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デルタのスナイパー  作者: 二条路恭平


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205/208

205

TFMボルトアクション・ライフル銃を1発だけ発砲しては、狙撃場所を変えることを繰り返して別荘の正面玄関があった箇所を望める位置へ移動したが、予想した通りに敵は炎を楯にするように反対側へ移動しているので容易に姿を確認することができない。

この位置に辿り着く前、マガジンに装填していた338ラプアマグナム弾薬を全て撃ち終えていたので、着用しているベストの胸ポケットから338ラプアマグナム弾薬5発を取り出してマガジンへ補弾する。

この場所ならば、大きな樹木の幹に隠れての狙撃となるので手頃な樹木を探して幹の陰に身体を隠してから、ニーリングのポジションでTFMボルトアクション・ライフル銃を構える。

幸いにも、過度な連射等は一切していないので狙撃場所を移動している間に発砲によって熱せられたバレルは、その表面を素手で触っても火傷の心配がないくらいに放熱されているので、バレル内の汚れによる影響以外の要因で着弾への悪影響がない状態となっている。

どの様な銃器であれ、過度な発砲が連続して繰り返させられればバレル自体が高温な発射ガスによって熱を帯びることになり、如何にバレルが金属で造られているとは言え、連続して高温に晒されていれば金属自体が徐々に軟弱化していき、バレルが直線状態をキープできなくなり狙った場所へ着弾しなくなってしまう。

そのため、陸・海軍で採用されているセミオート・マチックの狙撃銃であるSR‐25M110の取扱いマニュアルには、連続した発砲は高い射撃精度を求めるのであれば極力避けるように記載され、仮に連続した発砲によってバレルが熱を帯びた際には一時的に射撃を中断してバレルを冷やせとまで指示させている。

TFMボルトアクション・ライフル銃を構えてニーリングの射撃ポジションで発砲する体勢となり、スコープを覗くと別荘で発生させた火事の勢いは一時よりも相当弱くなってきており、敵をブラインドしていた炎も徐々に縮小してきているので、間も無く手練れな人物の正体も判明することになりそうだ。

その時、0時の方向から割と強い風が吹いてきたので別荘を包んでいる炎が幾らか小さくなり一瞬ではあったが敵の姿を捉えられたのだが、その正体は俺からすれば以外な人物でしかない。

それと言うのも、敵は年配の男性で身に着けている服装も執事のような感じの服装だったように見えたのだ。

確かに、この別荘を最初に偵察した際にも執事の存在は把握していたが、別荘の全ての窓には白いレースのカーテンが引かれていたことで、室内に居た連中の顔までは鮮明に見ることはできなかったためにルシェンコ・ボルツォフやボディガード達に注意を払っていた関係もあるので、ある意味で執事は全く盲点になっていた。

しかも、炎が弱まった瞬間に見えた執事の表情は決して戦闘に関して素人のような急な銃撃に怯えた感じではなく、落ち着いた鋭い眼光をしている。

一瞬ではあったが、目に映った執事の印象は若い頃は軍隊の特殊部隊に所属していた経験がある手強い本物であるという風に感じられ、一筋縄で始末できそうな相手ではないと判断できる。

しかし、相手に軍隊経験があるからと言って予定していた作戦プランを急遽変更してみたところで、俺にとって新たな作戦に変更してみても勝機が見出せるわけでもなく、とにかく最初のプラン通りに持久戦へ持ち込み、相手が焦ってボロを出すのを待つしかない。

先ずは、相手に俺より先に弾薬を消費させて少しでも俺が有利になるような展開に持ち込む必要がある。

そのためには、姿が見えた炎の近くへ発砲してやって相手にも応射させることで1発でも多く手持ちの弾薬を消費させるが肝要となる。

ニーリングの射撃ポジションとなって、TFMボルトアクション・ライフル銃を構えてスコープを覗き、相手の近くへ向けて338ラプアマグナム弾薬を発砲する。

狙ったのは、執事の姿が見えた炎の隣に燃え残って黒く炭化している瓦礫にレティクルのセンターを合わせており、「ドォーンッ」という発砲音が響いた後に、着弾した瓦礫の一部が破裂したように崩れ去って細かい火の粉が舞い上がっている。

予想はしていたが、そこには執事の姿はなく更に離れた瓦礫の隙間からアサルトライフル銃のマズルを俺の方へ向けて1発だけ応射してくるのだが、執事が放った7.62ミリメートル弾は、俺が隠れている幹に命中して表面の樹皮を弾き飛ばすので、細かい破片が俺の頭上に降り注いでくる。

相手と銃撃戦となってはいるが、執事の余りにも的確な射撃に思わず苦笑いが零れてしまう。

右手でボルト・ハンドの取っ手を握って、素早く後方へ引いてエジェクション・ポートから発砲した338ラプアマグナム弾薬の空薬莢を排出し、マガジンに装填している次弾をチャンバーへ送り込む。

右手をフォアエンドへ移動させる前に、スリングを右腕に絡めて張り具合を確かめながらフォアエンドを掴んでニーリングでの射撃体勢に入り、執事が現れた場所から更に右側にある炭化した瓦礫をスコープのレティクル・センターに捉えてから、風が吹いていたことが頭を過るが吹いている風の方向は0時から6時であり、完全な向かい風なので弾丸のドロップ量が若干だが多くはなるものの、射程距離が短いうえに1発で決める狙撃を狙っているわけではないので、風に関しては無視して左手の人差し指でトリガーを引き絞る。

相変わらず大きな反動によってTFMボルトアクション・ライフル銃のマズルは40度くらいの仰角に移動するが、直ぐに身体を幹の陰に隠して執事からの応射に備えてから、顔だけを幹から出して別荘の方を見てみると、338ラプアマグナム弾の命中した黒く炭化した瓦礫が大きく崩れ、無数の火の粉が舞い上がっているのが確認できる。

その火の粉が舞っているなか、執事が下から姿を現すと構えているアサルトライフル銃を俺の方へ向けて発砲し、放たれた弾丸は再び隠れいている幹に命中して樹皮を撒き散らす。

撒き散らかされた樹皮が目に入らぬよう目を瞑ってやり過ごし、頭髪に樹皮の欠片が付着したのを感じたところで再び目を開いて、右手をボルト・ハンドの取っ手へ移動させてから操作をして空薬莢を排出し、次弾をチャンバーへ送り込み次の発砲準備が整ったところで再び顔だけを幹から出して別荘を眺めてみると、焼け残っている別荘から執事が勢い良く飛び出したかと思うと、俺が潜んでいる方へ向かって来ているのを目撃した。

跳び出した執事は、直ぐに近くの身体を隠せそうな障害物へ飛び込んだので、俺がTFMボルトアクション・ライフル銃で狙撃できそうなチャンスとはならなかったが、執事も俺が持久戦に持ち込むつもりであることを悟ったらしく、その対抗策として意を決して突撃を始めたうえで距離を縮めたゲリラ戦を展開するつもりなのかもしれない。

確かにアサルトライフル銃であれば、対応が可能となるのは近・中距離となるので接近戦であろうと充分に対応できるが、俺が使用しているボルトアクション・ライフル銃となると中・長距離がメインであるために敵が接近戦を展開してくるような場合は、サイド・アームである拳銃にスイッチして対応しなければ戦えなくなる。

大体、ボルトアクション・ライフル銃の照準に使用するスコープ等は近距離で対象が素早く移動している場合には適切な照準ができないので、仮にボルトアクション・ライフル銃を発砲するにしても拳銃のようなポイント・シューティングのような使い方にしかならないので、ターゲットに命中させるのは至難の業と言って良いくらいに難しいことになる。

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