203
ルシェンコ・ボルツォフの別荘裏手側へ行ってみると、ビバーナム・エデュールという北アメリカで湿った森林や水辺等に自生する落葉低木が生い茂っており、このビバーナム・エデュールは春になると小さな赤い実が熟して野鳥や哺乳類の食糧源となり、更に樹木は小動物等の巣に利用されている。
俺は、そのビバーナム・エデュールが生い茂っている一画からスタンディングの射撃姿勢でスコープを使ってルシェンコ・ボルツォフの別荘裏手の状態を観察すると、丸太造りの小さな物置小屋のような建造物が母屋に付属しており、その付属建造物を仔細に見てみると物置小屋からゴム製のガス管が別荘へ向けて伸ばされているのが分かる。
恐らく、丸太造りの物置小屋のような建造物は別荘での調理や湯沸かし用の燃料となるガスボンベが収納されているのだろう。
この場所から見ると、物置小屋は使われている丸太の1本が直径15センチメートルくらいの太さのように見えるので、この射程距離から338ラプアマグナム弾薬で発砲すれば丸太を充分に貫通して収納されているガスボンベを破壊することは可能であろうし、それによって発生するガス爆発によって別荘自体も上手くいけば火災を発生させることに成功するはずだ。
右肩に担いでいたTFMボルトアクション・ライフル銃を降ろしてスコープの対物レンズ側と接眼レンズ側にある保護用プラスチック製キャップを各々跳ね上げて、TFMボルトアクション・ライフル銃に装着している負い皮であるスリングをハンドガードを握る右腕に巻き付けるようにしてから、スタンディングの射撃姿勢でTFMボルトアクション・ライフル銃を構える。
右腕に巻き付けたスリングの張り具合を確かめながら、構えたTFMボルトアクション・ライフル銃が安定するようにしてからストックに右頬を載せてスコープの接眼レンズを覗き、丸太小屋の中央より気持ち右側にレティクルのセンターが合わさるようにして、頭の中では1発でガス爆発が起こることを願いながらトリガーに左手の人差し指を添えて後方へ引き始める。
「ドォーンッ」という発砲音とマズルから発する衝撃波によって、群生しているビバーナム・エデュールの枝が激しく揺れ、発砲による反動によって左肩から後方へ押されたようになりながらマズルは45度くらいの仰角に跳ね上がる。
「バキッ、ボコッ」という丸太小屋に命中した音が聞こえてきたので、跳ね上がったTFMボルトアクション・ライフル銃を急いで丸太小屋へスコープを向け直して見るが、丸太小屋の中央付近に弾丸が命中して、表面が大きくささくれたようになっているが、ガス爆発等は一向に起こるような気配がない。
丸太小屋には命中したが、弾丸が貫通した際に弾道が逸れてガスボンベに命中しなかったのかもしれないと思い、急いで右手でボルト・ハンドの取っ手を掴んで操作して排莢と再装填を行ってスコープの接眼レンズを覗いて、先程よりも更に右方向へ狙点を逸らしてトリガーに添えている左手の人差し指を第二関節を支点にして後方へ引き始める。
「ドォーンッ」という発砲音が響き渡ると勢い良くTFMボルトアクション・ライフル銃のマズルが上方へ向かうのと同時に、俺の上半身も多少なりとも仰け反ってしまう。
「バキッ、ボコッ」と丸太小屋に命中した音が聞こえたかと思うと、今回は直後に「ドォーンッ」という爆発音が別荘から聞こえてくるのと同時に、300メートル近く離れている俺の方にも熱を持った爆風が吹き付けてくるだけはなく結構な衝撃波が襲ってくる。
狙っていた通りにガスボンベに命中したのは良いが、想像以上に激しい爆発が起こったことに多少なりとも驚きを感じて、別荘の方へ視線を転じてみると別荘の外壁が吹き飛んだだけではなく、全てのガラス窓が窓枠を残して粉々に砕け散っており、室内にあった家具や備品類が別荘の周辺にばら撒かれている。
その様子を眺めていると、室内で何かに引火したのか別荘内の奥の方から比較的大きな炎が立ち昇ると白い煙が次々に沸き上がってきており、その煙も徐々に白色から黒い煙へと変化をして炎の勢いが増してきている。
この様子では、当初の目論見通りに火災を発生させることに成功したようだから、別荘内に居る連中が屋外へ飛び出してくるだろうから落ち着いて狙いを定めていけば確実に全員を狙撃することができる。
改めでTFMボルトアクション・ライフル銃を構え直すが、俺は訓練によって両目照準となっているので、接眼レンズを覗いていない右目によって別荘から飛び出してくる人間を捉えれば、その人物をスコープで狙って狙撃をしていけばボルト・アクションライフル銃であったとしても1人ずつ始末していくのは大して困難なことじゃない。
案の定、TFMボルトアクション・ライフル銃を構えて直ぐに、粉々になって飛び散ったガラス片によって切れてしまったのか顔中を血だらけにした男が上体をフラフラとさせながら両手には銃器を持っていない状態で俺の方に正面を向けて屋外に出てきたのを発見する。
俺は、その男の心臓付近を狙ってトリガーを引き始め「ドォーンッ」という発砲音が響き渡った直後、スコープの接眼レンズを覗いていない右目には狙った男が胸部中央付近に着弾して、背中側から肉眼でもハッキリと分かるくらいに血飛沫を撒き散らして仰向けに崩れ落ちていくのが見える。
その様子を見ながら、反射的に右手はボルト・ハンドの取っ手を握ってボルトを前後運動させると338ラプアマグナム弾薬の空薬莢がエジェクション・ポートから勢い良く排出され、マガジンに残っている次弾をチャンバーへ送り込んで、次のターゲットを探し始める。
次に姿を現したのは、眼鏡を掛けた30代後半くらいの年齢と思われる男でスーツ姿ではあるが、ガス爆発の影響なのか眼鏡はフレームが変形して片方のレンズにはヒビが入り、眼鏡を掛けているというよりも辛うじて顔に残っていると言った方が良いと思われる状態で、着用しているスーツにしても所々が裂けてボロボロになっており、知らない人間が見たらホームレスにしか見えないかもしれない。
俺の方に背中側を向けてフラフラとしているが、別荘の外に出た時点で全身の力が抜けてしまったのか両膝をついて動かぬ男の心臓付近にスコープのレティクル・センターを合わせてトリガーを引き絞ると、上半身を後方へ反らして俺からは見えない胸部辺りから血飛沫を撒き散らし前のめりに突っ伏してしまう。
2人目も突然に狙撃されており、しかも使用されている弾薬が338ラプアマグナム弾薬を近距離の状態で被弾しているので、声すら立てることなく即死状態となってしまっている。
再び、右手はボルト・ハンドの取っ手を握って機械的に操作を行い空薬莢を排出して次弾をチャンバーへ装填して、TFMボルトアクション・ライフル銃を別荘へ向けて狙撃体制を整えると、別荘から立ち昇っている炎が完全に勢いを増しており火柱は高さ10メートル近くにまでなって完全に火事になっている。
その状況で、燃え盛る別荘から転げるように飛び出してきた男は、手にAKM自動小銃を構えており体勢を整えると発砲してくるが、俺の居場所を確実に把握していないので、俺から離れた手前の場位置にしか弾丸は着弾しない。
近くに7.62ミリメートル弾が着弾していていても慌てることなく、俺はスコープでAKM自動小銃を発砲している男の顔の中心にレティクル・センターを合わせてトリガーを引き絞る。
338ラプアマグナム弾薬の大きな発砲音の直後に、AKM自動小銃を発砲していた男の頭部は、射撃レンジでお遊び半分で設置した西瓜に向けて発砲した時のように、周辺に赤い液体が弾けるように吹き飛ばしながら破裂して消失する。
頭部が無くなってしまった男は、発砲を停止したAKM自動小銃を抱えながら仰向けに倒れ込み、頸動脈からは噴水のように鮮血が噴き出して止まる気配がない。
それを右目で捉えながら、右手はボルト・ハンドの取っ手を握って操作すると空となった薬莢がエジェクション・ポートから勢い良く排出され、マガジンに装填していた最後の1発をチャンバーへ送り込む。
ボルト・ハンドを所定の位置へ戻してTFMボルトアクション・ライフル銃を構え直そうと思った瞬間、大きな炎が燃え盛っている別荘から発砲音が聞こえてきたと思った直後に、俺の頭部近くを「ビューン」という不気味な音と共に衝撃波が襲ってくる。




