝わる感じがマイルドであり、マズル・ジャンプも抑え易いとも言われて話題になったと記憶している。

ただし、チェコスロバキアのラウゴ・アームズというメーカーが開発したエリアン・ピストルでは、バレルとリコイル・スプリング・ガイドの位置を逆転させたことで更に銃腔軸線が最も低い拳銃となっており、注目の度合も低くなってしまっている。

しかし、冷静に考えればルシェンコ・ボルツォフの執事であり且つボディガードという役割であるならば、9×19ミリメートル弾薬を使用する銃器の選択は理に叶っていると思え、アメリカだけではなくヨーロッパをも移動していたルシェンコ・ボルツォフと行動を共にしているのであれば、使用している銃器の弾薬を如何にして確保するかも重要で、その意味では9×19ミリメートル弾薬であるならばアメリカ国内やヨーロッパでの入手も容易であり、俺が使用する45ACP弾薬などはヨーロッパでは割とメジャーではないので弾薬の入手が困難になるケースが多いくらいである。

また、アルコーン Type B拳銃は元々ロシアのアーセナル・ファイヤーアームズが開発したことを踏まえれば、実際の使用に際しても違和感が少なく、バレルについてもスライドがブローバックする際にティルトせず固定式だろうからグルーピングも纏り易く、適切な選択と言えるかもしれない。

執事と思われる男が構えているアルコーン Type B拳銃から、俺に向かって放たれた2発の弾丸は何れも俺に命中することなく逸れた位置に着弾している。

軍隊経験があり銃器の発砲に慣れている人間が、こんな至近距離とも言える状況で2発とも外した事実には相当の違和感を感じるが、よく見ると執事と思われる男はワイシャツの右肩部分が被弾した後のように裂けて赤く血に染まっており、しかも身体が若干ではあるが右方向に傾いている。

これは、俺が想像した通りに俺が放った銃弾が掠めて重症とまでは至らなかったものの右肩と左脚を負傷して的確に拳銃を構えることができなかったため、発砲した瞬間にマズルが逸れたことによって狙った箇所へ弾丸を折り込めなったということだろう。

その間に、俺はハンマーを左手の親指でコッキングしてニュースーパー・ブラック・44マグナム拳銃を発砲可能な状態にすると、相手に悟らぬようポイント・シューティングの要領で執事と思われる男へ発砲する。

それは、ほんの一瞬の出来事で44マグナム弾の大きな発砲音によって俺の聴覚は一時的ではあろうが難聴状態となり、ニュースーパー・ブラック・44マグナム拳銃は左手から生き物のように飛び出して地面に落ちるのと、執事と思われる男の頭部が射撃レンジで西瓜をターゲットにして発砲した時みたいに、執事と思われる男の頭部が破裂したように赤い血飛沫を破裂させながら消失して、頭部が無くなった身体が後方へ弾き飛ばされるように倒れていった。

俺は、叢から立ち上がって頭部を失って倒れた執事と思われる男の方へ近寄ってみると、頭部を失った身体は頸動脈から勢い良く流れ出る鮮血によって血の池ができており、知らない人物が見たら一体誰なのか判別がつかい状態となっている。

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