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執事と思われる男との距離が100メートル近くとなった辺りで「ガサッ」という叢に不自然な音が聞こえたと思った瞬間に「パンッ、パンッ」という2連射の発砲音が聞こえてくる。
執事と思われる男が発砲してきた弾丸は、俺が隠れている幹に命中するがアサルトライフル銃よりも威力が弱い拳銃弾であるために樹皮の飛び散り方が少なく、俺の頭部への振り掛かりが大して無いので目に入る心配はない。
それと、発砲音から判断すると執事と思われる男が使用しているのは、恐らく9×19ミリメートル弾薬ではないかと思われる。
幹の陰に隠れて執事と思われる男が、俺に対して初めて積極的に発砲してきたのを遣り過ごし、左手に握っているニュースーパー・ブラック・44マグナム拳銃を構えて執事と思われる男が発砲してきた音が聞こえた辺りから手前の方へ向かって前後のサイトで狙いを定め、右手の親指でハンマーを起してコックすると左手の人差し指はトリガーに添える。
少し前まで、クロクマに対して6発も連続して発砲したのでシングル・アクション・リボルバー拳銃と44マグナム弾薬に慣れてきているとは言え、今度のターゲットはクマではなく銃器で狙われているのを認識できる人間であるばかりか、戦闘慣れをしている人間なので44マグナム弾薬は明らかにオーバースペックと思われ、それに対して執事と思われる男が対人用としてはベストとも思える9×19ミリメートル弾薬となれば取り回しの利便性や連射の行い易さ等を踏まえれば、俺にとって有利な状況とは言い難い。
「ドォーンッ」という44マグナム弾薬特有の大きな発砲音が鳴り響き、放たれた44マグナム弾は叢の中に消えていくが、相手にヒットしたような手応えは全くないので上手く避けられたのかもしれない。
そろそろ俺も居場所を換えないと執事と思われる男に、俺からは見え難いような場所を確保されて圧倒的に不利な状況に追い込まれてしまう。
このような状況となった今では、その大きさで邪魔になってしまうTFMボルトアクション・ライフル銃を右手で持って姿勢を屈めながら幹の陰を離れて移動を始める。
執事と思われる男の考え方も同様なのだろうが、とにかく相手に姿を見られないようにするため、叢の茂みへ入り込んで見え難くした上で更に移動を続行する。
俺も軍の訓練、特にスナイパー養成訓練では敵に存在がバレぬよう移動するのは相当厳しく訓練を受けているので、執事と思われる男に負けぬくらい気配を消して移動することができる。
ただし、このような事態になると直ぐには相手の気配が分からいために一種の心理戦となり、自分を信じて我慢強い忍耐力を維持して望まねばならず、そこに少しでも疑念を生じさせて焦り等に繋がれば自らが墓穴を掘る結果となって、危険な状態に陥る可能性が高まる。
ただ、厄介なのは執事と思われる男がセミオート・マチック拳銃を使用していた場合、チャンバーに弾薬を装填した状態で移動を行ったとしても密生している枝等がトリガーに触れてアクシデンタル・ディスチャージである暴発が発生し難いので、直ぐにハンドガン・ファイトとなっても発砲できる状態を維持できるのだが、俺が使用しているニュースーパー・ブラック・44マグナム拳銃ではハンマーをコックした状態の場合に、トリガーに枝等が触れた時にはハンマーがダウンしてしまうことで、幸いにも枝等がトリガーを引いた状態となったとしてもトリガーフィンガーで引いた状況とは違うのでトランスファー・バーがファイアリング・ピンの前に位置するようなことにはならないから暴発までには至らないにしても、ハンマーはダウン状態のために再びハンマーをコッキングしなければハンドガン・ファイトの際に発砲することはできず、その時間分だけ相手への銃撃が遅れることになってしまう。
そのため、俺はニュースーパー・ブラック・44マグナム拳銃のハンマーをコッキングした状態として、左手の人差し指であるトリガー・フィンガーは真っ直ぐに前方へ伸ばしてトリガーに指を掛けてはいないが、常にマズルは前方へ向けて銃器全体が視界に捉えている状態をキープして叢の中を移動している。
そんな静けさに包まれた状態のなかで、突然「バサッ」という音が聞こえたかと思うと「キーッ、キーッ」という野鳥の鳴き声が響く。
それに呼応するように「パンッ、パンッ」というダブルタップの2連射を行った発砲音が聞こえてくるが、発砲された弾丸が俺の近くに飛来してくる気配はない。
だが、ダブルタップの発砲音は俺に執事が潜んでいる場所を凡そでも教えてくれる情報となり、俺は発砲音が鳴り響いた場所へ向けてニュースーパー・ブラック・44マグナム拳銃のマズルを向けてトリガーを引き絞り「ドォーンッ」と盛大な発砲音を放って44マグナム弾が飛翔していく。
44マグナム弾の飛来によって「ガサッ、ガサッ」と叢が掻き分けられるような音が聞こえた後に、「ウッ」という男の声が聞こえるのと同時に「ゴソッ」という何か重量物が叢の中に落下したようの音が聞こえ、その直後には再び「ガサッ、ガサッ」という音がする。
その音が聞こえる方には間違いなく執事と思われる男が潜んでいると確証した俺は、ニュースーパー・ブラック・44マグナム拳銃のハンマーをコッキングしてマズルを音の聞こえた方へ向けてトリガーを引く、「ドォーンッ」という発砲音を残して44マグナム弾が飛翔していくが「ガサッ、ガサッ」という音の後に「ボソッ」という44マグナム弾が射撃レンジで土のバックストップにでも当たったような鈍い音が聞こえた。
明らかに、俺が発砲した位置から執事と思われる男は移動してしまって44マグナム弾は地面の土に命中したことになるので、俺はニュースーパー・ブラック・44マグナム拳銃のハンマーをコッキングしながら執事と思われる男からの応射に備えて場所を移動すると、直後に「パンッ、パンッ」と再びダブルタップによる発砲音が聞こえて、先程まで俺が居た場所の近くを9ミリメートル弾が飛び去っていく音が聞こえてくる。
予想通り俺のニュースーパー・ブラック・44マグナム拳銃を撃った際の発砲音を頼りにして、的確に拳銃を発砲してきているところから仮に俺が移動するのを少しでも遅らせていたならば確実に被弾していたかもしれず、当たり所によっては即死ということになって今頃は死の世界へ旅立っていたかもしない。
半開きとなっていた口から僅かだが溜息が漏れるが、それによって多少とも冷静さを取り戻した俺の耳には微かに「ザァーザァー」という地面を這うような音を捉えた。
恐らく執事と思われる男は俺が放った銃弾によって脚を負傷しており、移動するにしても這った状態でなければ身体を動かすことができないのではないだろうか?
執事と思われる男にとってはアンラッキーな事態となったかもしれないが、俺にとっては確実に勝機が巡ってきたことになり、これによって相手の居場所が特定できる状態となった以上、相手の背後に廻り込めば確実に執事と思われる男を仕留めることが可能となる。
俺は、一層慎重に移動を始めて耳を頼りにしながら相手の背後に廻り込むよう上体を屈めて歩を進めることにする。




