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デルタのスナイパー  作者: 二条路恭平


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202/210

202

「ボコッ」という至極短い音がしてガラス窓に、直径1センチメートル弱の小さな孔を中心にして蜘蛛の巣状にひび割れができている。

その直後に白いレースのカーテンに赤い飛沫が所々に付着して、ルシェンコ・ボルツォフの別荘のリビングルーム内は動く者が居なくなり暫く静けさに包まれていたが、「大変な事になってますっ」という高齢男性の大声が聞こえてきたと思うと、静かだったリビングルーム内が騒がしくなってくるのが微かに聞こえてくる。

やはり、ルシェンコ・ボルツォフの別荘にも何人かのボディガードが待機していたことが別荘内の騒ぎで知ることができた。

徐々に別荘内は、騒がしくなって別荘の屋上にはAKM自動小銃を持ったボディガードと思われる男が慌てて飛び出してきて周囲の警戒を肉眼で始めている。

既にボルト・ハンドを操作して最初に発砲した空薬莢を排出して、次弾を装填し終えていた俺は屋上に現れたAKM自動小銃を持った男を狙うことにして、スコープを向けるが今度は初弾の時のように水平撃ちではなく撃ち上げとなる関係で、弾道は狙った狙点よりも上方に着弾することになるので、男の臍のあたりにレティクル・センターが合うようにしてトリガーを絞り始める。

再び「ドォーンッ」という発砲音が響くと、屋上の男は心臓付近に着弾したかと思うと背中側から血飛沫を噴き出してAKM自動小銃を放り投げて仰向けの状態で倒れ込んで行き姿が見えなくなる。

放り出されたAKM自動小銃は、2階の屋上から地面に向かって落下すると落下のショックを受け「タンッ、タンッ」と2発だけ暴発して動きを止めて地面に横倒しとなった。

恐らく、地面へバットストックから落下したために衝撃でトリガーが引かれたような状態となってチャンバーに装填されていた弾薬が発砲したのでだろうが、1発目は落下したバットストックが地面と接していた状態だったので、発砲により生じた反動を地面が受け止めたためにボルトの後退がスムーズに行われて初弾の空薬莢が排出されて次弾がチャンバーへ装填された後に、銃器本体が反動によって跳ね上がり再び地面へバットストックから接地した関係で再度の発砲となったが、今度はボルトが後退し始めた状態で、銃器本体が宙に浮いていたタイミングだったためにボルトの後退エネルギーが相殺されたような状態となって、充分にボルトが後退しきれなったため、空薬莢が完全に排出されないままAKM自動小銃内に残って回転不良になったことで暴発が停止したのだろうと思う。

これで3人を仕留めたことになるが、今のボディガードを狙撃したことで別荘内には銃器があることも判明したことになり、そろそろ狙撃位置を変えてしまわねば敵からの集中砲火を浴びることになるかもしれない。

そこで、TFMボルトアクション・ライフル銃には安全装置を掛けてから、屈んだ姿勢の状態で叢から移動を始める。

とにかく、別荘内では急な銃撃を受けたことに加えて出猟へ出掛けたルシェンコ・ボルツォフ達との連絡を取ろうとして混乱状態ではあるかと思うが、別荘内から冷静に外を見ている者が居るかもしれないから油断することなく、別荘内から見付からぬように注意しながら狙撃場所を変更する。

狙撃を行う場合の鉄則は敵に狙撃場所を特定されないことで、特にボルトアクション・ライフル銃での狙撃であれば連射性能に劣ることになるので、今回のように敵が連射性能に優れているアサルトライフル銃を使用している場合では、居場所が敵に察知されてしまえばフルオートによる連射で狙われることになり、圧倒的に俺の方が不利な状態となってしまう。

何れにしても、スナイパーは敵に居場所を察知されないからこそ充分な照準が可能となって精度のある射撃が可能となるので、居場所を敵に察知されないように隠密行動を行うことが何よりも大事なことになる。

今度の狙撃場所は、叢から少し離れた太い幹に隠れて狙撃を行うことにする。

敵には、AKM自動小銃が未だあると仮定すれば使用される弾薬は7.62×39ミリメートル弾薬だろうから、いくら射程距離が250メートルから300メートルであったとしても7.62×39ミリメートル弾薬であれば充分に届く射程距離なので、叢に向けて発砲されてしまうと射手からブラインドには成り得たとしても楯代わりには到底ならない。

だからと言って、中途半端な太さの幹の陰に隠れたとしても7.62ミリメートル弾であれば余裕で幹を貫通してくるので身体を隠したことにはならず、叢で潜んでいるのと大して違いがないことになってしまう。

幹の陰に身体を隠しながら、ニーリングの射撃姿勢となってスコープで別荘の様子を伺ってみると、比較的静かな状態で屋外には誰一人として出てきていない。

こうなると俺の方としても打つ手がなくなってしまっている状態で、動きがないからと言って下手に発砲すれば相手に凡その居場所を教える結果となり、敵からの銃撃を受けるだけはなく、敵が複数である場合には数人が屋外に出て襲撃してくる展開となり、そこへ別荘に残っている人間達が援護射撃を行ってくるようでは完全に敵のペースに持ち込まれて不利な戦局になるのは間違いない。

かと言って、このままの状況にしていても一向に埒が開かないばかりか、膠着状態となって持久戦等にされても俺が不利になる材料が揃っていくだけである。

色々と考えてみたが、この膠着状態を打開するには俺の方から仕掛ける以外に方法がないと腹を決めた俺は、幹の陰でニーリングの射撃姿勢を取りスコープを覗いて別荘の方を見ながら、有効な狙撃ポイントがないかを探してみる。

2階の窓もレースのカーテンが引かれているので内部の詳細を伺うことはできず、しかも別荘内に居る連中は誰1人として窓の近くにはいないばかりか屋上の方も誰も来なくなっているので狙撃を行うというわけにもいかない。

そこで、俺は別荘の裏手側へ移動してみることにして、幹の陰から離れて別荘の裏手へ廻るルートを小走りで移動する。

もし、幸運にも別荘の裏手に調理室用のガスボンベでもあれば、TFMボルトアクション・ライフル銃を使ってガスボンベを撃ち抜けば別荘を破壊することは可能なので、そうなれば建物内に居る連中全員を屋外へ強制的に出させることができ、そうなれば俺も狙撃という手段によって敵を殲滅するという展開に持ち込める。

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